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36/66

35、残されたもの

「すみません、ご足労頂いて。もう少しだけ、お待ちくださいね」


到着するなり、店主は息切れしながら店の奥へと消えていった。


おそらく商談スペースの丸テーブルへ、リコたちは座り、店主を待った。


「だいぶ古……老舗のお店ですねぇ」


店内を見渡し、欠伸を漏らしながらレイナが呟く。

レイナの言うとおり、かなり年季が入っているのだろう。木製の棚も、窓枠も、座っているテーブルも、色褪せて光沢が出ている。


レトロで雰囲気がいいと言えばいいのだが、よく見ると厚く埃が積もっていたり、隅にカビが生えていたりと汚れも目立つ。


店に愛着を持っていたゼドは、面倒くさがりだったけど、きっちり掃除だけはしていたな。


アクセサリー屋の内装を眺めつつも、リコはついゼドのことを思い出してしまうのだった。


「お待たせしました。……ところでレイナさんはどなたですかな?」


小さな箱を大事そうに両手で持ち、店主が戻ってきた。

いきなり名前を呼ばれ驚きながら、レイナは店主の方を向く。


「あの、私ですけど」

「そうですか、貴女が……恋人が亡くなって、さぞお辛いでしょうね」


ワザとらしく店主は鼻を啜ったが、涙は全く浮いていない。


「恋人って?」

「もちろん、トーリスさんです」

「と、トーリスさんが、私の!? 違いますけど!」

「えっ」


強く否定するレイナへ、店主は気まずそうに苦笑を浮かべた。

黙って箱をテーブルの上に置く。


「それは何なんですか?」


痺れを切らしたオリヴァーが、箱を指さした。


「あの、これ……トーリスさんに頼まれたものでして」

「トーリスに?」

「レイナさんにプロポーズするって。婚約指輪なんですけど」


店主が箱を開けると、ふたつの対になった指輪が出てきた。ひとつには割と大きめの、薄ピンク色をした宝石がついている。


「長く付き合っていて、そろそろ結婚を急かされているからプロポーズを……なんてことを、トーリスさん話していたんですけどねぇ」


店主は目を逸らしたまま、言い訳をするように話を続けた。


トーリスなら見栄を張ってそう言いそうだ。店主が嘘を言っているわけではないと、リコはすぐに分かった。


オリヴァーとレイナも同じことを考えていたようで、顔を見合わせ複雑な表情を浮かべている。


「とりあえず、それ引き取ります」


店主が引っ込めようとした指輪を見て、オリヴァーが声を絞り出した。


「まだ金貨を頂いていないんですが……」

「いくらですか?」


オリヴァーは手持ちの金貨を全部テーブルに置くと、足りない分は後日でとツケにして、小箱を片手にしたのだった。


「すんませんねぇ、ありがとうございます」


店の外まで見送りに出た店主を横目に、オリヴァー、レイナ、リコは元の道を歩いた。

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