34、さいごの別れ
首だけになったトーリスは、回復魔法でも教会でも、手の施しようがなかった。
せめて手厚く葬ってやりたい。
そう考えたオリヴァーは、街中総出の葬式を提案した。
硬く閉じられた棺は、クレーン車で運ばれ、ゆっくりと深く掘られた穴へ降ろされていく。
トーリスの名前も知らない街人が、目を閉じ手を合わせるのを、リコはぼんやり見ていた。
「さようなら、トーリスさん」
目の下に深く隈をつくったレイナが、ぼそりと呟いた。
眠れなかった……わけではない。物理的にレイナもオリヴァーもリコも、眠ることができなかったのだ。
リコたちは式のギリギリまで他のパーティの協力も得て、トーリスの身体を捜索した。
しかし指の一本も見つからず、結局式の時間となってしまい、捜索は打ち切られた。
おそらくトーリスはモンスターに首を切り落とされた後、身体だけ食べられてしまったのだろう。
ヒトガタモンスターが寄ってたかってトーリスを貪る。
そんな光景が頭にチラつき、寝不足の胃もたれに拍車をかけた。
すっかり土をかけられ、棺が見えなくなった頃、突然オリヴァーが慟哭した。
「すまなかった、トーリス! 俺のせいで、俺のせいでっ!!」
参列者がぎょっとして距離を置く中、レイナだけは蹲ったオリヴァーの背中を撫でている。
この2人の関係性ってなんなんなのだろう、と改めてリコは不思議に思うのだった。
献花が終わる頃には、ようやくオリヴァーも落ち着きを取り戻していった。
参列者が散り散りに去って行く中、アクセサリー屋の店主がオリヴァーへ近づいてきた。
店主はもう70代を越えている年齢だろうか。僅かに残っている頭髪は全て白く、猫背がちだ。
「お話があります、剣士様。パーティの皆様と一緒に店へ来てもらえませんか?」
店主は白く長い顎ひげを撫でながら、尋ねた。
「俺は構わないが……」
チラリとオリヴァーはレイナのほうを見た。レイナは黙って頷く。
眠たくて仕方のなかったリコだったが、頷きざるを得なかった。
「ありがとうございます」
店主は謙虚に身を縮め、一度深々と頭を下げると、向きを変えて歩きだした。
「何か買ったんですか?」
「いや、心当たりない」
リコより少し前を歩いていたオリヴァーとレイナが、振り返った。
2人と目が合い、リコは慌てて首を横に振る。
武器をデザインしていたリコとしては、アクセサリーにも興味があった。
けれどダンジョンと引きこもりメインのリコにとって、アクセサリーをつけて行く場はなかった。
モンスターへ効果のあるアクセサリーがあることも知っていたが、どれも気休め程度だ。
むしろダンジョンでは、いざというときにアクセサリーが足枷になってしまいそうで、つけて行く気にはならなかった。
まぁ、でもタダでくれるというのなら、貰ってもいいかな。
わざわざ声をかけてきた店主へ、リコは微かな期待を寄せていた。