表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/66

2、軽くパワハラ

「そろそろ行かないと、オリヴァーさんお待ちかねですよ」


レイナの呼びかけで、リコは慌てて両手を上げた。


「どうかしましたか、リコさん?」

「あ、いや、虫が……ね」


そして行き場のない手を振ってみたが、余計に怪しいだけだった。

衝動的だったとはいえ、仲間に闇魔法を使いそうだったとは口が裂けても言えない。リコは手をぶらぶらさせながら、置きっ放しの宝箱へと向かった。


「それにしても、さっき倒したヤツといい……ここはヒトガタばっかだなぁ」


トーリスが気怠そうに、大きめの独り言を呟く。

お前は倒していないだろ、とリコは心の中で突っ込んだ。


「ヒトガタってさぁ、ギリヤれそうな気すんだよね、ギリ。あ、女の子に言ってもわかんないか?」


下卑た笑いを漏らし、トーリスは続ける。その視線は完全にレイナへ向いていた。

何も答えられず、困った笑みを浮かべているレイナを哀れに思いながら……しかし助ける方法が思い浮かばず、リコは先へと進んだ。

一刻も早く暗くて淀んだダンジョンから脱出して、胸いっぱいに新鮮な空気を吸い込みたかった。


地上へと続く階段を上るほど、視界は明るくなっていく。

後少しで外に出られる……宝箱を抱えたリコの両腕は重みで千切れそうだったが、高揚感から足取りが軽くなった。


しかし出口の真ん中で、太陽を背に仁王立ちしているオリヴァーが見えてくると、一気にリコのテンションは急転直下した。


「……遅い。宝箱ひとつに、何時間かかってるんだ?」


そして成り行きとはいえ、リコは先頭を歩いていたことを後悔した。

オリヴァーの苛立ちは、真っ先にリコへと向けられたのだ。


「こいつのせいですよ。まーたモンスター確認せずに、突き進んじまうもんだから……死にかけて」


トーリスは魔導書の角で、ちょいちょいとリコを突いた。


「はぁ!? 死にかけた? 誰が?」

「だから、こいつ。リコ」


オリヴァーは肩を震わせ、怒りに満ちた表情でリコを見下ろした。

今すぐ消えたい。そんなことを思いながらリコはただただ、オリヴァーの前で身を縮めるしかなかった。


「大げさですよ、トーリスさん! モンスターにちょっと足を取られただけじゃないですか」


レイナが間に入ってくると、オリヴァーは鼻を鳴らしてリコから目を逸らした。


「……後でメロウィを確認する」


今日はレイナに助けられてばかりだな。

そのことを申し訳なく思いつつも安堵すると、リコはオリヴァーへ手持ちのメロウィを差し出した。


魔法石であるメロウィは、持ち歩いた者の映像を俯瞰で記録する。

ダンジョンに入る冒険者は皆、このメロウィを持ち歩くことを義務付けられていたのだった。


「もう帰っていいですか? 俺疲れちゃいましたよ」


続けてトーリスも、オリヴァーへメロウィを投げ渡した。


「他に宝箱は?」

「ないない。いっちばん奥の地下まで行ったけど3つだけ。なぁ?」


リコとレイナは顔を見合わせ、頷いた。

本当はまだダンジョンには奥行きがありそうだったが、壁しかないと断言するトーリスを信じて……というよりは否定するのが面倒くさく、引き返したのだった。


「わかった。それじゃ、今日は解散」


オリヴァーはトーリスの言葉を疑うこともなく、さっさと6つの宝箱を台車に乗せると、酒場へ向かっていった。クエストを終えたことを報告するのは、いつもパーティリーダーであるオリヴァーの役目だった。


「細っかいよな、あいつ。どうせいくつ宝箱運んだって大して報酬は変わんねぇのに」


オリヴァーが見えなくなってから、トーリスは吐き捨てた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ