28、新しい友だち?
レイナはゆっくり足を止めると、額の汗を拭いながら微笑んだ。
「ゼドさんはリコさんに怒っていないと思います」
「い、いやいや〜。レイナさんは師匠を知らないから……」
「だってリコさんは、ゼドさんの言う通りに行動しただけじゃないですか。むしろゼドさんは自分の言葉を後悔しているかもしれないですけど」
「あの人は後悔するような人じゃありません」
「んー……でも心配はしてるんじゃないですかね。やっぱりリコさんから連絡してあげるべきですよ!」
心配……しているだろうか、師匠が。
リコはふと、短刀を熱していた途中、火花が飛んで火傷をしたときのことを思い出した。軽い火傷だったにも関わらず、ゼドは急いで氷を持ってきてくれたのだ。あまりに慌てていたため、途中で転んで氷を全部ひっくり返してしまったのだが……余程のことがない限り万年床から動かない彼が、心配をしてくれたことが嬉しかった。
そんな一面があったことも、リコは今まですっかり忘れていた。
「ありがとうございます。レイナさん」
「えっ!? あはは、お礼言われるようなことは何もしてないですよ!」
照れ笑いながらレイナは、再び歩き始めた。
もしかするとニセモモみたいに……いや、それ以上にレイナとは友だちになれるかもしれない。リコは胸の中が暖かくなるのを感じた。
「それにしても、全然トーリスさん見つかりませんね」
友だち、と意識することが気恥ずかしくなると、リコは話題を変えた。
「ですねぇ。トーリスさんがいた痕跡すら見当たりませんし、ルートが悪いんですかね」
「本当に見つかるんですかね?」
「え?」
「ほら、こんなに見つからないと、ノアさんの話思い出しません? オリヴァーさんに殺されちゃったのかも。なーんて」
レイナは目を剥き、恐ろしい形相に変わった。
「オリヴァーさんはそんな人じゃありません!」
あ、やっぱり仲良くなるの無理かも。
急激に全身が冷えていくのを、リコは感じた。
「ご、ごめんなさい。ただ、オリヴァーさん怖いですけど、本当に仲間の命を大切に考えている方なので」
「すみっ、すみません。私も……ふざけ過ぎました」
リコは軽率な発言をしてしまったことを、深く後悔した。
いつも相手のパワハラを責めてばかりだったが、もしかして自分にも問題があるのだろうか。無意識に他人を怒らせてしまっている……?
気持ちが落ちるにつれて足取りも重くなっていく。前を歩くレイナと距離が空いているのに気がつき、リコは慌てて追いかけたのだった。
ズォォ、ズゥゥ
会話もなく静かなダンジョンを歩いていると、どこからともなく、地の底から響くような音が聞こえた。
レイナも足を止めて、聞き耳を立てている。
「リコさんにも聞こえてます?」
声をひそめ尋ねるレイナへ、リコは首肯した。
「近づいてみましょうか」
「えっ!? モンスターかもしれないですよね!?」
「いや……多分」
ズゥゥ、ズォォォォ
また音が響く。
レイナはクスッと小さく笑った。
「トーリスさんだと思います」