23、血の宝箱
部屋に戻ってから、どっと疲れが押し寄せてきたリコは、遅かったねと言うニセモモのことも無視して眠りについた。
目を覚ましたときにはもう深夜で、頭の奥がズキズキと痛んだ。
「おはよう、リコ。大丈夫? 調子悪いの?」
ニセモモの優しい声に、リコは首を横に降る。
「嫌なもの見ちゃってさぁ」
そしてリコはゆっくり、レイナと回収所へ行ったことをニセモモに話した。
「それは大変だったね、リコ」
「本当だよ。私、今日のことでよくわかった」
「何が?」
「パワハラはどこにでも存在するんだって。いや、どこにでも存在するけど、私はまだマシなのかもしれない。怒鳴られてるけど、殴られてはいないし。でもさ、おかしくない? 同じ人間なのに、虐げる側と虐げられる側がいるなんてさ。絶対におかしい。命懸けでダンジョン行くのもおかしいけど、それ以上にパワハラのある世界はおかしい!」
「リコの言いたいことはわかるよ、でもさ」
「何、ニセモモは私が間違ってるって言いたいの!?」
「ううん。そうじゃなくて、それよりも宝箱の血のこと……気にならない?」
ニセモモに指摘されて初めて、リコは宝箱の血を意識した。もちろん、忘れていたわけではない。だけど衝撃的すぎて自然と脳が、深くそのことを考えないように、シャッターを下ろしていたのだ。
「あぁ。うん、まぁ気になるけど。あれ、なんだったんだろう」
「どれくらいの血の量だったの?」
「そりゃ、もう、ドバッとだよ。蓋を開けた瞬間にドバッと溢れて、地面にまで血溜まりが…。あ」
改めて思い起こして、リコは恐ろしくなった。あの出血量……もしも人間のものだったら、きっと生きてはいないだろう。
まさかハリーさんは、人を殺してあの中へ?
「ねぇ、リコ。ハリーさんが怒ってたのってさぁ、その中身が絶対に見られたくないものだったからじゃないかな……ワン」
ポツリ、とニセモモがリコの考えを代弁するように呟いた、その瞬間。
ドンドンドンドンドン!
激しく部屋の扉が打ち鳴らされた。
「ひぃっ!?」
「まさか、ハリーさん?」
「いやぁ! 無理無理無理! ニセモモ、なんとかしてよっ」
「えぇー……ここまで連れてきてくれないと、ボクは何もできないワン」
ドンドンドンドンドンドンドンドンドン
2人が話している間にも、扉の音は鳴り止む気配がない。
「リコ、扉壊される前に出た方がいいかも。いつでも魔法が使えるようにしとくワン!」
「う、嘘でしょ……」
ニセモモの言うとおり扉をぶち破られて、先制攻撃を仕掛けられるのは恐怖でしかない。それならやられる前にやるしかないのか……リコはしっかり両手に杖を握りしめて、扉に近づいた。
ハリーさん、今日見たことは誰にも言いません。だから許してください。と、しっかり頭の中で話す言葉をシミュレーションしながら。
「お、お待たせしましっ、あ、えっ!?」
一気に扉を開き、リコはぽかんとした。
目の前に立っていたのはオリヴァーだったのだ。