17、回収所訪問
回収所だと聞いて工場のようなところを想像していたリコだったが、レイナとともにたどり着いたのはどこからどう見ても牧場だった。
広大な敷地に柵が建てられ、その広さにしては少なすぎる数の牛が数頭、草を食んでいる。
柵の奥で干し草を運んでいるオーバーオール姿の大男は、レイナに気がつくと笑顔で両手を振り近づいてきた。
「わざわざ来てくれてありがとう。あれ、君は……」
深くシワの刻まれた目尻の奥で光る、目の優しさにリコは安堵すると、慌てて頭を下げた。
「同じパーティで闇魔法使いのリコさんです」
レイナが紹介をすると、大男はその細い目をさらに細くした。
「話は聞いているよ、リコさん! 新人なのに頑張ってるみたいだね。私はハリー。宜しくね」
いや、昨日辞めさせられそうになりましたよ、とは言えずにリコは曖昧に笑った。ハリーはリコより何倍も嬉しそうに笑って、うんうんとしみじみ頷いていた。
「いつものだよね。レイナさん。とりあえずふたりとも、事務所にどうぞ」
牧場の奥でぽつん佇んでいる、牛舎に併設されたボロいプレハブへリコとレイナは通された。
中は雑然としており、黄ばんだ紙やらカビの生えた木箱やらが人の高さまで積み重なっている。
ハリーは机の上を占拠していた、汚れた皿たちを腕で雑に隅へ追いやると、リコたちに座るよう促した。
「はいはい。ありがとう……おーい、ノア。水みっつ!」
レイナから書類を受け取った後、ハリーは部屋の奥に向かって声を上げた。少ししてからギィ、と軋んだ音を立てて扉を開け、若い青年が出てきた。左手にはコップを乗せたトレイを持ち、ボサボサの髪に上下大きめの麻服で、見るからに今起きたような風貌だった。
「おはようございます、ノア!」
声を弾ませ、レイナはキラキラした目で青年……ノアを見ていた。
「んぁ、おはよ」
ノアは欠伸を噛み殺して、腫れぼったい目でレイナへ一瞬だけ視線を向けた。
「お前、お客様になんて挨拶だ……ごめんね、レイナさん」
「いえいえ」
もうレイナにハリーの声は届いていないのか、ぽーっとノアを見つめて生返事だ。
「うちの愚息のノアです。こちらはレイナさんところのパーティの、リコさんだ」
「あぁ、そっすか」
さほどノアは興味のなさそうに呟くと、頭をかきながらテーブルに水を並べていく。
レイナはそんなノアの、動作ひとつひとつまで凝視していた。が、目が合いそうになると、慌てて頬を染め俯いてしまうのだった。
レイナは完全に乙女の顔だ。
「それじゃ、サインしてくるから。ごゆっくりどうぞ」
ハリーが扉の奥へと消えてしまうと、ノアは当然のようにレイナの隣へと座ったのだった。