13、人とはいえない
「リコさんから、ニーアさん……でしたっけ? 紹介されたときも、ずっと彼女俯いてて、黙り込んでいたように私には見えました」
そんなバカな。
ニーアは一度も俯いてなんかいない。最後の瞬間以外はずっと明るい笑顔と、よく通る声で、話をしていたはずだ。
レイナとの認識の違いを不思議に思うよりも、リコは背筋が冷たくなるのを感じた。
「そ、そうだ。それじゃあ、これ見てくださいよ!」
リコはすぐさまポケットのメロウィを取り出した。呪文を唱えると手のひらのメロウィは、ポゥッ、と小さな光を放つ。
輝くメロウィのたいらな表面には、リコとレイナがダンジョンに入ってからの映像が映し出された。
「リコさんとふたりで嬉しい」と言うのを聞きトーリスは肩を落としていたが、レイナが狭い穴を潜るところま、で特に引っかかるところはなかった。
しかしその後少し経って現れたニーアは、リコが記憶していたものと全くの別人だった。
ボロボロの服を身にまとい、髪もぐしゃぐしゃに乱れ、丸めた背筋にぐったりと垂れた首の異様な姿をしていた。
「ヒトガタ……じゃね?」
ポツリと、トーリスが呟く。
リコは瞬きも忘れて、映像に見入った。
それからも不思議なことは続いた。
確かにリコとレイナの話し声は入っているのだが、ニーアの声だけがごっそり抜けている。
それもニーアは話をしている素振りすら見せていない。じっと俯き、頭を左右に揺らして、ふらふらと歩いているだけだった。
『大丈夫ですか?』
途中で問いかけたレイナの真意に、今更ながらリコは気がついた。
レイナは延々とひとりで話し続けるリコを心配していたのだ。
映像を見ていられなくなったリコは、両手でメロウィを包み込んだ。
「すみません、ボクがもっと早くに、ニーアさんの声が聞こえていないって言えば良かったですよね。けど、リコさんには声が聞こえてるのかなと思うと、失礼かなって……それでなかなか言い出せなくて」
「ち、違います、私が、その……」
弁明の言葉が思い浮かばず、リコは声を詰まらせた。
パーティ全員が、リコに注目している。
リコは全身にプレッシャーを感じて、水を求める魚のように、口をパクパクさせるだけだった。
「あぁ、そうだ。レイナは何も悪くない。全てこいつのせいだ」
オリヴァーの低い声が、頭上に響く。
リコが顔を上げると、眉間に深く皺を寄せ、目を血走らせて、オリヴァーはリコを見下ろしていた。
今にも喉からマグマを吹き出そうとしている、醜悪なドラゴンの形相だ。
「リコ! どうしてすぐに魔法で解析しなかった!? またぼんやりしていたんだろう。お前のせいで仲間がひとり死にかけたんだぞ!」
オリヴァーの放った死という言葉は、氷の刃となってリコの胸に深く突き刺さる。
ついにリコは、息ができなくなってしまった。
「お前のようなやつは、必要ない!」
リコが世界に、見放された瞬間だった。