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消えた最も病んでる攻略対象③

 あの部屋に戻りたく無い。あんな寂しいところに誰も入れたく無い。


 「アイゼンフート・ガイスト、黒髪の浅黒い肌の男の子。居なかったって言われても僕も忘れてないからねぇ…。僕も知っている人が幽閉とかされるのは寝覚が悪いね。そうだね…何をするつもりで学園に在籍していたのか。なんで偽ってまで在籍する必要があったのかだね。」

 「お兄さまなんか賢そう!」


 リーリエはキラキラした目でルドルフを見つめるが、言葉のチョイスが…ふぅ、とため息を吐いて続ける。

 

 「僕らで探せるかは分からないけど、アイゼンも、二人も自分を忘れない人間がいたら驚くだろうね。その時には二人でこっち側に引っ張り込もうね。」

 「うん!」


 ルドルフはあまーい笑顔でリーリエに言った。リーリエもにっこりと笑い返してくる。やっぱりリーリエは笑顔がいい。


 『あのうそつきのやつ、さがすのか?』

 「あ、イオノ!そういえばなんか君、そんな事言ってたね。イオノもアイゼンの事、覚えてるの?」

 『ようせいにまぼろしはきかないからな。あいつのつれてたの、まだなまえないやつだし』


 僕らのが強い!って感じなのだろう。ミュルクもベルクもまーちゃんも胸を張って『ムフー!』と鼻息が荒い。


 『みるくちゃんもおぼえてるよ!』

 『たらばはしらなーい』

 『きなこしってる。だいふくは?』

 『しってるよ。どやどやにいるもん』

 『どや?れもんどっちでもいい』

 『るどるふー、きょうのおやつはー?』


 みるく(白)、たらば(赤)、きなこ(黄)、だいふく(白)、れもん(黄)…広くも無い馬車の中の圧迫感が凄い。隠れていたのか、出かけていたのかむっちりみっしり出てきた。


 「多いな…いや、ちょっと待て!そこの…白い…だいこん!」

 『みるくちゃんだいこんじゃないもんー』

 「違う!どやどやってどこだ⁉︎」

 『あー。だいふくね』

 「いや、だから…どや…ど…やど?宿!何処の⁉︎」

 『だってー、いおのがー』

 『あ、くろいおっさんのいたとこ!ぼくをつかまえた!』

 「捕まえた…ハーラルト様、騎士団…の近くの宿屋か?」


 たしかにあの時は飽きたイオノはウロウロしていた。しかし、外まで行ってたのか…


 「騎士団の近くの宿屋…コンラートかライナルトに聞いてみるか…リーリエは思い出せるだけのアイゼンの情報を思い出して。」

 「うーん… 隣国のスパイ、テロの首謀者、闇魔法使い…全部ネットの情報なの…」


 栗色の髪をモシャモシャとかき回して唸る。そんな乱暴に扱うと絡んでしまうでは無いかと気が気じゃないルドルフ。


 「ふぬぬぬぬぬ…ぬぬぬ…あ!」

 「何かあった?」

 「甘いものが好き!」

 「ビミョー…」


 ◆◆◆


 「ったく、勝手なこと言いやがって‼︎」


 アイゼンフートは握っていた使い魔を壁に投げつけた。『ギャッ‼︎』と言う鳴き声と共に霧散して消える。短いゆらゆらと怒りが滲む目は闇を溶かしたように暗い。


 -ダメだろう?感情を露わにしては-


 「ああ、兄さん、ごめんよ。」


 -また壊して…ほら、一度戻っておいで。ウチに-


 「でも…」


 -ここはお前を閉じ込めていた国だ。正常な判断が出来なくなったとしても仕方がないよ-


 「ごめん…兄さん…」


 -お前が傷付くのを見たくないんだよ。さあ…-


 頭に靄がかかるように思考がぼやけてくる。そこはかとない幸福感に包まれる…


 -さあ…-


 ああ、そうだ。帰らなくちゃ。そうして××して貰わなくてはいけない。じゃないとまたあの部屋に戻らなくてはいけなくなってしまう…


 『あの部屋』を思い出したアイゼンの額から汗が噴き出てくる。指先は冷え、小刻みに震える…


 幼い頃、突然そこに入れられた。小さな体でも狭い空間…殺すつもりは無かったのか、食べ物だけが放り込まれる。

 ある日、無言で食事を置く手を、子供の力で精一杯掴んだ。必死で掴んでいたからかその手はなかなか振り解けなかったみたいだか、それからしばらく誰も来なくなった。部屋は地下だったのだろう。辛うじて滲み出る水があったが、衰弱死するのは時間の問題だった。元々十分な食事を与えられていた訳では無かったからだ。


 ああ、自分はもう死ぬのだろう…そう思った時に、声が聞こえた。『このままだとこのこ、しんでしまう』、『はやくなんとかしないと…』と。


 そこからの記憶は曖昧だ。高熱で朦朧としている時の様に、断片的な記憶があるだけだ。


 その地獄から助け出してくれたのは『兄さん』だった。兄さんはとても忙しい人で、なかなか会う事が出来なかった。でも会えば優しくしてくれた。忙しい中、時間を割いて。

 兄さんに会うと頭がぼぅっとなって、痺れるような幸福感に包まれた。優しい笑顔で笑いかけてくれた。

 兄さんには使命がある。僕はそれを助けなければならない。その為に命をかけるんだ。僕はその為に生まれたのだから。


 兄さんが呼んでいるんだ。何を置いても早く帰らなくては。早く帰って××して貰って…あれ?何をして貰うんだろう?


お読みいただきありがとうございますm(_ _)m


なかなかに辛い回でございました。_| ̄|○

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