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リーリエ

後半暗いです(T ^ T)

 クリュザンテーメ嬢…クリューの前に皿に乗せたクレープを置く。クリームを間に入れたものではなく、バラの花のように絞り出して、そこにラズベリーとブラックベリーのジャムを掛けている。仕上げに本宅の庭で取れたキラキラ輝く金色の蜂蜜をかけたら完璧だ。

 リーリエはクリームを包んだ手で持って食べるタイプのクレープをすでにパクついている。


 「あなたもどうぞ。」


 地獄の番人みたいな顔をしたクリューの侍女に、にっこりと笑みを浮かべるルドルフ。しがない男爵家令息には必須のお愛想スキルだ。本物の地獄の番人でも使用可能だ。


 「わたくしは…」

 「アメリー、お兄様がせっかく言って下さっているのだから、お断りしないで。」


 番人の面が取れて普通のお姉さんの顔になる。


 「ね?お願い。」

 「そうよ!お兄様のお菓子はプロ並みなんだから!」

 「!本当に…お作りなんです…か?」


 しげしげと見ているところを見ると興味はあるのだろうと、ルドルフはもう一押ししてみる。


 「別のテーブルに用意しますから、一口でも食べていただけませんか?」

 「は…はい…」


 少し頬を上気させて頷くアメリー。

 アメリーの大切なお嬢様から遠過ぎず、気を遣わなくて済むくらい近すぎずの絶妙な位置のテーブルに、クリューに出した物とおなじ盛り付けだ。ただ、果物は先に可愛らしく盛ってある。きっと気を遣うだろうと、話しながらひょいひょいと用意していたのだ。


 一パクリ一


 公爵令嬢と侍女がパァーッと輝くような笑顔の女の子になる。美味しいものは正義なのだ!


 「ね?お兄様のお菓子は絶品でしょ?」


 年相応の女の子らしい笑顔で頷くクリューと、照れたように頬を赤くしてシュンっと姿勢を正しながらも小さく頷くアメリー。

 その顔を見て満足げなリーリエ。


 うちのお姫様からの合格もいただけたようだと一安心するルドルフだった。




 「ありがとう、リーリエ。また遊びに来てもよろしいかしら?」


 公爵家の馬車に乗り込みながら名残惜しそうに振り返ってクリューが言った。


 「うん!いつでも来て!ね?お兄様!」

 「ああ。またおいで。」


 …と、言いつつ、ついクリューの向かいに乗りもうとしているアメリーの顔を見てしまう。

 と、誘拐犯を見るような目つきでリーリエとルドルフを見ていたアメリーだったが、頬を染めて難しい顔をしながら


 「次はちゃんとご予定を立ててからじゃ無いとダメですよ?」


 とクリューに言った。

 一応の合格はいただけたという事だろう。アメリーはクリューの後ににっこりと笑い深々と綺麗な礼をしてくれた。


 走り去る馬車を見送りながら安堵の息を漏らすのは勿論ルドルフ。


 「リーリエ、今度からはお相手の予定の事も考えて、強引に連れて来ちゃダメだよ。」

 「えー、クリュー喜んでたのに。」

 「そんなに口を尖らせてたらつまむよ!」


 メッ!と怒るとリーリエは慌てて両手で口を隠す。そんな顔をしてもダメなものはダメなんです。

 可愛い顔をした誘拐犯は不思議そうに首を傾げるのだった………


  ◆◆◆


 リーリエ・マイヤーは転生者だった。


 幼い頃は何も分からなかった。何かが違うと思っていたが、何が違うのかは漠然としていてモヤモヤしているばかりで…何もかもがしっくり来なかった。

 我儘を言って家族を困らせている自覚はあった。2つ上なだけの兄は困った様な顔でいつも一緒にいてくれた。だが、それも何か違うと思った。

 気づいたのはまた我儘を言って作って貰ったかき氷を一気に食べた時だった。


 これ、知ってる…


 知らないが知ってる。

 

 「かき氷って一気食いするとキーンってなるよな!」


 そんなの知らない。


 「今日晴樹の誕生会でさ」


 ハルキなんて知らない。


 「前にウチに来た横田がさ」


 知らない知らない知らない!全部知らない‼︎


 〇〇はほとんどを病院で過ごしていた。学校も、食事も病院だった。

 病院にいる友達はみんな家に帰って行ったが、自分だけは帰れなかった。一時的に家に帰れても、もはや落ち着く場所では無かった。


 〇〇には兄がいた。幼い頃から病院にいる妹は、『妹』だったのだろうか?母に連れられてやって来る。兄だと言う。そして母と帰る…


 小さい頃にはまだ母がいてくれた。しかし、ある日から母は自分の側に居てくれなくなった。


 母は病気がある娘の為に常に娘の側に居てくれたのだ。しかし、それは兄にしてみたら母はいつも妹の事しか考えていないと思ったのだろう…

 母は兄と来て兄と帰る様になった。兄はいろいろな話をしてくれる様になった。しかし、〇〇には全く分からなかった。


 食事制限があり、外出も出来ず、学校にも買い物にも出かけられなかった。


 年齢が上がって兄が来なくなってからの方が楽だと思った。


 たくさん本を読んだ。難しい本は疲れるからと、薄い、内容のあまり無い本だった。


 ある日、1週間ぶりに来た母は、ゲームを置いて行った。女子高生に流行りのゲームらしい。

 ゲームの中では自由に動けた。学校にも行けたし恋もできた。あまり熱心になり過ぎて体調を崩した時には看護師さんに『取り上げるよ‼︎』と怒られた。


 それ以降の記憶はない。自分は長く生きなかったのだろう。


 そうか。今まで違うと思っていたのはそれだったのか…全部違わないのに…



 兄にギュッとくっつく。


 「もう、リーリエどうしたの?急に赤ちゃんになったのかい?」


 この兄は嫌がらない。絶対自分を嫌わない。

 リーリエはにっこり笑う。するとルドルフもとろける様な笑みでリーリエを抱きしめる。


 「赤ちゃんなら抱っこしてあげないとね。」


 リーリエの世界は何も違わない。

お読みいただきありがとうございます。


自分的には大事な内容なので入れさせていただきました。嫌いな方は申し訳無いです(>_<)

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