初めての実技訓練(リーリエ)
リーリエは今日、とても浮かれていた。兄、ルドルフがリーリエの教室に来るのだ。
実際は新しく得た加護を使う練習の為なのだが、座学と基礎は学習済みなので、新入生のサポートをしに来た体でシレっと練習してみろやとの学園長のありがたいお言葉で実現している。
ちなみにやっぱりダメそうだったらガッツリ一年生からやり直そうか?とのお言葉もいただいている…。
「本日は先生のアシスタントをしてもらう優秀な生徒に来て貰っていまーす。ルドルフ・マイヤー君!」
「…はい…」
当の兄はやっぱり『一年生からやり直し』の呪いの言葉に気落ちしているのか、いまいち元気がない。頑張れ!と言う気持ちも込めて笑顔で小さく手を振って応援する。すると少し元気が出たのかリーリエににっこりと笑い返してくれた。
「リーリエとお兄様はとっても仲良しね。羨ましいわ…。」
「クリューはそうじゃないの?」
確かクリューには5、6歳年の離れた兄がいたはずだ。なんか、ちょっと変わった名前の…あれ?
「…攻略対象…」
そうだ。確か攻略対象だったはずだ。実地訓練の時、クリューは兄を庇って大怪我をするのだ。シナリオのクリューとクリューの兄の仲は良くも悪くもない、共に暮らしながら他人のような関係だったはずだ。
「私の兄は私に興味が無いの。大事なのはヘンネフェルト家…貴族としての外面…。」
そんな面は『ローゼに出会って』無くなるのだが、それはローゼと接点が出来た場合。出来なかった場合は傲慢な公爵家の跡取りのままクリューをいじめるのだろうか?
(ぐぬぬ、許せん。クリュー兄…)
「初心者は危険だから学園以外では使うなっていったろうがぁ‼」
「「「えぇ~‼」」」
突然の怒号。鬼のような形相をしたマルティナ先生が目に入る。いかんいかん、授業に集中と己を戒める。
父は土魔法で国民が使う道路を直す事ができる。兄も造形物を作るのが得意だ。自分も土魔法で、できる事ならみんなが楽しくなるような公園を作りたい!自分が遊べなかった滑り台の、観光名所になりそうな大きなやつだ。祖父の持っている鉱山から滑り降りるのも面白いかもしれない。でもそんなものを作るとなると結構な魔力が必要になるだろう。強度やなめらさかもないといけない。父も兄も驚く様な、そしてみんなが笑顔になるようなものを作ってみたい。
その第一歩なのだ。
「じゃぁ、まず、魔力の確認をしてみます。脇を閉めて、両手を肘から曲げて上のほうに…あ、手は握って、握った手のひらを上に向けてね。リーリエさん、誰かを殴りに行くつもりなのかな~?」
力が入り過ぎたのかマルティナ先生に指摘され、ルドルフが修正に来てくれる。
「もっと力を抜いて、リーリエは魔力は十分だからそんなに緊張しなくて大丈夫だよ。」
兄にそう言われるだけでなんでも出来る様な気がする自分は単純だと思う。
「あ!」
「ね?そんなに力を込めなくて大丈夫だから今の状態をなるべく長く保って見て。」
「うん!あ、はい!」
にっこり笑ってリーリエの元を離れるルドルフ。
「いいなぁ、リーリエちゃんのお兄様。うちの兄と全然違う!」
「なんか大人っぽい!」
令嬢らしく無いリーリエだが、いつも公爵令嬢のクリューと侯爵令嬢のローゼと一緒にいる事が多いので、中々他の生徒から話しかけられる事は少ないのだが、今日は良く声をかけられる。思わずニマニマするが誰かに見られて無かったかと慌てて顔を引き締める。
「えー?そうかなぁ?」
『るどるふはまだまだこどもよ。だって100ねんもいきてないもの』
『えっ?りーりえあに、まだ100さいにもなってないの?』
(いや、人間100年生きるの相当大変だからね?)
教室から少しずつ歓声が聞こえるが、維持するのはなかなか難しい。力を込め過ぎない様、でも抜き過ぎない様…
「ルドルフ先輩、見ていただいてもいいですか?」
「ちょっと待ってね。」
今日は外なのでいつもの席とはバラバラな場所で練習をしている。ルドルフの言いつけ通り、リーリエはヤツから距離を取っていた。なのに兄が捕まった!
それに、リーリエの目にはあの黒い服を着たアイゼンの妖精が兄の周りをぐるぐる回っているのが見えた。
「…あいつ、何する気?」
「え?」
「きゃ!」
リーリエは右手にクリュー、左手にローゼを掴み、兄の元へ!
「ちょーっと待ったぁ‼」
アイゼンとルドルフの間に割り込む。ローゼとクリューはなんだか分かっていない様子だけど、
「わたし達もお兄様からアドバイスを貰いたいですっ!」
と言ったらパァーッと表情を輝かせてウンウンと頷いた。
ルドルフの周りをぐるぐるしていた黒い妖精はリーリエを振り向いて恐怖か嫌悪かすごい顔をしている。
クリューとローゼはお兄様に魔力を集めるのを見てもらって…(指導で)両手を握られてクリューはほんの少し頬を赤らめている様だ。
(ヨシヨシ。いい傾向だよ。)
「クリューとローゼは大丈夫そうだね。リーリエは少々乱暴すぎ。もうちょっと丁寧に…握りこぶしに力を込めてもダメだから…アイゼン君はうまくできてると思うよ。うすく、できる限り平坦に…」
「あ…ありがとうございます…」
『あいぜんのやつ、てれてやがる…まじかよ…』
つい口をついて出てしまったらしい。弱点になるかもしれないと、リーリエはニンマリするのだった…
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