一番チョロい攻略対象と家族会議再び
プロイセン王国王宮の一室。一番チョロい攻略対象こと、王子ヒュアツィント・フォン・プロイセン、プロイセン王国第一王子の自室である。
ヒュアツィント王子の前には身上書が十数通、それとは別に必ずチェックを入れろという花丸付きの身上書が2通置いてある。
クリザンテーメ・ヘンネフェルト(15歳)ヘンネフェルト公爵家長女、加護魔法、聖、火、風。オマケで黒髪、ストレート(ロング)と記載されている。もう一人はローゼ・リッシェ(15歳)リッシェ侯爵令嬢(庶子)加護魔法、聖、水、木。もひとつオマケでピンクゴールド、くせ毛、ロングと記載されている。
絞り込んだら姿を写した魔石が到着するだろうが、今更どうでもいい。どうせ一番重要なのは持っている加護なのだ。ヒュアツィントが火、風、身体強化なので、全く持ってないものになるとローゼ、より強化するならクリザンテーメになる。家柄でいくと間違いなくクリザンテーメだろう。数十通の身上書はそれ以下の加護の者だ。この二人が凄い性格破綻者とか、とにかく体が弱いとかでない限り、その他の身上書は確認するまでもないのだ。
ヒュアツィント自身、15歳で召喚式を受けてからこのような身上書が部屋に持ってこられるようになった。
プロイセン王国では精霊の加護を受ける時期がほぼ決まっている。稀に幼児の頃に精霊に気に入られて加護を受けていたという話も無くはないが、そのほとんどがその力をうまく使いきれず命を落としたとか性格破綻者になったとかより人間から離れてしまい妖精の国に連れていかれた(真偽のほどは定かではないが)と伝わっている。
なので、一応の一般教養が終了した時点で妖精の加護を受ける儀式に参加する。その年齢に達していれば精神に負担をかけることなく加護を使うことができるであろうという配慮なのだ。
王族の婚約者もその加護が決まってから選択する事となる。一応子供が産めるであろう年齢の範囲なので、男の王族の場合は上は10歳くらいまで候補に入る。ヒュアツィントの場合は幸か不幸か、上の年齢ではさほど目を引く加護を持ったものはいなかった。それが、卒業の年に2人も候補が出てきたというのはある意味幸運なのかもしれない。しかも一応右か左かの選択はできるのだ。
ヒュアツィントは大きくため息をつく。クリザンテーメは先王の妹の孫なのでヒュアツィントと親族とも言える。ヘンネフェルト公爵は娘を王族に嫁がせたいと思っているだろう。リッシェ公爵はどうだろう?嫡子がいるのに庶子の娘を引き取った辺り、あわよくばを狙っているのかもしれない。
どちらにしろ、力の分散をさせるのはよろしくない事は分かっている。だから王族はなるべく加護の多いものを何とかして囲い込まなければならないのだ。
願わくば少しでも心惹かれる所が見つけれるとありがたいのだが…
ーコンコンー
「ヒュアツィント様、よろしいでしょうか?」
「ああ。」
侍従の手にはまた身上書らしき紙…そこらにあった紙に書いたようなものの割には大きく重要と書いてある。なんだコレは…
開いてみると…
「リーリエ・マイヤー…男爵家か…」
召喚式に遅れて神殿で行ったのか?神殿から直接持って来られた様なメモ書きのような紙に、加護は聖、土、火、雷…そして、何故か男の名も…
「ルドルフ?」
年齢が書いてないが、双子だろうか?加護が土、氷、木、身体強化…
「…神殿で取り込むつもりだったのか?」
ヒュアツィントはニヤリと笑った…
◆◆◆
「フランク様お手紙です。」
緊急家族会議中、勢い良くコンラートが入ってくる。
「王宮からっス。」
ルドルフとフランクが眉間に皺を寄せて顔を見合わせる。
ルドルフがペーパーナイフをフランクに渡すとフランクは高級そうな香のする手紙を忌々しげに封を開ける。
「…どうしたら…いいと思う?」
まるで汚い物でも触るかの様に親指と人差し指で手紙を摘んで、滂沱の涙を流すフランク。
「燃やしますか?」
『もやす?もやすっていった?りーりえー』
「言ったけどあー!」
「わー!」
「きゃー!」
燃やすのはどうかと…と言おうとした所で『おてつだいー!』と言った妖精が火をつけたのだ。
ルドルフはしれっと、
「妖精が燃やしたのなら仕方が無いのに。」
と言っている。かざした母の手からピョロロロロと水が出て、王室からの手紙を濡らしている。
「水ー!水止めてー‼︎」
「あー‼︎」
騒ぐ両親をよそに、ルドルフは考えていた。案外いい口実になると。勿論どちらともその様な席で話した事は一度も無い。こちらの意思とは全く関係なく送られて来た物でどちらもしがない男爵家としては無下に断る事の出来ない相手だ。
可愛いリーリエとていつかは嫁に出すか、婿を取るかしなければならない。性格は良いが、ショッボイ男であっても婿にさえすればリーリエが食いっぱぐれる事のない様出来ると考えていたが、どっちを選んでも食いっぱぐれる事はないだろう。しかし、まずは奴らの考えを確認せねばなるまい。
リーリエの情報通りならレーヴェンツァーンに決めなければ奴が邪魔してくれるだろう…しばらくはのらりくらりとかわしていくしかあるまい。
「お、お兄様が悪い顔をしている…」
『るどるふ、わるいかお…』
「ル、ルドルフ?」
「ん?リーリエ、母上、どうしたの?」
さっきまでの顔が幻のように“ニコッ!”と笑うルドルフ。
「リーリエ、ヒュアツィント王子にお返事を書いて差し上げて。そうだね…文面は…」
◆◆◆
マイヤー男爵令嬢からの返事は思いの外すぐに来た。内容も『王子様の輝く様なお姿をいつも遠くから憧れておりました』とか『自分は身分が低いので困惑している』とか『自信がつくまで返事を保留にしてほしい』とか…ごくごく普通の令嬢の返事だった。
「やはり、そう面白い女はいないな…」
男爵令嬢、4種の加護持ち…少し期待し過ぎた。早まってしまった感はあるが、まぁ、猶予が出来たと思えば惜しくも無い。
◆◆◆
「チッ!神殿に王の犬でも入っていたか!」
マイヤー男爵家からある高貴なお方からも申し込みいただいているので…となんとも歯切れの悪い手紙が来た。
廃れたとは言え、公爵家からの婚約の申し込みを無下に断る訳にはいかないのだろう。
…そして…
やはり王室も手に入れたいか…ますますタダででくれてやりたくないな…彼女らを先に見つけたのは僕なのだから。
お読みいただきありがとうございます(^o^)
なんだか最近みんな腹黒くなっていくんです…