秘密会議②
「オヤツイエー!オヤツイエー!クッキーケーキジェラートイエー‼︎」
ルドルフがドアを開けるとリーリエが謎の歌を歌いつつ踊っていた…分かっている。僕だけは…だけど抱えきれないものもある…ルドルフがスッとドアを閉めようとすると顔を赤くしながらも走ってきたリーリエがその手を止めた。
「お待ちしてましたわ、お兄様。」
グラスに入っているのはフルーツと色とりどりのゼリー。ゼリーは少し崩してあって、光を当てると空気の粒が宝石のようにキラキラしている。フルーツは今が旬のイチゴとチェリーと粒の大きなみかんである。リーリエはそれを手に取って堪能した後、おもむろにスプーンを突っ込んでパクリと食べる。
「ん~!」
思ったより冷えているゼリーは口の中でやさしくほどける。ちょっと酸味を感じるのはレモンのだろうか?
「ゼリーは紫キャベツだよ。」
「え?」
「初等部の勉強でやったでしょ。酸性とアルカリ性。」
「う…」
まさかのお勉強の話がここで出てくるとは…がくり
ちなみに妖精の分はガラスのボウル入れてあって、ルドルフの目にはボウルの中身が手品のように消えて行ってるのが見えている…
『るどるふー、しょくよくなくすこというなよー』
『いちごおいしー、ぷるぷるおいしー』
『ぷりんじゃないけどぷるぷるおいしー』
こんな風に食われていたのかと若干引き気味で眺めているルドルフ。まあ、喜んでいるようだから良しとしよう。
「氷魔法があればソルベもできるんだけどね」
この世界の生活水準は基本的には明治、大正時代くらい。ゲームの設定がそうだったのかはリーリエには分からない。特に食事の表記や台所のイラストなど無かったからだ。冷蔵庫は大きな氷で冷やすタイプ。日本と違うところは氷は氷魔法を使える人から買っている。氷自体は庶民でも簡単に手に入るものなのだが、物を凍らせることは氷魔法を使えるものにやってもらわないと難しい。
『…できるよ…』
もじもじしながら言う水色の服を着た妖精…ルドルフに『くっついた』と言っていた…
「できるって」
「ん?リーリエが?」
「わたし?」
首を振る妖精。
『るどるふとめるからりーりえにくっつくのやめた。るどるふまだあいてたからるどるふにくっついた』
と緑の服の妖精…こ、これは…
「お兄様に緑と水色の妖精がくっつきました!」
ふんぞり返って言うが相変わらず意味が分からない。多分まずい事をすり替えてしまえると思っているのだろうが全くもって関係ないのだが…しかし、できる→お兄様に緑と水色…
「まさか、便乗して僕、加護が増えた…?」
にっこり笑って大きくうなずくリーリエと妖精たち。頭を抱えるルドルフ。召喚式後に加護が増えることがあるのだろうか?なら、毎年召喚式に参加すれば加護が増えることがあるのだろうか…?
と言うか、緑と水色?
「水色?水?氷?」
『こおり』
「氷だって。」
ルドルフは手の平をじっと見て、そこに少しずつ魔力を溜めてみる。氷の塊をイメージしてみると手の平の上に小さな氷の粒が出来上がり、それはみるみる大きくなっていく…って事は緑って…?とりあえず考えるのを放棄しよう。
「…リーリエ、明日からかき氷食べ放題だよ…」
白く小さな空気が入った氷が出来上がった。さすがにもう少し精進が必要なようだ。
出来た氷を砕いて窓の外に投げ捨て、リーリエに向き直る。
「リーリエ、リーリエは乙女げーむの参加者かい?」
「?わたしはヒロインの親友でゲームの序盤にしか出てこないいわゆるモブよ?」
「じゃぁ、僕は?」
「お兄様は名前しか出てこないわ。」
「僕は今、名前しかない存在かい?」
少し考える。一体お兄様は何を言っているの?
ルドルフを見る。少し癖のある栗色の髪、リーリエと同じ榛色の目。乙女ゲームのデザインらしく優しげなイケメン…でもモブですらない。
モブですらないけどいつもリーリエの事を一番に考えてくれて、荒唐無稽なリーリエの話を聞いてくれて、側にいてくれて、守ってくれて…
「分かった?」
「…うん…」
ポロポロとリーリエの瞳から涙が落ちる。シナリオはどこかにあるのかもしれない。ローゼから見たリーリエはまだモブなのかもしれない。けれど、ローゼがいない時も、攻略対象者がいない時も、リーリエは寝て、起きて、笑っている。
「リーリエが知っている乙女げーむが嘘だとかは思わないけど、自分をそれに当て嵌めて考えるのは、僕はどうかと思うよ。少なくともリーリエを大切に思う僕たちはそれを望まない。」
ルドルフはポケットからハンカチを出して…ちょっと考えた後もう一度ポケットにしまい、指でそっとリーリエの涙を拭った。
「リーリエはシナリオから外れる事を嫌がっているように見えるけど、ローゼもクリューも、すでにリーリエの知ってるシナリオの人物とは違うよね?中身も、リーリエの気持ちでも。」
リーリエをそっと抱きしめて優しくポンポンと背中を叩く。リーリエはルドルフの胸に頭を持たせかけて身を委ねた。まるで赤ちゃんに戻ったみたいだ。
「わたし、クリューのこと、本当に大好きだから、わたしの知ってるお話し通りな出来事がもし起こるなら、クリューの事守ってあげたい…」
「うん。」
「ローゼも大好きなのに変わり無いから、ローゼが不幸になるのも嫌だ。」
「うん。」
「…でも、お兄様も、お父様もお母様も、ライナルトもエルゼも、コンラートもみんな大好き!モブなんて思いたくない。」
「そうだね。」
「なんでわたしが知ってるゲームとこの世界が似ているのか分からないけど…」
「否定はしないよ。知っている情報をうまく使いなさい。信じすぎないように。」
「うん…」
ゆらゆら揺らめくランプの光で栗色のはずのルドルフの髪が金色に見える。
「ルドルフお兄様が一番王子様みたい。」
「光栄だ。」
本当に王子様みたいにニッコリ笑って大事なお姫様をそっと離した。
「疲れただろうに随分遅くなってしまったね。もう休みなさい。」
お読みいただきありがとうございます(゜∀゜)
ル、ルドルフ一体何処に向かっているんだ⁉︎