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かつて僕らは敵だった  作者: 沖野あやめ
2/5

1:僕らの出会い

私アルバはとある国の、魔王が納める領地の端にある、小さな村で生まれ育った人間だ。

魔王と言ってもおとぎ話に聞く勇者との戦いは遥か昔のお話で、今となってはただの領主。魔族の王様という職業でしかない。


魔族の他に獣人、ドワーフ、エルフなど様々な種族が暮らすこの国で、端にあるこの村は全員と顔見知りという狭さがウリの地域だ。

それゆえ同世代は漏れなく全員幼馴染という、どちらかというと閉鎖的な場所なのだが、反対に村の警備は開放的(ザル)である。


特産品などもなく、村の近くでは自生した果物か木しか取れない。

そのせいか村の囲いは丸太を格子状に括っただけだし、腕に自信のある自警団が見回ってるからと、いつまでたっても改善されない。


そんな村だけど、山の麓にあるうえに森と一体化しているからか、やたらと魔物や獣が出現する。

その環境のせいか両親ともに自警団員だからかはわからないが、ペンより早く剣を持った私も言うまでもなく、日々剣を振るのが当たり前の脳筋になってしまった。

これは決して私が勉強苦手だからではない。


基本的な読み書きなどは一応できるし、たまにやってくる行商人や冒険者には旅の話を聞くことが出来るので、それなりに知識もあるつもりだ。

話を聞けば聞くほど旅に出たい気持ちは抑えがたくなってくる。


何かを守るために剣を振るうのは嫌いではないから、いずれ冒険者になって護衛とかも良いかもしれない。

ダンジョンにも潜ってみたい。見たこともない魔道具も出ると聞いたことがある。

しかし一人で行くのはやっぱり不安が大きく、決断するにまでは至っていない。


なんてことを考えながら村の見回りルートを巡回していると、誰かが村の入り口に佇んでいた。

濃紺の長い髪を無造作に結んで背に流しただけの後ろ姿には、見覚えがない。


背は高く、おそらく私より頭一つ分以上は高いだろう。見上げると首が痛くなりそうだ。

比較的軽装だし、商人ではなく冒険者だろうか。


「……端にこんな小さな村があったのか……」


「小さくて悪かったわね、あんた誰よ?」


少し離れた場所からだったせいかかすかにしか聞こえなかったけれど、事実でも一応文句を言っておこう。事実だけど。


私の声に反応して振り向いた顔は中性的で、綺麗という表現が良く似合いそうだ。

切れ長の瞳は琥珀色で、濃紺の髪とよく合っている。


「声が聞こえたんだが、気のせいか」


「ちょっとどこ見てんの!?下よ、下!!」


声をかけてみれば、そいつの視線は見上げる私を素通りし、今しがた私が歩いてきたほうを彷徨(さまよ)っていた。


確かに私は村の同世代で一番背が低いけど、それは私が小さいわけじゃなくて周りが大きいだけだ。

そんな私の思考を読んだかのように明後日を向いていた男がわざとらしく驚いた顔で私を直視した。


「これまた小さい」


「ぶちころがすぞコラァ!!!!」


姿形は良いけどこいつは意地悪な奴かもしれない。

絶対許さないからな。




***




とりあえず一発しばいたけど、村長の家に連れて行かないと。

不審者だった場合は逃げ道をふさげるから村の大通りを通っていく。


「よぉアルバ!また案内買って出てんのか」


「あら男前ね。ルーシー、チャンスよ声かけて来なさい!」


隣の男を見た皆が好き勝手言っているが、いつもの事なので手を振って適当にあしらうことにした。

声をかけてこないまでも、後ろでお姉さま方がきゃーきゃー言っているのがうるさい。


「何も殴らなくたっていいだろ……」


そんな周りを面白そうに眺めながら男は端正な顔に手を添えて、腫れた片頬をさすっている。

ちょっとやりすぎた気もするけど、愁いを帯びた表情が魅力を増している気がして気に食わないので放っておくことにしよう。


「グーじゃなかっただけ良かったと思いなさいよ」


「俺に平手打ちかませるだけでも誇っていいよ。キミ、そこそこ強いよね」


どれだけ腕に自信があるんだコイツ。

あと「キミ」とか呼ぶのやめろ、なんて思いながら村長の家に向かう。

とはいえまだ名乗って無かった気がするし、ついでに名乗っておこうかな。


「そう、じゃあ記念に名前を覚えてもらおうかしら。私アルバっていうの、この村の自警団員よ」


「自警団か、どおりで。入口で何してたんだ?」


「自主的な見回りよ。みんなそれぞれ空いたところの警備に入ったりしてるの。……この村の囲い、あてにならないから」


あまり村の事を詳細に話すのは良くないけれど、この程度は見てわかる事だからついつい話題にしてしまう。

いけない、不満がもれ出てしまっている気がする。


「で、アルバちゃんは俺をどこに連れていくわけ?」


「村長の家。不審者をそのまま散策させるわけにいかないでしょ」


当然不審者ならみんなで袋叩きにするから招き入れているわけだけど、旅人や商人でもまずは皆の目につく場所を通ってから村長の許可をもらうように仕向けている。

明らかな不審者以外はこの方法で選別するのが村の警備の仕方だ。


「なるほど、無言で案内されるのは村長宅か……あ、戻って昼飯買っといていい?」


「よくない。先に挨拶!」


「へーい……」


しょぼくれた姿がしっぽを垂れた犬のようで、意外に可愛らしかったけれど、からかう間もなく村長の家に到着してしまった。


「ついたわよ。この時間だと畑に居るかもしれないからすぐには出てこないかも」


村長の奥さんと息子のお嫁さんが丁寧に手入れしている庭は花であふれていて、門の上には小さくアーチ状に花が伝わせてあるため華美ではなくても見栄えがいい。

この時間の村長は大抵、家の裏にある畑で日向ぼっこをしているから聞こえないかもしれないな。

そう思いながらも一応ノッカーを使って村長を呼んでみた。


「村長、いるー?」


けど、やはり室内には居ないのか返事がない。


「呼び鈴は無いのか」


「こんな田舎にそんな便利なものあるわけないでしょ」


呼び鈴とは来訪者を知らせるためのからくりで、王都や貴族の館であれば最新型の、魔石を利用したものもあると聞いたことがある。


男は小さくお腹を鳴らして、心なしか悲しそうにも見えた。

側について見ているのだから、食事ぐらいは手に入れる時間をあげても良かったかもしれない。


ならば早いところ村長に知らせて挨拶を済ませてしまおう。

そうすれば自分も屋台で食事にありつくことができるのだから。


私は腰に挿していた剣を鞘ごと外すと、壊れない程度に加減をしながら柄の部分で扉を叩いた。


ゴンゴンと4、5回叩いた後、先程よりも少し大きめの声で家の者に声をかける。


「村長~~!不審者連れてきたよ~~」


「えっうそでしょ!?ちょっと待ってよ俺ただの冒険者!旅人じゃん!!」


「どの口がほざいてんのよ」


「ほざくとかやめて、口悪い」


本気で怪しい奴以外は不審者って言っても誰も本気にしないんだから、気にしなくていいのに。


「名乗りもしない奴は不審者で充分だし。私は名乗ったのに」


「誤解だって、タイミング外しただけだよ」


とりあえずはそういうことにしておいてあげようかな。

名乗りたくないとか、名乗れないような名前じゃなければいいんだけれど。

そんなやり取りをしていたら畑の方から村長の息子が顔を出した。


「なんだアルバよ、また旅人拾ってきたのか」


「親切心からでしょ、またって言わないでよ」


皆そろってまたって言う。

旅人自体が珍しいんだからそんなに頻繁じゃないんだけどな。

とりあえず男を村長に会わせてしまおう、私もそろそろお腹が減った。串焼きを食べに行きたい。


「親切心……?俺殴られたんだけど」


「初対面で侮辱するよりは優しいと思うわよ。それよりおじさん、村長いる?」


いちいち反応してられないのでもう適当にあしらおう。

本当ならもっと文句言いたいけれど我慢だ。


「ああ、裏で座って居眠りしてたよ。おいで二人とも」


「アルバちゃんは口より拳が飛ぶんだな…かわいいくせに口は悪いし」


「そんなこと初めて言われたわよ。反射神経が良いと言って頂戴」


くだらないことを言い合いながらおじさんの後ろを男と一緒についていく。

家の裏につくと、壁に沿っておかれたベンチでうつらうつらと舟をこぐ村長の姿があった。


「村長、起きて。アルバだよ」


気持ちよさそうに休んでいる所を申し訳ないと思いつつも、そばに立って軽く肩をゆするとすぐに村長は目を開けてくれた。


「んん……?アルバかい、どうしたね」


「おはよ。旅人が村の入り口にいたから連れてきたよ」


「おや、またかね」


村長は眠そうな目を数度瞬いてこちらに目を向けると、背後に立つ男に改めて目を向けた。


「やあ旅人殿、ようこそ果ての村へ。ここへは何の目的で来られましたかな?」


男は村長の形式的な挨拶に一歩前に出ると、それまで空腹でだらりとしていた雰囲気を引き締めて、初対面の印象からは想像もできない程まともな口上を述べたのだった。


「初めまして村長殿。俺は現魔王の三番目の息子セラータ。兄二人が優秀なため気ままに冒険者をやっていて、ここにはたまたま立ち寄ったんだが……せっかくなのでしばらくの間滞在したい。

許可を頂けるか?」


何言ってんだこいつ。

現魔王って領主でしょ、貴族かよ!

一部加筆修正しました

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