表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神無月の守護者 〜2nd season〜  作者: なまこ
後・神無月
5/54

後・神無月(4)

兎夜達が美術室に集まっていた日の帰り、小春は暗い道を一人で歩いていた。


「やっぱりこの時期になるともう暗いなぁ……危ないから出来るだけはよ帰らないと」

早歩きで前に進んでいく。風が吹くと街灯が点滅して、不気味な雰囲気だった。すると小春は、道の先に誰かいることを見つけた。身長が高く、長い髪をした人が路地裏に入って行く。それを見た小春は

「……! もしかして」

そう言って走って路地裏に近づいた。


路地裏はより薄暗く、視界が悪い。しかし、その暗闇の奥に、ぼんやりと人影が見えた。

「……黒川さん?」

人影の動きが止まる。

「黒川さん、あの……この間は」

「あんた、なんか勘違いしてじゃねぇか」

「えっ……?」

人影は動かず、言葉が続けられる。

「数回あった程度で、気安く話しかけて来るんじゃねぇよ。容易に近づいてくんな」

小春は人影から目をそらす。少し考えてから

「でも、黒川さん……」

と声を出したが、もうそこに人影はなかった。薄暗い路地裏に、冷たい風が吹き抜けていった。


「小春? ねぇ小春ってば〜」

次の日、小春と旭飛は昼休みの時間を一緒に過ごしていた。しかし、小春は心ここに在らずという感じで、あまり旭飛の話を聞いていなかった。

「あっ、ごめん。それでなんだっけ?」

「それで、昨日桃音と制服交換してて、そのまま廊下歩いてたら先生に見つかりかけてマジ焦ったんよ。隠れるために飛び込んだ教室が、運良く兎夜先輩たちの教室で何とかなった〜って感じ! ほんとやばかった〜」

小春は、昼食のサンドイッチをくわえたまま、またぼやっとしていた。


「どうしたん? なんかあった?」

「……ううん、なんでもない」

旭飛が何度聞き出そうとしても、小春はなんでもないとしか言わなかった。そのまま昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り、小春は早めに掃除場に向かってしまった。

「おかしい、絶対なんかある。今まであんなに元気ない小春見たことないもん。ぜーったい、なんかある」

そう言いながら旭飛が席を立って掃除場所に行こうとすると、椅子の上に小春のノートがあった。

「忘れてってるじゃん! ほんと今日ぼんやりしてるな〜小春。あー、挟んでるプリントも落ちそうだし」


旭飛がそう言ってノートを持ち上げると、ノートから一枚の写真が出てきた。

「えっ写真!? なんでノートに写真入れてるの! あっ、さては小春が好きなアイドルのブロマイドか? ライブ外れちゃってめっちゃ落ち込んで、励ましとしてノートに写真入れてるとか!?」

そう言いながら、裏返っていた写真を表に向けると、そこには、小さな子どもと赤ん坊が写っていた。

「あ……れ? なんか全然違った。これはあんまり見らんほうがいいやつやな。そっとノートに戻して後で持っていこっ」

そう言って、旭飛は机の上に小春のノートを置いて掃除場所に向かった。

「……あの写真、写ってるの誰やったんやろ」



***



掃除が終わって五限目が始まる。いつもだったら眠たいな〜って思いながら聞き流すんだけど、今日は眠たくない。……というよりは、昨日の桃音の言葉が気になって眠たくなれない。

守護者の役目はまだ終わっていない……どういうことなんだろう。邪神様を倒して、生贄を捧げずに日々が流れて、もう自分たちを脅かすものなんてないはずなんだけど……。

腕に着けているリストバンドを見る。彼岸町に引っ越してきてからこのリストバンドにたくさん助けてもらった。これから先も、また何か起こるのかもしれない。そう思いながら、軽くリストバンドを撫でた。


ふと、廊下から視線を感じた。こんな時間に誰かが見ているなんて珍しいなって思ってそっちを見る。するとそこには、うちの制服を着ている人が立っていた。なんでかわからないけど、目元がよく見えない。制服からして女性だとは思う。


今は授業中。女子生徒がこっちを覗いているなんて、普通にありえないし、誰かもう一人くらいあの子に気がついても良さそうなのに、誰もそっちを向かない。おかしいなと思いながらその子の方を見ていると、その子は少し口を動かした。何か言ってるんだろうけど、聞こえない。口の形から内容を読み取ろうとしていると

「じゃあ次、歌田」

呼ばれた。やばい、授業全然聞いてなかった。教科書読むタイプのやつだけど、どこから読んでいいかわからない。詰んだ。

「……このページの五行目からだぜ」

前の席の人が小声で教えてくれてた。そのおかげでなんとか乗り切って、先生の注意が俺から外れる。

「助かった、ありがとう」

そう言うと、その人は目立たないようにピースしてくれた。

ホッと一息ついてから、また窓の方を見る。けど、もうあの女子生徒はいなかった。ちょっと人間っぽさがなくて不気味だったな……。


そのまま時間は過ぎていって、下校時間になった。

「ねぇさ、今日五時間目に廊下に女の子いなかった?」

華代とひなみに聞いてみる。なんでかは分からないけど、気の所為で済ませていいような気がしなかった。

「おったかね? そっち見とらんかったけんわからんわ」

「んー、わっちも寝てたからわかんない」

二人とも分からないらしい。俺だけに見えてたとかだったら……? って考えてちょっとゾッとした。けど、こんなところでビビるのはちょっと情けないような気がした。

「そっか。あの人誰だったんだろう」

けど、見てないものに関して長話しても面白くないから、さっさと話題を変えてしまった。


その次の日、彼岸町にある駅が火事になって、しばらく使えなくなったってニュースが流れてきた。

幸い、その時駅にいたのは駅員さんだけで、死者こそ出なかったけど、復旧には一ヶ月かかるみたい。


ふと、昨日の女子生徒のことを思い出した。あの子の口の動き、今になって思えば

「逃がさない」

だったんじゃないかなって。そう考えた途端寒気がした。ただの偶然とか、見間違いとか、そういうのだって思い込むようにはしている。普通に怖いし。

……桃音が言ってたことと関係してなければいいんだけど。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ