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神無月の守護者 〜2nd season〜  作者: なまこ
後・神無月
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後・神無月(3)

週が明けて、俺たちの周りではまた平和な日々が流れ始める。白城の地域では、相変わらず不審な殺人事件が続いているって朝のニュースで言っていた。イワシっちからは「僕は無事でーす。ピースピース」って連絡が来てるから、まぁイワシっちは無事みたいだけど……あいつ一人暮らしだし、ちょっと心配ではあるんだよなぁ。実際に、死者はもう二桁に入ったらしい。

なんだろう、俺だけその危険から逃げてしまったような気分になる。……少し既視感がある。


「とやまる〜、とやまる? 大丈夫?」

華代に声をかけられてハッとする。気がついたら帰りのホームルームが終わっていた。

「あぁごめん! ちょっとボーっとしてた」

「最近またちょっとボーッとしとらん?寝不足やったりせん? どっか悪いんやったら治そうか?」

「いやいや大丈夫! 俺ちょっとぼやっとしてるの好きだからさぁ」

「そうなん? まぁどこも悪くないんやったらいいんやけどさ」

ただ単に、地元とそこにいる友人が少し心配なだけで、いちいち人に言うような事じゃない。俺がボーッとして華代に心配かけるのはダメだな。しっかりしていないと。


ひなみは今日、学校を休んでいた。さっきチラッと携帯を見たら「おはよぉ」って連絡が入っていたから、寝過ごしたんだと思う。ひなみらしくて少し安心する。じゃあそろそろ帰ろっかって二人で話していると、教室のドアが開いて、違う制服の子が飛び込んできた。すっごいびっくりしたけど、よく見たらそれは

「旭飛?」

「あっ! 兎夜先輩と華代先輩! 良かったここのクラスで」

旭飛は、青っぽいセーラー服を着ていた。赤色のタイが目立つ。

「旭飛ちゃん、それ海響高校の制服やない?」

「そうです! これ海響高校のやつです! 友達と制服交換してて……」

旭飛曰く、海響高校から友達が遊びに来てるらしく、制服交換して遊んでいたところ、先生と鉢合わせしそうになってこの教室に逃げ込んできた……ってことらしい。

「あっ! そうそう! 友達が兎夜先輩たちに会ってみたいって言ってたんですよ! 今、その友達美術室にいるんですけど、来ませんか?」

まぁ、俺ら二人とも別に急いでるわけじゃないしってことで、旭飛を隠しながら美術室に向かった。


「これすげぇな……作りが細けぇ。こんなんどうやって作ってるんですか?」

美術室に行くと、粘土で人形を作っている人に話しかけている男の子がいた。制服が雷斗のと同じ感じだから、多分彼は海響高校の子。でも

「旭飛、友達って女の子じゃないの?」

「男の子の友達も来てくれてるんですよ。 大輝ー! ただいま!」

旭飛かそう言うと、その男の子がこっちを向いた。

「おっ、旭飛! おかえり」

大輝と呼ばれたその男の子は、話していた部員さんに頭を下げてからこっちに来た。


「大輝くんだ! 久しぶり! 大きくなったね」

「華代さんお久しぶりです! 高校上がってから会ってなかったですからねぇ」

華代は大輝と知り合いらしい。

「ってことはもしかして、兎夜さん?」

俺の方をキラキラした目で見ながら大輝はそう言う。

「そうだよ。俺が歌田兎夜……ってなんで俺の事知ってるの?」

「雷斗がたまに兎夜さんのこと話してたんで、どんな人か気になってたんですよ。なるほどなぁ」

何がなるほどなのかはちょっとよくわかんないけど、俺のことは知ってたみたい。

「あっ、遅れました! 俺は海響高校一年の亀澤大輝です! よろしくお願いします!」

すっごい笑顔で挨拶してくれた。旭飛と雰囲気が似てる。

「よろしくね」

よろしくって言っただけなのにすごく嬉しそうにしてくれた。明るい子だな。


「ていうかさ、学校って基本他校の人入っちゃいかんやろ? 大丈夫と?」

そう、俺もそれがずっと気になっていた。華代が旭飛立ちにそう聞くと、旭飛が

「大丈夫です! 部長の許可は取りました! ねっ、部長!」

と言って部長と思われる人の方を向く。すると、部長と思われる人はこっちを見てグッドってしてくれた。意外と緩いんだなぁ。


それからしばらく四人で話していると、今度はうちの高校の制服を着ている子が美術室に入ってきた。明らかに雰囲気が違うから、うちの生徒じゃないなってすぐ分かる。

「旭飛ごめんね、遅くなっちゃった」

毛先の色だけ変わっている不思議な髪の毛の色をしたおさげの女の子。その子自身の雰囲気的には図書館とか静かな場所が似合いそうな感じ。

「桃音おかえりー! どうだった? うちの高校」

「うん。こっちの方が校舎新しくていいよね。図書館も綺麗だし、文芸部もあって羨ましいな。そうそう、小春ちゃんにもあったよ。相変わらず、すごく頑張り屋さんだね」

「でしょ? 小春はすごいからね!」

そう話すと、桃音と呼ばれたその子は俺たちの方を見て

「初めまして。私は姫野桃音です。大輝くんと同じ海響高校の一年生で、旭飛ちゃんたちとは昔からの知り合いです」

品があって丁寧な感じで挨拶してくれた。お嬢様育ちなのかなって言うくらい丁寧。ちょっとびっくりした。

「桃音ちゃんかぁ。よろしくね」

華代と桃音が話してると雰囲気がすごく清楚でちょっと俺がいることが申し訳なくなる。でも一応よろしくと言っておいた。


話の途中で、旭飛と桃音は制服を元に戻すために離席した。すると、華代が大輝に話しかけ始めた。

「ねぇ大輝くん。とやまるのことは雷斗から聞いてたって言ってたけど、雷斗、とやまるのことなんて言ってたの?」

「えー? なんだったかなぁ……」

なんかちょっと知りたいような知りたくないような、そんな感じの話題だった。変に緊張する。

「華代さんとよくいる〜みたいな感じで話してましたよ? 気にしてたんでしょうかね?」

それを聞いた華代がちょっとニヤってしてへぇ〜って言ってた。これ、後でからかわれるんだろうなぁ。

「雷斗、若干寂しがってそうな気がしなくもなかったですかね」

大輝がそう言ったのを聞いてちょっと吹いてしまった。

「そっかぁ。今度会いに行ってあげようかな」

「来ますか海響! 兎夜さんも連れてぜひ来てくださいよ! そんときはちょっと部活抜けてくるんで!」

俺が行ったら変な感じになりそうだからできるだけついて行きたくないなって思いながら話を聞いていた。


旭飛と桃音が戻ってきてからもしばらく雑談をしていた。俺は基本聞き役に回って、旭飛と大輝が沢山話す。場に空いた時間はほとんどなかった。

でもまぁ、お友達同士話したいこともあるだろうし、俺らが長居しても邪魔になると思ったから少し早めに帰ることにした。グラウンドに十八時の放送が鳴り響いている。

「じゃあ俺たちそろそろ帰るよ」

「あっすみません遅くまで……来てくれてありがとうございました!」

「いえいえ、こちらこそ楽しかったわ。あと楽しんでね」

「じゃあね華代さん、兎夜さん! 来る時連絡ください!」

華代がはーいと言って手を振りながら美術室を出た。それに続く形で俺も外に出ようとしたその時、目の前から音と色が消えて、周りのものは全て止まってしまっていた。


「……えっ」

前にもこんなことはあった。確かあの時はサナが時間を止めていたんだっけ。けど、サナは見当たらない。

「……華代さん、昔から変わりませんね」

後ろから声が聞こえて振り返る。そこに居たのは

「……桃音?」

「はい、私は桃音です。名前をすぐ覚えていただけるのはとてもありがたいですね」

桃音だけ動いている。けど、サナの時とは違って、桃音にも全体的な色はない。目だけに色が着いている状態だった。


「最初から今日は、兎夜さんと話したくてここに来ていました。……いえ、兎夜さんと呼ぶより、ここでは()()()()と呼んだ方がいいかもしれませんね」

守護者。なんでそれをこの子が知ってるんだろう。

「……知ってるの?」

「はい、なんでも知っています。恐らく、あなたが知らないことも知っていますよ?」

「知らないこと?」

「……覚えてないですか?」

桃音から覚えてないかと聞かれた。けど、何を覚えていないのかがまず分からない。


「覚えてるって、何を?」

桃音は少し考えて

「そうですね、はるか昔の話です」

と言った。必死に思い出そうとしたけど、何も出てこなかった。すごくモヤモヤする。

「その様子だと覚えていないようですね」

「ごめん、ちょっとわからない」

「大丈夫です。ですがそうですね……多分今のままでもいいでしょうが、私も守護者様を助けたいので、一つだけ……」

一息置いて桃音が口を開く。


「守護者の役目は、まだ終わっていませんよ」


守護者の役目が、まだ終わっていない?

「ちょっと待ってそれってどういうこと……!?」

そう言い終わる頃には、目の前にいたはずの桃音が居なくなっていた。止まっていた時間が動き出して、色や音も元に戻っていた。

「とやまるどうしたと? 帰ろ?」

「なんでもないよ、帰ろっか」

横目で軽く見た美術室に、桃音は存在していなかった。



***



屋上に繋がる階段の一番上、鉄格子の一歩手前におさげの少女が座り込んでいた。

「……もしもしお姉ちゃん? 元気?」

「桃音! こっちは元気だけど、アンタ大丈夫なの?」

「うん、大丈夫。あっ、でね? 守護者様達とコンタクト取れたよ」

「ホント!? どう? 覚えてた?」

「ううん、やっぱりダメみたい。時間かかると思う」

「そっか。全くこれだから人間は……」

「大丈夫だよお姉ちゃん。時間はないけど、きっと大丈夫だよ」

「そう、桃音がそういうなら大丈夫かもね。引き続きよろしくできる?」

「うん、大丈夫だよ。お姉ちゃんもよろしくね」

そう言って、電話が切れる音がした。


「……この間は大輝くん置いてっちゃったから、今回はちゃんと戻らないと大輝くんに悪いよね」

そうつぶやきながら、カンカンと階段を下る。誰もいなくなった階段に、鉄格子の隙間から赤い夕日が差し込んでいた。

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