表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神無月の守護者 〜2nd season〜  作者: なまこ
如月
39/54

如月(7)

気がつけばもう、三月になる。やっぱり、神無月を迎えるときと少し心境が似ている。

邪神様の娘によって、三月に、彼岸町は終わるらしい。具体的に何日なんてのも分からない。世界滅亡の予言が流行っている世の中にいる気分だった。

ここの所、精神的に来るようなことが続いた。今からだって、きっとまた、辛いことが待ってる。

そんなことを思うと、今見ている教室の風景が、少し愛おしく思えた。


「とやまるさん、とやまるさん」

「おっ? なんですか?」

「ちょっと遅くなっちゃった、バレンタインです!」

バレンタイン。不意打ちを食らってビックリしている。そうだ、二月じゃん。二月って言ったらバレンタインだったな。全然頭からすっぽ抜けていた。

……うん、やっぱり、今年はイベント事が頭から全部抜けている気がする。

「バレンタイン? ありがとうございます!」

「大した物は作ってないんやけど。ちょっと頑張っていっぱい作ってみたわ。あ、いっぱい作っといてなんやけど、早めに食べてね? 生もの、日持ちせんから」

今開けてしまうと、帰りに崩れてしまう気がして、とりあえず今はカバンの中に丁寧にしまっておいた。


「ねぇ、とやまる」

少し改まったような感じで、華代が俺を呼ぶ。表情は柔らかいままだった。

「ちょっと、緊張する?」

「もうすぐ三月だから?」

「うん。やっぱり少し、怖いよねって」

言ってしまえば、俺が失敗すれば、今度は町一つなくなる。誰も彼もが犠牲だ。けど、単位が大きすぎて、少し実感が湧きづらいこともあった。

「いや、正直、確実にあなたを失うかもって時の方が、怖かったかな」

言ってしまってハッとする。なんか、すっごいキザみたいなこと言ってしまった気がする。やってしまったと思ったら、隣で華代はニヤニヤしていた。

「ふーん、そうですか」

いじってやろうという顔をしていたけど、特にいじってくることはなかった。


「まぁ、たしかに、単位が大きすぎて、わからないよね。まぁでも、今回の役目は」

「負の連鎖を断ち切ること……だしね。それが結果的に、みんなを守ることに繋がるから、守護者……なんだよね」

そういうと、華代は、笑っていた。

「なんだ、すっごく緊張してるなって思ったのに、覚悟決まってる顔と見間違えてしまったみたいやね」

華代は、一息ついてから、意志のある、強い笑顔を見せた。


「とやまるが忘れちゃいかんのは、自分一人で背負い込まないってこと。多分、私以外にも、とやまるがすることを知ってる人はいる。みんな、支えてくれる。絶対に、一人だけで立ち向かおうとしないこと。わかった?」

一人で抱え込まない……そうだね。俺がずっと、一人で抱え込もうとしていたから、それをずっと華代は気遣ってくれているんだ。

「大丈夫。いろいろ、俺もわかったから。危険なところには巻き込めないけど、全部、一人で抱え込もうとはしないよ」

そういうと、華代は、ちょっと安心したような顔をした。

「そっか、ほんとうに大丈夫そう。じゃ、さくっと町一つ……ううん、目に映る世界、救っちゃおっか」

なんの変哲のない、日常的な教室でのワンシーン。それに不似合いな言葉が並んでいる。なんでだろう、少し、可笑しい。


「なんか、ほんとうに世界が終わるみたいだね」

「終わらないよ。だって、とやまるっていうヒーローがいるからね」

「そっか……ヒーローか。カッコよすぎだろ、それは」

そんなに、かっこいいものじゃない。悪を倒して正義を語るような、そんな、正義の味方のお話なんかじゃない。

俺は、きっと、正義や悪なんて言葉じゃ片付かない、そんな、運命を、定めることになるんだ。


その日、家に帰ってから、自分の夕飯の量を減らして、華代にもらったお菓子を食べていた。カップケーキと、トリュフがセットで入っている。今まで何回か、華代の手作りのお菓子を食べたことがあるけど、今日のは特別に美味しかった気がする。


自分がしたこと、ずっと昔の自分がしたこと、この先に自分がしたいこと。全てが重なり合って、今ができている。なんでか分からないけど、あまり、緊張や恐怖は自覚できなかった。


「じゃあ、俺、頑張ってくるから。見ててよね、滋俊」

そういうと、どこかから、それでいいっていう声が聞こえた気がした。


……時は、満ちた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ