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神無月の守護者 〜2nd season〜  作者: なまこ
如月
30/54

如月(1)

日が落ちて、窓の外が暗い時間のホームルーム。

外との温度差で教室の窓ガラスが曇っている。そこを、大きくなった雫が伝って、線を描く。それを眺めて、帰りのホームルームの時間を過ごした。

今日から二月か。この感覚をどこかで味わったことがある。約半年前、九月かな。あの時は……と、感傷に浸りかけたところで、クラスの人達が立った。慌てて俺も立ち上がって、椅子を引く音が少し大きく鳴る。周りの人たちは、そんなに気にしていないみたいだった。


「うーん……」

ホームルームが終わったあと、ひなみは頭を抱えて机に居座ったままだった。

「どうしたの、ひなみ」

「あー、兎夜……ねぇこれどうするべきだと思う?」

ひなみの机の上を見ると、空欄になったままの進路希望調査の紙が置かれていた。

「うーん……」

ひなみは、本来学校なんか行かなくていいから、当然進路希望なんてあるわけがない。けど、俺ら以外からはひなみだって、普通の人間として扱われる。だから書かないといけないんだろうけど、どうしたらいいんだろう。

「前はね、適当にお仕事しますって書いたの。そしたらね、真面目に考えなさいって先生に突き返されちゃった」

「そうだね……先生たちも出来るだけハッキリした答えを出してくれた方が安心するんだろうね」

「兎夜はなんて書いたの? 同じところ書く……」

「え、あぁ俺は」

どう言うべきか、実はあまり人には言いたくなくて。

「あら、二人とも帰らんの?」

俺が言うか言わないかのところで華代が来た。


「あ、ひなみちゃん。進路調査の紙、突き返されちゃったか」

「えうん、華代ちゃんこれどうしよう……」

華代も少し悩んでいるようだった。少し落ち着いて考えてみる。ひなみの進路希望調査は、適当にって書いたから突き返されたんだよな。だったら、具体的に書いてしまえばいいんじゃないか……?

「ひなみ、何か好きなことある?」

「え? うーん、ゲームするの好きだよ」

「じゃあ、ここのこの専攻って書いとけばいいんじゃないかな」

自分が進路希望調査を書く時に調べた知識で、ひなみが選んでいても筋が通りそうな所を選ぶ。すると、ひなみの目が輝いて。

「それ! それだよ兎夜! これで怒られない! ありがとう兎夜〜!」

そう言うと、ひなみはサッとその枠を埋めて職員室に向かった。


「とやまるさん、よく知っとったね、そんなこと」

「え? いや〜なんとなく」

「私にも進路希望教えてくれんの。一体何書いたんよ」

「ひ、秘密で……」

「まぁ、急ぐことじゃないし、教えたくなったらでいいですけどね〜……」

華代の横目が刺さる。別に隠すようなものでは無いんだけど……。

そうこうしているうちに、ひなみが帰ってきた。

「先生いいよ〜だって! 帰ろっ!」

ひなみは、キャラクターのマスコットが着いている筆箱をカバンに詰め込んで、俺たちに袖をパタパタして、帰ろ帰ろ! ってした。華代は、また今度にしてやるよって言いたげな顔をしていた。


「わっ、寒……」

昇降口から出るなり、突風に襲われる。巻いているマフラーがブワッと起き上がって顔に直撃する。痛くもなんともないけど、うわぁーっていう感じ。

「涼しい! 雪降らないかな〜」

寒さで震えている俺と華代に対して、ひなみは昼間よりもイキイキしていた。

「ひなみはやっぱり寒い方が好きだよね」

「うん、すっごく元気になる!」

ひなみは強風に吹かれても、全然平気な顔をしていた。ルンルンで帰っていくひなみを、俺と華代はブルブルしながら追いかけて行った。あまりに寒いから、寒い寒いとしかいえなくて、それぞれの分かれ道に着く頃に、やっと俺達も寒さに慣れた感じだった。


「じゃあね! また明日ね〜!」

ひなみが手をブンブンと振ってくれる中、俺はコートに突っ込んだままの手を少しだけ持ち上げて右左に振った。

二人と別れて一人になったあと、相変わらずたまに震えながら色々考えていた。


自分が何をしないといけないか分かったって、日常は当たり前に流れるし、俺たちは大人になっていく。純粋な高校生としての自分と、守護者としての自分がいる。さっきまでのは、高校生としての俺。

「だから何ってことか」

独り言をボソボソと言いながら、道を進んでいく。三月までに何があるのか分からないけど、俺に出来る最善のことが出来たらいいな……とか、考えていた。





兎夜たちと別れたあと、ひなみは一人で薄暗い田舎道を歩いていた。最初こそ少し機嫌が良さそうな足取りだったが、それは徐々に、動きを止めていった。

「誰かいるでしょ?」

誰もいない田舎道。そこに向かってひなみは尋ねる。しかし、点滅している街灯が道のコンクリートと寂れた住宅を照らしているだけで、誰かが返事をすることはない。

「……兎夜と華代ちゃんのことを狙ってるのかなって思ったけど、こっちに来てくれて良かった。あなたはどうしたいの?」

ひなみは、暗い道の先に向かって話しかけると、次の瞬間、バッと振り返って、吹雪を起こした。

「……誰?」

吹雪いた所に、女子生徒が少しよろけながら突然現れた。女子生徒は、虚ろな目でひなみのことを見ている。


「前に、兎夜が学校で不思議な女の子を見たって言ってた。あなたでしょ?」

ひなみがそう言うと、女子生徒はスカートの中から触手のようなものを生やして襲いかかってきた。ひなみはそれを凍らせたり、氷の壁を作ったりして防ぐ。その間に、ひなみは空中につららを浮かばせて、それを女子生徒目掛けて飛ばす。しかしそれも、空中でバラバラになって女子生徒には当たらなかった。

「……ひなみ、ちゃん」

女子生徒は、うっすらと笑いながらひなみを呼ぶ。ひなみは少し怯んだが、それでも手を止めなかった。


吹雪を起こし、つららを落とし、なんとか女子生徒の攻撃を阻止しようとする。しかし、攻撃は止まない。

「わっちはあんまり、人を傷つけるようなことはしたくないんだけどなぁ……!」

ひなみが手を振りかざすと、女子生徒の足元が凍って、段々とそれが全身を覆っていくように拡がっていく。それを女子生徒はぼやっと見ていた。ひなみが、凍りついていく女子生徒のことを見ていると、突如、女子生徒はニタッと笑った。


「うわっ!」

ひなみの体が急に引っ張られ、ブロック塀に打ち付けられる。ひなみは起き上がろうとするも、体が壁にくっついて動かなくなっていた。女子生徒は、手元で蜘蛛の糸のようなものを引っ張っていた。

「それ、雅之の……なんであなたが使えるの!?」

「……雅之くん。懐かしいなぁ」

女子生徒は、腰辺りまで拡がっていた氷を一気に砕くと、ひなみの方へ近づいた。ひなみは、動かせる右手を動かそうとしたが、少し動いたところで、糸を使って腕を使えなくされてしまった。


「ひなみちゃん、大丈夫」

「来ないで!」

ひなみはそう言うも、女子生徒は足を止めない。

「大丈夫だよ、ひなみちゃん」

一瞬ひなみの体が動くようになったと思うと、女子生徒はひなみを強く抱き締めた。

「ひなみちゃん」

「え……わ、ぁ……」

女子生徒は、ひなみの耳元で何かをつぶやくと、ひなみを離した。ひなみはその場にふにゃふにゃと座り込んだ。


その場には、もうあの女子生徒は居なくなっていた。

寒い冬のコンクリートの上に、ただ、少女が力なく座り込んでいるだけだった。

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