表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神無月の守護者 〜2nd season〜  作者: なまこ
睦月
21/54

過去編 歌田兎夜(1)

「……やくん、奏弥くん!」

鈴の音みたいな女の子の声で目を覚ます。目の前には、少し綺麗な着物を着た女の子がいた。しばらく、目をパチパチさせていると、女の子は笑って

「まだ寝とったん? お日様とっくに昇ってるよ」

と言った。

「……おはよう、カヨ。なんでうちにいるの?」

「奏弥くん、遅いから。イセも待っとるから、はよ支度してきてね」

綺麗な栗色の髪を整えながらそう言うと、カヨは縁側から出ていった。


「……奏弥、着替え。置いておくから」

青髪の少年、滋俊はそう言って、服を丁寧にまとめると、屋敷の奥に戻って行った。丁寧に置かれた服に着替えて、俺は外に出た。

「奏弥様、お出かけですか」

家の遣いが声をかけてくる。

「うん。ちょっとカヨたちと遊んでくる」

「子どもは元気が一番ですからね。どうぞ楽しまれてきてください」

遣いはそう言うと、庭の掃除を始めた。


屋敷を出て、しばらく坂を下って、三つ目の田んぼを左に曲がる。すると少し森に入る道が見えてくる。けもの道を進むと、木の上から枝が飛んできた。スっと避けて、枝が飛んできた方向を見ると、緑髪の少年が悔しそうな顔をしていた。

「チッ、外したか」

木の上から飛び降りてきた彼は、俺をまじまじと見ていた。

「……何?」

「寝癖立ってんぜ。お前よぉ、もう九つ過ぎてんだから、そんくらい自分で気づけよなぁ」

彼が少しバカにしたようにそう言うと、

「イセ! いなくなったと思ってたらやっぱり……。奏弥をいじめたらダメって!」

「い、いじめてんじゃねぇって。遊んでるだけだよ……なんだその顔は!」

ジトっとした目でカヨがイセを見る。なんかイセがタジタジしてるのが面白くて、ちょっと笑ったら、イセが

「笑ってんじゃねぇ!」

って顔を赤くしていた。


森を進む中、動物を見つけてはカヨがかわいいかわいいと言って足を止める。カヨが噛まれないよう見てるけど、イセはまぁ、自分でなんとかするでしょう。そうして放っておいたら、イセは何もしてないのに、野良猫に威嚇されていた。

「花よし、木の実よし。 行こう、白莉が待ってる」

カヨはそう言うと、少し先に走り出した。

「はよはよ!」

それを追いかけて、俺とイセも走った。


森の奥、古びた小屋の中、闇に閉ざされた部屋の奥から、同じ歳くらいの女の子の声が聞こえる。

「よく来てくれたね」

扉がススッとあいて、隙間から、墨で描かれたネズミが二匹出てきた。カヨがネズミに花と木の実を渡すと、ネズミたちはそれを部屋の中に持って帰った。

「カヨが花と木の実をお前にってさ。姿見えねぇけど、元気なのか?」

イセがそう言っている間に、俺は戸の隙間を少し覗いてみた。すると、赤い二つ目だけがゆらゆら揺れている状態だった。どういう人かと、もう一度見てみようとしたら、カヨに怒られた。女の子の部屋の覗き見は禁止!って。


「ありがとう、三人とも。私は元気だよ。ごめんね、こんな山奥まで」

「ううん。本当は一緒に遊べたらいいけど、陽の光がダメだったらしょうがないよね。夜は私たちも寝ちゃうし……」

「うん。でも、来てくれるから嬉しいよ。ありがとう」

白莉の表情は見えない。けど、少し悲しさはあっても、嬉しいって笑っているのが声で伝わる。詳しくは分からないけど、その日光に当たれない病気が治ればいいのに。


「さぁ、君たちは遊んでおいでよ。こう見えても、私は一個お姉さんだからね。少し構って貰えたから大丈夫だよ」

闇の中から、木の実をかじる音がした。

「行こうぜ。長く居座ってたら白莉も気まずいだろ」

イセはそう言って、来た道を戻り始めた。カヨは開いた扉を丁寧に閉めてから

「行こ、奏弥」

とこちらを見た。首を縦に振って、カヨと並んで歩いた。振り返ったイセが、一瞬俺を見て、目を逸らしていた。


来る日も来る日も、昼間はこうやってカヨやイセ、たまに白莉の所に行って遊んでいた。そこそこの割合で、カヨが俺を迎えにくる。俺がなかなか朝起きられないからって言うのもあるんだけど、カヨはそれを面倒くさがったことは一度もない。どちらかと言うと、イセから睨まれる時はある。でも、遊び始めたらイセも楽しく遊んでくれる。俺は、この時間がすごく好きだった。


「おかえり、奏弥。毎日遊んで帰ってきて、夜はアレだろ? 疲れないの?」

「ただいま。疲れるっていうか……まぁこれが当たり前だからな。嫌だと思ったことは一度もないよ」

滋俊は、そうかという顔をしていた。

「滋俊のほうこそ、俺たちがずっと遊んでる間、家の事してくれてるんじゃん。ありがとう」

「いや、これが僕にできる宮代家への恩返しだから。本当はまだ足りないまである」

「いやいや、十分だから。お父様に今度、滋俊とも遊びたいって言っとくよ。そしたら遊べるでしょ?」

「……そういうところ、なんだよね」

よく分からないけど、なんかちょっと嬉しいって思ってる気はした。

「あ、組紐、解れてたから直しておいたよ」

滋俊はそう言うと、広間に向かっていった。食事の準備とかさせられてるんだろうな。


いつもの如く、食事の支度ができた事を滋俊が伝えに来て、食事をとる。そうしてしばらくすると、家の人達が慌ただしく動き始めて、俺もお父様から呼ばれる。

「奏弥、時間だな。お前なら問題ないとは思うが、休む暇はないからな」

お父様と一緒に裏庭に行くと、そこには大量の的が立ててある。

「全部撃ち終わったら、今日は仕事がある。お前の手も借りたい。俺たち手仕込みの武器なんかじゃ追いつかんからな」

「わかりました、お父様」


組紐を抑えて、強く念じる。すると、組紐だったそれは小型の火縄銃になる。それを手触りで確認するや否や、一つ目の的を撃ち抜く。火薬の匂いはしない。体感でリロードと同時に二つ目の的を撃ち抜く。おおよそこれを十五くらい繰り返した。

「全弾的の中心だな。良し」

そう言うと、お父様は弓矢を持って、家の遣いを招集した。月明かりだけが照らしていた裏庭に、提灯の光が集まってくる。

「皆に次ぐ、今宵の妖は暫し凶暴且つ複数だ。毒蛇の妖故に、噛まれると治療の手が回らなくなる。噛まれたら死を覚悟せよ」

それを聞くなり、全員が応え、列になって山奥へと向かった。


山奥へと入り、しばらくすると複数匹の蛇の化け物が出てきた。

「全員攻撃態勢! 」

使いの人たちとお父様は特別な弓を構える。対妖用弓矢。普通に、人間にあたっても死ぬから、危ないと思ったら自分で避けないといけない。

前に五、後ろに三、左右にそれぞれ六。みんな分かっているのだろうか。全員が弓を構えている隙に、一番に動いた妖を撃つ。撃たれた妖は、呻きながら消えていった。全員が矢を放つと、それに打たれて呻く妖と、避けてこちらに来る妖に別れた。こちらに来た妖を開いた口の中を狙って撃って、お父様は残りの妖に向けて矢を放っていた。そうするうちに、妖の気配は消えた。全員の無事が確認されるや否や、俺たちはすぐ帰路に着いた。


「お父様、なんであいつ殺す必要があったんですか?」

「あれは、元々は悪いやつじゃないんだがね、道中人を襲うようになったから、我々が退治しないといけなかったんだ。町の人達や町に来る人、通る人を助けたんだ。普通の蛇なら一般兵でいいんだけどね。こういうのは我ら、祓い屋の仕事の一環なのさ。いずれ奏弥も指揮をとるようになるから」

「和解とか出来ない?」

「低級は言葉が通じない。相手が命を取りに来るなら、こちらも取りに行かなければならない。そういうものだ」

「じゃあおっきいのと話つければいいんじゃない?」

「まぁ、どちらにせよ、種族が違うんじゃ話なんて通用しない。我が身や、我らの大切なものを守るためには、仕方の無いことだ。武士と変わらんよ」

日はまだ登らない。提灯の光が少しずつ弱くなってきた。


蝋燭が照らす自分の寝室に行くと、滋俊が起きていた。

「お疲れ様」

「起きてたの?」

「いや、寝起きだよ。今から仕込みだ。君は今から寝るんだろ? 日が昇る前に寝た方がいい。日が昇ると眠りづらいだろ?」

変なところ心配してくれているらしい。

「早く寝るよ。滋俊、頑張ってね」

そう言うなり、寝床に着く。滋俊の足音が遠くなっていく。


昼前に起きて、遊んで、日が沈んでから家業をする。倒す相手が、人間じゃなくて良かったとは思う。最初のうちは心が痛かったんだ。けど、これを数年、実際に様々な妖を手にかけると、その痛みは少しずつ消えていった。


「奏弥、もうすぐお前も十二になる。そろそろ遊んでばかりじゃ良くない。昼間も修練の時間とする。ただ、二日にいっぺんは自由な時間をやる。そこは有効に使ってくれ」

カヨやイセ、たまに白莉と遊んでいた。その時間は次第に減っていった。カヨは料理や洗濯などの家事を覚えるよう言われたり、カヨの能力で、傷ついた人を癒したりしているらしい。イセは、俺以上に厳しい修練や実戦をしているようで、首から下は常に包帯まみれだった。それこそ、カヨの世話になることもあるらしい。白莉は、よくわからない。けど、最近よく町中で、墨で書かれた馬を見る。そういうことなのかもしれない。


「奏弥くん、今日はおやすみ?」

「ごめん、カヨ。今日は……」

「そっか。じゃあ明日は?」

「明日は休みだよ。遊ぼうか」

年に何回遊べていたのだろうか。数えたことは無かったけれど、歳を追うごとに遊ぶ時間が減って行ったのは確かだった。でも、しょうがないと思っていた、それが、俺たち宮代家と、それぞれ御三家の役目だから。

少し過去の思い出を噛み締めることもあるものの、それはそれで良い人生だったんだと思う。


あの日が来るまでは。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ