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神無月の守護者 〜2nd season〜  作者: なまこ
後・神無月
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後・神無月(1)

あの夜からもう数日が過ぎた。あれ以降、特に不思議なことが起こることもなく、平和に過ごすことが出来ていた。多分、これが普通の生活ってやつなんだよな。半年間、現実離れした事に向き合っていたから、今の環境に新鮮さを覚える。まぁ、すぐ慣れるんだろうな。


「ねぇさぁとやまる」

授業の間の休み時間、自分の机に突っ伏してのんびりしていると、華代の声が聞こえた。

「はーい、なんでしょう?」

軽く伸びをしながら返事を返す。

「そういえばこれ、ずっと返し忘れてたんやけど……」

華代はそう言って、緑色の石が付いたペンダントを差し出した。

「あぁ、そういえばそうだったね。けどそれもう華代にあげるよ。華代のほうが似合うし」

「いいん? 大切なものやないと?」

大切なもの……と言われればそうなんだろうけど、なんか、俺が持っているのは違う。そんな気がする。

「いいよ。むしろ華代に持ってて欲しいかな」

俺がそう言うと、華代はわかったと言って、それを首から下げて、制服の中に仕舞った。


「兎夜ぁ、華代ちゃーん、おはよぉ〜」

ドアの方からひなみが来た。スクールバッグに付いているうさぎかリスかよく分からないキャラクターのキーホルダーが揺れている。

「おはよ〜、今日はいつもより早めやったんやない?」

「えへ〜、ちゃんとお昼前に来たよ? 偉い?」

「えら〜い」

俺と華代がそう言うと

「えへ!」

と言ってにっこり笑っていた。こんな会話をしてるひなみだけど、そういえばひなみも妖怪なんだっけか。自分たちの生活にいる当たり前の存在になっているから、なんにも違和感を覚えなかった。

「そういえばわっち、兎夜達が卒業するまでこっちの高校にいていいことになったよ!」

数日前、ひなみは雷斗から、海響高校に戻るなり、学校を辞めるなり、自分のしたいようにしていいと言われたらしい。もしかしたら海響高校に戻っちゃうのかなとも思ってたけど……。

「学校の勉強はめんどくさいけど、寝てたらいいだけだし。わっちもうちょっと兎夜達と一緒にいたいんだぁ」

そんなことを言われたから、ちょっと照れくさかった。

「じゃあ改めましてよろしくって感じ?」

「うん! 改めましてよろしく!」

そう言い終わった時にちょうどチャイムが鳴って、先生がドアから入ってきた。なんか、すごく平和で眠たくなった。


それから、四時間の授業と午後の授業はだいたい眠って過ごしていた。放課後を迎えて、三人で家に帰ろうとしていると、廊下側の窓から、誰かがこちらを覗いていた。俺が声をかけに行こうとしたら、その前にひなみが声をかけに行った。

「わぁ!」

「うわぁっ!! びっくりした……」

驚く声で、誰なのかすぐに判断できた。

「兎夜ぁ、華代ちゃーん! 旭飛ちゃん来てるよ〜」

旭飛はこちらをみるなり、目を擦ってもう一度こちらを見た。

「兎夜先輩と、華代先輩……ですよね?」

声が少し震えている気がする。

「そうだよ。少し久しぶりだね」

そう言い終わる前にこちらに向かって飛んできた。

「うわぁあよかったぁ!! 二人とも無事だぁ!!」

「あ、旭飛落ち着いて落ち着いて!」

「だって十月に入ってから全然会えなかったんですもん……心配してたんですよ!?」

そっか、旭飛も俺達の事情知ってるから……。

「心配かけてごめんね、もう大丈夫だよ」

そう言うと、よかったと言いながら泣き出してしまった。それを華代が優しく慰めていた。


旭飛が落ち着いてから、あの夜のことを話した。邪神様を倒して、あの昔話に終止符を打ったこと。華代はもう大丈夫だということ。それを聞いて、旭飛はすごく安心している表情を浮かべていた。

「実はあの夜、私達もなにか力になれるかもって、小春と動いていたんですけど、小春と途中から連絡が取れなくなって……」

「そうだったんだ。ありがとう、気持ちだけでも嬉しいよ」

そう言っていると、後ろから声がした。


「随分と楽しそうだね」

「……ゆ、柚希せんぱーい!!」

旭飛が柚希先輩に飛びついた。柚希先輩はしっかりと受け止めていた。

「柚希先輩! もうずっと会いたかったんですよぉ!」

旭飛がそう言うと、柚希先輩は

「私も、旭飛が元気そうで安心したよ」

旭飛の頭を撫でながらそう言った。


「ほんと……皆さん元気そうで安心しました……もう会えなかったらどうしようかと」

「それは大袈裟だよ。大丈夫だっていったろ?」

「だってぇ……」

柚希先輩は近くにあった椅子を借りるよと言って引いて、旭飛を座らせて自分は立ったまま話し始めた。

「君たちも、会うのは約一週間ぶりかな。どう? 疲れてたりしない?」

「いえ全然! 元気にしてます!」

「って言ってますけど、とやまる五時間目爆睡してましたから。とやまる以外は元気ですよ」

「え!? 俺爆睡してたの!?」

「兎夜すごかったよ? 先生が真隣で名前呼んでも起きなかったもん。明日一時間目からその先生の授業だって。怖いねぇ」

うわやっば、やらかした。焦る俺とは対称に、柚希先輩と旭飛は笑っていた。


「あぁ、そういえばどうでもいいんだけど、私、進路決まったよ」

突然、柚希先輩からビックニュースが入った。

「どどどどうでも良くないですよ!? 入試終わったとは聞いてましたけど、結果早いですね!?」

旭飛が喜びと驚き半々という表情をしていた。そりゃそうなるよね。

「うん。本来の予定より一ヶ月くらい早かったみたいだよ。こんなことあるんだね」

これがもし、柚希先輩の実力を見た大学の先生たちが即決したから結果通知が早まったとかだったら……とか考えてしまった。たぶん、それはない……と思う。


「そうそう、あと大学が絵谷君と一緒だったよ。さっき受かったって連絡が来た」

「えっ!? 絵谷ってあの!?」

俺がビックリしてしまった。絵谷冬樹、七月に戦ったあの海響高校の先輩。たしかに、絵は上手かったみたいだし、同じってことも有り得るのか……。

「いやいや、それ以上に先輩! いつから絵谷先輩の連絡先なんて持ってたんですか!?」

たしかに!! なんか違和感あるなって思った原因はそこだった。

「受験会場で会ってね。その時に交換したよ。同じ学校になるかもしれないから〜って」

「えっ! どっちですか!? どっちから交換持ちかけたんですか!?」

「ん〜……確か向こうだったと思うよ」

「はぁ〜なんかいいですね!」

旭飛が目をキラキラさせていた。なんだろう、これが乙女の顔……かな。華代とひなみは絵谷先輩のこと分からないかなって心配してたけど、意外と有名みたいで、二人ともノリノリだった。よかった。


そんな話を続けていると。下校時間のチャイムがなった。窓の外はもう真っ暗で、ガラスが鏡みたいに俺たちを写していた。久しぶりに平和な話で盛り上がった気がして、なんだか嬉しかった。

そんな平和な日々は、束の間の休息に過ぎなかったってことを、この時の俺たちはまだ知らなかったんだ。

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