表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神無月の守護者 〜2nd season〜  作者: なまこ
師走
19/54

師走(5)

「……娘様? 生きてんの? 娘様?」

風でガタガタと揺れる神社の奥、朱花はうつ伏せになっていた。

「……なぁシグマ。娘様生きてんのこれ」

「何を言っているんです。娘様はとっくに亡くなっていますよ。だからこうなってしまわれたのですから」

シグマがそう返すと、キバはため息をついた。

「そりゃ知ってるっつーの。人間から妖怪になったかなんだか知らんけどよ、息してるかも分からんくらいの見た目どうにかならんのかね。オイラも見てて怖ぇよ」

「妖怪が人間の死体を恐れるのも変でしょう。恐らくそろそろ起きますよ」

シグマがそう言うと、朱花はピクっと動いた。

「あっ、動いた」


「あぁ……」

「おはようございます娘様。よく眠れましたか?」

朱花はゆっくりと起き上がると、

「耳痛い」

と言ってキバを睨みつけた。

「はぁ〜!? いやそれ俺のせいじゃねーじゃん! 娘様が変なのに攻撃されただけじゃんか 」

「……キバも失敗した。若草は殺してもいいのに」

「いいじゃん娘様だって塩月食い損ねたんだからさ〜」

朱花とキバが言い合いをしていると、シグマがキバの肩をトントンと叩いた。キバがシグマを見ると、圧のある笑顔をキバに向けていた。

「……アンタの笑顔がいっちばんおっかねぇよ」


「……うん、まぁでも朱花も華代ちゃん食べ損ねちゃった。でも大丈夫。あの子は食べ損ねちゃったけど、色々思いついたし、食べたら絶対人間たくさん殺せる」

ゆらゆらと朱花が立ち上がる。

「さすがですぞ、娘様」

シグマが乾いた拍手をしながら笑顔で朱花を見ている。


「……彼岸町は、弥生の時をもって終了する。最高最悪の苦しみを与えて、この町の人たちを根絶やしにする。何年経ってても関係ない。絶対に、許さない」


強い風が古びた神社を揺らしている。所々天井に空いた穴からは、月の光が差し込んでいた。




「……滋俊、ついにこの時が来たの?」

彼岸町に強い風が吹く中、イワシが住む土地には、溶けかけの雪が降っていた。

「うん。悪かったね、長い間待たせて」

「……別にいいけど」

電気のついていない部屋の中から、乙音は外の街灯の列を眺めていた。それを見てイワシが微笑んで、その場にしゃがみ込んだ。

「ちょっと! ねぇ滋俊!? 大丈夫なの!?」

イワシはカラカラと笑って、

「何言ってるんだ乙音、僕らは最初からそういう契約だ。まぁ、契約がなかったとしても、時間切れは近かったんだけどね」

と言って、咳き込んだ。


「ねぇ、一つだけ聞かせて欲しいことがあるの」

「……なに?」


彼岸町からしばらく離れた住宅地。かつての、イワシと兎夜の思い出の地。溶けかかっていた雪は、本格的に雨になって、古いアパートの屋根を叩いた。


「……あの子が来る当日、アタシは桃音と別のところにいるわ。貴方のことだもの、二人で話したいでしょ?」

「意外と気を使ってくれるんだよね、乙音って」

乙音はキョトンとすると、その後少し顔を赤くして、他所を向いた。

「別に、アンタのためじゃないし……アタシたちが気まずいからだし……」

それを聞いたイワシは少し幸せそうに笑っていた。


「兎夜、もう、年が明けるよ」

全てが終わりを迎えるときまで、あと二ヶ月。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ