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神無月の守護者 〜2nd season〜  作者: なまこ
師走
18/54

師走(4)

「電車乗るのいつぶりかいな。二年になって乗ったかね……」

柚希先輩やひなみと帰ってから約一週間、あっという間だった。二両編成の電車に二人で揺られている。やっぱり景色はちょっと寂しいんだけど

「え! あの人、グレートピレニーズ二匹も連れとる! かわいい!」

グレ……? あ、あのおっきい犬かな? ……という感じで、割と楽しい。


「場所はたしか、白城の三つ先?」

「そうやね。あ、もしかして調べてきた?」

「お察しがいいようで」

なんとなく、どんなところかなって思って調べたら、割と知ってる場所だった。小さい頃に何回か行った場所なんだけど、その時はわざわざ電車に乗って行くことなんてなかったから、少し新鮮な感じがする。イルミネーションがある場所がリニューアルされたみたいで、華代いわく、イルミネーションが豪華になっているらしい。

「乗り換えやね、行こう」

駅に着きますってアナウンスの後に華代が席から離れる。それを見て俺も後を追うように席を離れた。


段々と景色から自然が消えて、人工物が並び始める。クリスマスイブ当日、装飾も人もどんどんと増えていく。電車の中にも人が増えてきたから、華代もあんまり話しかけて来なくなったけど、景色を見ては微笑んでいた。俺はその顔をたまに覗き見るなり、電車内の液晶に映し出される少し懐かしい駅名を眺めていた。そうしているうちに、目的地のアナウンスが流れ始めた。


「うっわ……まだお昼過ぎなのに人多い」

「土曜だし、学校とか仕事とかが休みの人達がいっぱいきてるよね。まぁ、俺達もそのうちの一人だけどさ」

「そうなんよ。でもまぁ行けるとは思うよ。それでね……」

華代はスマホでバスの時間を調べながら、行きたいところについて説明を始めた。まずは、クリスマスに関連するお店が期間限定で沢山並んでいるイベントに行きたいらしい。

「昔こんなのやってたっけ?」

「去年から始まったらしいんよ。去年は人多すぎて身動き取れん状態やったらしいよ」

言われてみれば、前の高校で話題に出たこともあった気がしてきた。去年、自分にそんなこと考えてる余裕なんてなかったんだったな。


バスに揺られて十五分、そこから歩いて約三分。そこには、木でできた屋台が沢山あって、それと同じくらい

「サンタめっちゃいるな」

「そうよ、ここめちゃめちゃサンタおるんよ。見て! 常夏サンタ!」

「オーストラリアのやつまで!?」

クリスマスイベントなだけあって、サンタとかトナカイとかクリスマスツリーとか、飾り物がいっぱいあった。視線を感じて振り返ったらサンタの飾り物がいる……みたいな。


「そう、せっかくここまで来たんやけん一緒に写真撮って行こう? サンタどれがいい?」

どれ!? どれ……いっぱいいるサンタの中から一人を選び出すのは割と難しいな……。正直、華代がこれだって思うやつでいいんだけど、そういう事じゃないことはなんとなくわかる。うんうん言いながら歩き回って、パッと目に入って来たサンタを指定した。

「三人いるやつか! これ空いてていいかも。そこ立って、あーもうちょい寄って? うん、オッケー」

華代のスマホを見ると、加工アプリで可愛い装飾が着いた華代と俺が写っていた。華代の合図でカメラを見る。写真を撮られることに慣れていないから、我ながら笑顔が微妙だなって思う。撮り終わった画面を見るなり、華代が吹き出して、俺に画面を見せてきた。


「ねぇ、見てこれ」

後ろに写っているサンタにも加工が着いて、なんなら俺たちよりも目がキラキラのキュルンキュルンになっていた。

「サンタに主役持ってかれたねこれ」

「ほんとね、最高の写真撮れてしまった」

華代はニコニコしたまま、その写真にお気に入りのマークを付けていた。


屋台には食べ物から雑貨から、色々なものが売られていた。

「あ、ここの雑貨かわいい」

焼きマシュマロを食べながら歩いていた華代が見たのは、硝子細工やクリスマスグッズが売られている屋台だった。

「スノードームとかいいね、めっちゃ綺麗」

「せっかくやけんなんか買って帰ろうかな。ちょっと見るね……」

華代は、電球に照らされた硝子細工やスノードームをじっくり見ていた。あと一口で食べ終わるマシュマロのことも忘れているくらいに。

「すみません、これください」

華代は、家と雪だるまが入っているスノードームを店員さんに渡した。そして、少し気だるげな店員の声とともに、紙袋に入れられたスノードームが華代の手に戻ってきた。

「あ、じゃあこれお願いします」

なんとなく、自分も欲しくなって、パッと見た時から綺麗だなって思ったスノードームを買った。中にトナカイとクリスマスツリーが入っている。

「これ、電源入れたらツリー光りますんで」

店員さんはそう言って、スノードームが入った紙袋を渡してくれた。


「スノードームいいよね、昔持っとったけど割れたんよ。かわいいの見つかってよかったわ」

食べ終わった焼きマシュマロの串を、丁寧にゴミ箱に捨てて華代はそう言った。

「それかわいいよね。俺も昔持ってたけど気がついたら水なくなってたんだよね」

「それは……どっか割れてたんじゃない?」

そんな感じで他愛のない会話をしながら、次の目的地に向かった。


次の目的地は、華代が言っていたイルミネーションがある場所。まだ明るいから、その周りで時間を潰す。百貨店も並んでいるから、主に華代が見たいって言ったお店を回る感じ。俺は寄った文具屋で、好きな配信者とコラボしているシャーペンを買った。これに関してはクリスマス感がない。

華代は、真剣に保湿クリームを見ていた。自分のではなく、両親にあげるものらしい。


暗くなってきたところで、イルミネーションがでている場所に向かう。風景を見ていると、微かに小さい時に見たイルミネーションを思い出してきた。

「ここ、階段登ったら着くけん」

地下から階段を登って地上に出る。すると、そこには懐かしくも新しい光景が広がってた。

「うわ、懐かしいな……来たことあるよこの公園。へぇ、確かにちょっと変わってるかも」

パッと見は変わってないんだけど、よく見ると昔荒かった地面が整理されてたり、新しく花壇が出来ていたりした。

「え、見てこれ。この恐竜のイルミ、動きよるよ」

「へぇ、今どきだと、イルミネーションも動くんですね……」

そんなことを言っていると、後ろをきらきら光る汽車が通って行った。子ども連れの家族がいっぱい乗ってて、なんか微笑ましかった。


その後も、パンダとか、定番のサンタとかのイルミネーションをいっぱい見た。そして、今回一番評判らしい、光のトンネルまで来た。

「トンネル割と長くない? すごいわ……」

そう言いながら、華代は少しずつ先に歩いていった。ちょうど人が少なくて、俺の見える範囲だと、華代しかいない状態だった。星みたいな装飾が吊り下がってる光の道を、華代は、先へゆっくりと歩いていった。

「あ、なんか絵になる」

そう思って俺は、スマホのカメラにその風景を収めてみた。取り慣れてなくて下手くそ。もう一回、シャッターを切ったその時に、華代が振り返った。


「あ」

スマホから目線を華代に移すと、華代がニヤニヤしながらこっちに来た。

「なになに、隠し撮り〜?」

「いや、えっと、なんか絵になるな〜って思って」

特にやましい気持ちがあった訳じゃないんだけど、なんだろう、言い訳してる方がなんかキモイなって感じた。

「こんな感じに撮れてるんだけど……勝手に撮ってごめん」

そう言って写真を見せると、華代は笑っていた。

「むしろ嬉しいわ。撮るの上手やん? 後でそれ送ってくれん? あ、こっちもさっきの送るよ」

……怒っていないらしい。ちょっとほっとした。

その後も、何故かちょびっとからかわれながら光のトンネルを進んで行った。


「わ〜もういっぱい見れたわ。今年の冬は満足やなぁ……ちょっと時間余ったけど」

彼岸町に帰るための電車は先に調べてきていたんだけど、それより一時間近く余裕が出来てしまった。

「帰るのもったいないもんな〜、どっかないかいな……」

華代はスマホでこの辺にあるものを調べていた。俺はそういうのに疎くてなかなかいい場所が出てこないから、華代に任せてしまった。ないないと言いながらスマホを見る華代の横で、俺はイルミネーションで飾られた公園を見ていた。幼いころ、確かに俺もお父さんお母さんとここに来たことがある。色が飛んだ写真みたいで、綺麗には思い出せないけど……。そうやって昔の風景を思い出していると、ふと、ここの公園じゃないクリスマスの光景が浮かんできた。大きなクリスマスツリーがあって、上を見るとキラキラで、鐘の音が鳴っていて……。

華代をチラッと見ると、なかなかに苦戦している様子だった。

「あのさ、華代。ちょっと行ってみたいところがあるんだけど」


イルミネーションが飾られている公園から歩いて少しの所、その辺にある百貨店よりも古ぼけたイメージの商店街。昔ですら古ぼけていたんだから、今はさらに古くなっていた。それでも、当時の風景にそっくりな装飾がされていた。複雑には入り組んでいる商店街を進んでいく。すると

「あった……」

商店街の中心、中央広場に、大きなクリスマスツリーが立っていた。なんの変哲もない、ただの大きなクリスマスツリーなんだけど、昔の記憶に出てきたのはこれだった。

「へぇ、ネットのまとめには一切出てこんかったなここ。とやまるの思い出の場所?」

「そんな所かな? ここは昔と変わってないな」

上を見ると、クリスマスツリーの頂点から大きなリボンや電飾が垂れ下がって、商店街の壁まで伸びていた。しばらくその光景を見ていると、隣でシャッター音が聞こえた。

「お返し。いい顔しとるよ?」

華代は、わざとシャッター音がなるように撮ったっぽい。やられたなとは思ったけど、写真を撮るのが普通に上手で、ふざけ返すでもなく、普通に感服してしまった。華代が少し嬉しそうに笑っているのを見ていると、後ろから知っている声が聞こえた。


「お、兎夜くんじゃん」

「あ、イワシっちと……」

振り返ると、そこに居たのはイワシっちと

「よっ、歌田。元気してた?」

「赤沼さん!」

赤沼さん。高校で戦ったあと、一回も会えなかった。なんなら、山葉高校で赤沼さんのことを覚えているのが俺だけだった。案の定、華代は誰なのか分かっていない顔をしていた。赤沼さんは華代のことも分かるみたいだけど、あえて知らないふりをしているみたいだった。

「よぉ、そっちは初めましてだ。俺は赤沼樹。イワシや歌田の友達なんだ。よろしくな」

「塩月華代です。よろしくお願いします」

華代は少し上品な感じで返していた。


「兎夜くん、イルミネーション見に来る予定ないって言ってたから来ないかと思ってたよ」

そう言われてみれば、前にイワシっちと会った時に、そんなことを言われていた気がする。

「けど、ここなんも変わってないじゃん」

「違う違う、公園の方だよ。見てきた?」

「あぁ、見てきたよ。華代が行こうって言ってくれたからさ」

そう言うと、イワシっちはふぅんと言って

「すみませんね、兎夜くんと一緒にイルミネーション見てくれてありがとうございます。こいつほんと一人だとイエコモリンだから」

「誰が」

「いえいえ、こちらこそ沢山楽しませてもらったので」

華代が丁寧に返事するから、こんなやつに丁寧にしなくてもいいぞと思った。


「イワシっちたちはイルミネーション見た?」

「見た見た。けどイルミが本命の目的ってわけでもないからね」

イワシっちがそう言うと、

「今日さ、ここの商店街で限定フィギュアが発売されててさ。これは買わねぇとと思って来たんだ。無事ゲットしたぜ」

赤沼さんが、すごい笑顔でスーパーヒーローのフィギュアを見せてくれた。なんか、変わってなくてほっとした。

「てかおいイワシ、もうすぐ映画の時間だぜ!? 行かねぇとポップコーン買えないまま映画観ることになる!」

「え? それはいけない。急いで行かないと。お邪魔して悪かったね兎夜くん、塩月さん。じゃあまただ」

「じゃあな! 歌田、塩月さん! また会おうぜ!」

そう言うと二人は慌ただしく去っていった……と思ったら、すれ違いざまにイワシっちが、

「ところで、塩月さんって、コレ?」

と小指を立てていたから思いっきり違うってことを顔で表現した。するとイワシっちがハハッて笑って走り去って行った。なんなんだアイツ。


イワシっちと赤沼さんが居なくなってから、場が一気に静かになった。割と賑やかだったな。まぁでも、二人とも楽しそうにしてたから、それが見れてよかったなと思った。

「ごめん、遅くなったね。そろそろ駅に戻ろっか」

そう言って歩き始めると、華代が着いてきてる気配がしなかった。

「……ねぇ、とやまる」

ツリーの前にたったまま、華代がこちらを見ていた。

「────」

商店街にある鐘の音が鳴る、鐘の音以外聞こえない。華代が何かを言っていることは分かるけど、なんて言ったのかが聞き取れなかった。

「華代、今なんて……」

鐘が鳴り止む。華代は優しく微笑んで、


「なんでもない」


「さ、帰ろ帰ろ! 彼岸町は田舎やから、次の電車逃すと今日は野宿になるよ!」

さっきまでツリーの前にいた華代は、俺よりも先に駅に向かって行った。

「あっ、ちょっと待って!」

華代を追いかけて隣に並ぶ。そして二人で、なんとか彼岸町に帰るための最後の電車に乗り込んだ。


「あ〜今日は楽しかった。ありがとうね、とやまる」

「いえいえ、そんな……こちらこそ楽しかったよ。ありがとう」

だんだん電車の中の人が減っていって、だんだん外の電気の数も減っていく。帰るんだ、彼岸町に。

最初は不安だった。また華代を泣かせたりしないかなって。というか、一回のことを引きずり過ぎではあるなって自分で自覚している。けど、やっぱり、もう泣かせたりしたくなかったから……。

そんなことを考えていると、肩に何かが当たった。……華代の頭だった。寝ちゃったんだな。いつもより元気だったかもな華代。疲れたんだね。

最寄り駅まであと三十分、寝かせてあげようと思った。今日の一日を振り返りながら真っ暗な窓の外を眺めていた。毎日日課の一人反省会、今日は割と高得点かもな。そう思って、深めのため息をついた。


その時、スマホに通知が入った。大きめに表示される時刻表示の下に、メッセージ通知が一件。イワシからのメッセージで、そこにはこう書かれていた。


「年明け、うちにおいでよ兎夜」

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