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3.愛しのマリー


ユーロジア王国王都、王宮内にある東司令部、部隊長室。


「つまらん」


麗らかな昼下がり、受け取った書類をめくりながらリアは呟く。

書類を運んできた部下がああ、と同意する。


「最近は平和ですからねえ」

「ああ、そうだ。周辺国が攻めてくることもない、クーデターが起こるでもない、突如人類が太刀打ちできない怪物が出てくるなんてこともない!実に暇だ!こうも穏やかだと逆に魔力をぶっ放したくなるなあ」


書類を持ったまま椅子に体を預ける。ふかふかの背もたれがいい感じだ。やはり昔の堅い椅子と交換して良かった。うんうん。


「ところで、ロン一等兵」

「物騒なこと言わないでくださいよ。何ですか、ブラックベルン部隊長」

「これを西の部隊長に届けてくれないか」


隊長服のポケットから無造作に取り出し、そのまま渡す。


「何です、これ?」

「愛しのマリーへの手紙だ」

「いや、愛しのマリーってなんだよ。というかこれ開封済みなんですけど。まさか勝手に開けたんですか?」


部下の目線が痛い。


「いやいや、弁解させてくれ。日課の北司令部への挨拶を終えて、今日も1日爽やかな日が始まる期待に胸を膨らませていたんだ。どこからともなく北の怒鳴り声が聞こえて、あいつカルシウム足りてないんじゃないか、と思いながら王宮の廊下を渡っていた時に庭の茂みの中にこれを見つけてね。宛先や差出人も書いてなかったから、とりあえずここに持って帰ってユージンに心当たりがないか聞こうと思ったんだよ」

「そして、ウィスタリア副隊長も心当たりがなく、二人して開けてしまったと」

「いや、それは違う」

「え、じゃあ、どうして?」

「これをやったのは北のあいつだ」


そう言ったリアは、よれよれになった手紙を悲しそうに見つめて、窓の外に目をやった。

普段見ることのない上官の表情にロンは驚く。


ユーロジア王国の軍部は東西南北およびそれを統括する中央の5つの司令部を持つ。その中でも東司令部と北司令部はお互いに犬猿の仲である。女性で司令部の部隊長にまで登り詰めたリアは北の格好の餌食となっており、嫌がらせともいえるちょっかいを受けていた。だがしかし、そんな北からの嫌がらせを大人しく受けるほど、彼女はお優しい性格はしていない。受けたものは倍にしてきっちりお返しするのが彼女の礼儀だ。日夜、王宮では北の連中の悲鳴と彼女の高笑いが響いている。

そんな絶対的な自信を携える女性が初めて見せる儚げな表情に、ロンは胸の鼓動が高鳴るのを感じた。


……部隊長、そんな顔もできたんですね。ま、まあ、部隊長は黙っていれば、さすがは公爵令嬢といった容姿をしているし、あのブラックベルン家の一員といってもまだ若い女性だ。もしかして、日々、北の連中からの仕打ちに耐えながら舐められまいと虚勢を張っていたのかも。


「……うん、いいな」

「ん?何がいいんだ?」


気が付くと随分近くにリアがいた。独り言を聞かれていたようだ。

慌てて何でもないというと、不思議そうに晴れ渡った空の色をした瞳を覗かせる。

気まずくなったロンは話を最後まで聞いていなかったことを思い出し、リアに先を促す。


「あいつってまさか」

「ああ、北の部隊長殿だよ。ここに戻る途中であいつに捕まってね」


リアはやれやれといった風に肩をすくめる。


「朝の挨拶がお気に召さなかったみたいで、魔法をぶっ放して来たんだ。ロン一等兵も知っているとは思うが王宮内での私闘は禁じられている。わたしは同じ隊長格としてあいつの蛮行を見逃せなくてね。だが、その行為に至ったのはわたしのせいでもあると責任を感じたんだ。彼は求めている。あんなのじゃ足りなかったんだと」

「ん?」

「わたしはその時決心したんだ。わたしに責任の一端があるのなら、この手で解決するしかないと」

「んん?」


リアは握ったこぶしを高らかに掲げる。


「それからは無我夢中だった。気が付くとウルフスタンは廊下に倒れていてね。顔を何者かに殴られたようだった。そして、わたしが右手に握りしめていたこの手紙もぼろぼろになって封が切れていたんだよ」


悲しい事件だった、とリアは視線を落とす。


「って僕の純情返せー!結局、手紙握りしめたままブラックベルン部隊長が北の部隊長をボコボコにしたって話でしょう!?それに、廊下で魔法飛ばし合っているのはお互い様ですよ!」


そうだが、何か?とでも言いたそうにリアは腕を組みふんぞり返っている。

ま、全く反省してない。この人……!


「まあ、いいです。ところで、どうしてこれが西の部隊長のだと?」

「中身見た」

「結局読んでるじゃないですか」


ふーうひー。


「……口笛吹けてませんよ。部隊長」

「と、とにかく、手紙の内容は西のがマリーという女性に宛てた恋文だ。わたしは今、北への挨拶を考えるのに忙しい。よって、君がこれを西のに渡してきてくれ。別にあいつが苦手というわけではないが、誤解するなよ!」


部隊長、いやそうな顔隠せてませんよ。


「わかりました。上官の直々の命令です。従いますよ。ところで……」


自分が入室してからずっと後ろの机で分厚い本を開いている副隊長を見る。ちらりと見えた表紙からその本は王宮内の人事図のようだ。


「先ほどからウィスタリア副隊長は何をしていらっしゃっているんですか?」

「ああ、ユージンはマリーという女性について調べている」

「マリーさんですか。あれ?でも、そういえばそんな女性王宮にいたっけ?」


うーん、と記憶を探っているといつの間にか隣に副隊長が立っていた。


「隊長、マリーという女性は存在していません」

「え」

「……やはりな」

「どういうことですか?」

「王宮内にはマリーという名の女性はいない」

「いないって副隊長。じゃあ、この手紙は……」

「いいからさっさと渡してこい」


眉間を寄せて何かを睨むような表情をしているリア。先ほどとは異なる雰囲気に思わず体が跳ねる。

ちょ、部隊長急に不機嫌になってる!?当たられる前にさっさと行こう。





ユーロジア王国、西司令部。そこはエリオット・スタントンが部隊長を務める王宮においての守りの要であった。

スタントン家は代々守りの魔術を得意としている。守りといっても様々あるが、当代のエリオットは結界を用いた監視を行っていた。つまり、この王宮においてエリオットの目から逃れられる者はいない。そのお陰もあってか、王宮は王国で一番安全な場所と言われている。しかし、そのような評価から一転して西司令部は気味悪がられていた。それは監視をされている居心地の悪さもあるだろうが、それよりも部隊長であるエリオットの性格にあった。

つまるところ、彼は極度の潔癖症であった。しかも、かなり変わった感じの。


ロンが西司令部へと足を踏み入れると、そこは太陽の光を反射して光輝いていた。廊下では西の隊員たちが一生懸命に床を磨いている。掃除の必要性を感じられないほど既に綺麗なのにまだやるのかとちょっと同情する。ふと後ろを見るとロンが歩いてきた道を西の隊員が掃除しながら追いかけていた。


「気にしないでください」

……いや、するよ。


にこやかな笑顔にロンもひきつった笑いを返す。

こういうのがあるからみんな西に来たがらないんだろうなあ……。



西司令部の部隊長室を訪れたロンは変わり果てた姿になった手紙をエリオットに渡した。何か小言でも言われるかと思っていたが、案外何事もなく受け入れられた。


「わざわざありがとう」

「いえ……あの、少しお伺いしたいことがあるのですが……」

「なんだい?」

「マリーという女性は、その、スタントン部隊長とどういうご関係で?」


ロンが恐る恐る尋ねるとエリオットは、ああ、マリーね、とにっこり笑う。


「そんな女性知らないよ」

「え」

「マリーなんて女性この王宮にいなかったでしょ?」


あ、これ()()()()たんだ。ブラックベルン部隊長が知ったら怒るやつだ。


「ふふふ、リアちゃんには()()()こと内緒にしてね」

「は、はい」


報告を怠るのは軍人として良くないが、目の前の圧から逆らえない雰囲気を感じ、冷や汗をかく。


「ふふ、リアちゃんが拾ってくれてよかった。他の人のところにいったら、また回収しなくちゃいけないからドキドキしてたんだ」


回収……。


「これは誰かにあてた手紙じゃないよ。ただの予行練習さ」


本当に送りたい人のためのね。


「あ、誰か知りたい?」

「あ、ああ!そういえば、まだ仕事が残っているんでした!僕はこれで失礼します!」


勘が働いたロンはすぐさま部隊長室を出ていく。

なんか怖ぇー!

リアが西の部隊長を避ける理由が少しわかったロンであった。




ロンが部隊長室を後にして廊下を歩いていると、手一杯に様々な掃除道具を持った隊員の姿が見えた。不安定なのかそのよろよろとした姿に一抹の不安を覚えたその時、自分で持っていた箒に足をとられ転んでしまった。ロンが近寄ると彼は起き上がろうとしていた。

手を貸しながら観察する。まだ幼さが抜けない顔立ちに少々大きめの隊服。彼は若い新兵のようだ。


「派手に転んだけど大丈夫?」

「は、はい!僕なら大丈夫です。お手を貸していただきありがとうございました!」


彼の周りには持っていた道具が散乱していた。


「随分とたくさん運んでいたみたいだね。どこに向かうつもりだったの?」

「突き当たりにある部屋を掃除するように頼まれまして。あそこはとても重要な部屋らしく僕も初めて行くので、張り切ってしまってあれもこれもと持っていったらこんなことになってしまいました」


あはは、と照れたように頭に手を伸ばす。


「そう、よかったら手伝うよ」

「い、いえ、そんな。東の方の手を煩わせるなんてできません!」

「あはは、そんなこと気にしなくていいから」

突き当たりの部屋だったね。それじゃあ、行こうか。


落ちている掃除道具を拾ってロンは先に歩き出す。その後ろを新兵が慌ててついていった。



突き当たりの部屋の扉を空けると、部屋の中には大きな棚が置かれており、中央には棚に向かって椅子と机が設置されていた。どうやら棚に飾られた物を観賞するために置かれたみたいだ。その様はコレクションルームのようだった。

てっきり機密書類が置かれた部屋だと思い込んでいたロンは驚く。

あっ、と隣で新兵が声を上げた。


「すいません!バケツ持ってくるの忘れていました!」

すぐ取ってきます!


ロンが呆気にとられている内に彼はいなくなっていた。



ひとり残されたロンは棚に近寄る。


「いろんなものがあるけど……」


土だけが入った植木鉢、一昔に流行った恋愛小説、お菓子の空箱。

一貫性のない物に疑問が募る。


「これのどこが重要なんだ?」


ロンがもっと詳しく見ようと顔を近づけると視界の端に何か光るものが見えた。反射的にそちらを向くとそこには軍部には似つかわしくない可愛らしい熊のぬいぐるみがあった。その緑色の目に窓の光が反射したようだ。


「ぬいぐるみ?……あれ?この配色って、どこかで……」


ロンがぬいぐるみに手を伸ばしたその時、カンッ、と何かにぶつかる音がした。

すぐに振り返ると、ずっと握っていたモップの柄が複数あるインクのひとつに当たってしまったようだった。ゆっくりとインクの入ったビンが傾いていく。ロンはとっさに手を伸ばすが無情にもあと少しのところで届かなかった。それどころか体を動かしたせいで手前にあったビンにも柄が当たりこちら側にもドミノ倒しのように倒れてきた。


次々にインクがこぼれていく。ロンは顔を真っ青にしてそれを眺めるしかなかった。最後に落下したインクの先には例の熊のぬいぐるみがあった。焦げ茶色の艶やかな毛を持ったそれは顔半分をインクで汚し、その可愛らしい緑の目すら色を変えてこちらを睨んでいるように見える。


……やってしまった……!と、とにかく誰か呼ばないと!


掃除のプロである西の隊員に助けを乞おうと慌てて外に出たロンであったが、見たことのない光景に足を止める。そこには先ほどまで歩いてきた廊下ではない、新たな通路が続いていた。




歩いても歩いても景色が変わらない。目で詳しく見なくてもわかる。自分は今、結界の中に囚われている、と。

おかしい。この王宮で部外者がこんなこと出来るはずがない。そんなの西の部隊長が許すはずがない。だとしたら、こんなことをできるのは……。


ロンが答えにたどり着き、過去の自分を責めていると壁にかけてある絵画から手が飛び出してきた。


「ひっ……」


あり得ない光景に驚きすぎて声がでない。

とっさに逃げようとするが一歩踏み出した瞬間体が崩れ落ちる。情けないことに腰が抜けてしまった。それでもなんとか腕の力で逃げようともがく。


バン!


後ろを確認する余裕がなかったロンはいきなり響いた音に肩をはねらせた。恐る恐る後ろを振り返ると先ほどまでより伸びた手が額縁を掴んでいた。


こっちに出て来る気だ!


絶望にも似た気持ちがロンを襲った。今の自分では逃げきれない。きっとあの腕の先には恐ろしい怪物がいるに違いない。


ブラックベルン部隊長、ウィスタリア副隊長、先立つ不幸をお許しください……。


ロンが今世へのお別れをしていると、絵画からひょっこりと黒い頭が出てきた。その頭は周りを見渡すと床で倒れているロンに声をかける。


「何をしている、ロン一等兵」

「……え、ブラックベルン部隊長!?ど、どうしてここに!?」

「突き破って来たに決まっているだろう!」


絵画から顔を覗かせたのは先ほど心の中でお別れを告げた相手だった。ロンは予想もしない出来事に思わず口を空ける。そんな彼を尻目にリアは絵画から抜け出すとぐるりと目を一周させた。


「ここがあいつの結界の中か……」


壁や他の絵画を触る。


「気が狂いそうなほど長い廊下。時間感覚を失わせる仕掛け。こんなところに閉じ込められたらさぞ、参ってしまうだろうな」

まったく、あいつらしい。


「ロン一等兵、お前の体感でここに来てどれくらい経っている?」

「えっと、一時間は過ぎていると思います」

「そうか……」


突然の問いかけに戸惑うロンだったが、リアが語りだした話に再び驚愕することになる。


「結論から言う。これを造ったのはスタントンだ。王宮でこんな大規模な結界張れるのはあいつしかいない。それに、お前が西司令部に行ってから一瞬ではあるがスタントンの魔力を感じた。こちらまで流れてきたんだ。結界を張ったってすぐにわかったさ。あいつが造ったものは大体錯覚系の効果が付与されていることが多い。さっき言っていただろう?ここに一時間以上いるって。だがな、お前が巻き込まれてから15分も経っていないぞ。」

あいつは少し……少し?変わった奴だが、普通味方に向けてこんなことしない。ロン一等兵、お前何したんだ?


「15分!?……じ、実は西の隊員を手伝おうとしたらぬいぐるみにインクをこぼしてしまって……」

「ん?ぬいぐるみ?」

「はい、焦げ茶色の熊のぬいぐるみで、綺麗な緑の目をしたものです」

「……そうか。だか、綺麗好きで知られる西司令部を汚すなんてお前なかなかやるな」

「もう!ふざけないでください!」


このこのー、とロンをつついていたリアだったが、ふと後ろを振り向く。



奥から足音が聞こえてくる。それはこちらに近づいて来ているようだ。リアは音のする方向を睨み付けた。やがてそれは止まった。そこにいたのはこの空間を造りだした西の部隊長エリオット・スタントンだった。


「スタントン、わたしの部下で遊ぶな」

「ぶ、部隊長!」


ロンはリアの後ろに隠れる。


「ごめんね、リアちゃん」

「リアちゃん言うな」

「ふふふ、リアちゃんはこの空間気に入らない?」

「だから、リアちゃんと言うな。気に入る、気に入らないとかそういう話しか?まあ、あえて言うならわたしの趣味ではないことは確かだ」

こんなに絵を飾る必要あるか?しかも絵と額縁が合っていないぞ。


リアは金ぴか額縁を指差して、これでは絵を食ってしまっている、母上が見たら全部張り替えろと言うだろうな、と呆れたように腕を組んだ。


「そっか、好みじゃないのか……」

「ま、あくまでわたし個人の趣向だ。お前がいいならそれでいいのではないか?」

「ううん、ありがとう。とても参考になるよ。次からはもっと気に入りそうなの作るよ」

「はあ、役に立てたのなら何も言わないが」

こいつと話しているとなんか手応えがないんだよなあ。


リアがエリオットを苦手とする理由のひとつである意志疎通の難しさを感じていると背中にいる存在を思い出す。


「わたしの部下にお前の世界は荷が重い。そろそろ解放してくれないか?」

「うーん、リアちゃんがそう言うならそれでもいいけど、これでも私結構怒っているんだよ。あの部屋は私の大切なものを仕舞っている場所なのに、それを不躾に汚すなんて」

「部下の失態は上司であるわたしの責任だ。わたしが可能な範囲で弁償でもなんでもしよう」

「部隊長……」

「え!ホントに!それじゃあ……」


はしゃぐような西の部隊長の声が聞こえる中、ロンは己の上司の自分を庇う姿に感動していた。

こんな何考えているかわからない人に向かって、なんでもするなんて危険なこと僕のために……。


「部隊長!僕、一生貴女についていきます!」

「なんだ。部下からのいきなりのストーカー発言にわたしはどうすればいいんだ?」

「そういう意味じゃありませんよ!」

「あははは、冗談だ。そう怒るな」


リアとロンが軽口を言い合っている間にエリオットが脱出用の出口を用意していた。


「ここから出られるよ」

「術者は簡単に出口を作れていいな」

「もう結界の弱いところ狙って攻撃しないでね。言ってくれたらすぐに扉作ってあげるから」

「そうだな、それなら善処しよう」


先に歩いていったリアに続き、ロンも足を動かす。出口の傍にはエリオットが立っていた。

すれ違いざまに囁かれる。

思わず足が止まった。


「何をしている、行くぞ」


自分の部隊長が声をかけてくれたおかげで金縛りにも似た硬直が解け、再び歩き出す。

だが、ロンの耳元ではさっきの言葉が反響していた。


「よかったね、また太陽が見れて」





あの騒動からしばらく経った日の昼間。ここ数日間、落ち着きなく訪問者を迎えるエリオットに西の隊員たちは疑問を募らせていた。


いつも落ち着いている隊長らしくない。

もしかして、東の部隊長と何かあったのか。

おい、誰か聞いてみろよ。


そんなことを小声で言い合う部下を尻目に今日も部隊長室で今か今かと扉を見つめる。別にここで待っていなくとも()()()目的のものが来るのか一目瞭然だが、そんな無粋なことエリオットはしない。待っているときのこのドキドキ感が堪らないのである。

今日も来ないのかと肩を落としたその時、それは現れた。


「失礼します。部隊長、ブラックベルン部隊長から荷物が届いています」


大きな箱を持った部下が扉を開け、荷物を置いていく。

部下が立ち去るのを確認すると急いで箱に近づき、丁寧に開けていった。


「ふふふ、ホントにくれた」


箱の中に入っていたものを取り出して机に置く。

そこには先日汚されたものと同じ熊のぬいぐるみ、それと……。


『部下の失態は上司であるわたしの責任だ。わたしが可能な範囲で弁償でもなんでもしよう』

『え!ホントに!それじゃあ、同じのほしいな!それにアイスブルーの瞳をした黒猫のぬいぐるみもできればほしい……だめかな?』

『大丈夫だが、そんなことでいいのか?』

『うん!楽しみに待ってるから!』


「かわいいなあ」


黒猫のぬいぐるみを指先で撫でる。

熊のぬいぐるみの横に並べて部隊長室の棚に飾る。仲良く寄り添う姿にエリオットは満足そうに微笑んだ。





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