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竜の私と異世界と。  作者: 霊王
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9話 〜竜人族の村の事情〜

 



「馬鹿者ッ! 聖域を守るのが我らが役目であるのに、お前が入ってどうする! 大罪だぞッ!?」


「ほれほれ、その辺にしなさんな……」




 リューナが族長の父親に叩かれ、揉めていると一人の年老いた竜人が言った。




「むぅ…しかし、母上よ。」


「しかしも何もあらへんよ。古龍様の御前(ごぜん)じゃぞ……」


「これは失礼致しましたッ……!!」




 族長は私を見るや思い出したかのように青ざめその場に土下座した。その姿は敬意と言うより恐怖にひれ伏しているかのように(おび)えていた。




「お見苦しいところをお見せしてしまい申し訳ございませぬ。聖域に踏み入れたことに関しては古龍様の判断に我らは従いまする故。」


「え、私が? 聖域とかあまり知らないしなぁ。それよりやっぱり古龍だって分かるの?」




 どう見ても一人の美少女にしか見えないと思うんだけどな〜。




(わし)ら竜人族はこれでも竜の力を継ぐ者、故にその竜の頂点に立たれし貴方様方には敏感でのぅ。それと、良ければでいいのですがもう少し気配を抑えてくれると助かります。老体にはちと厳しくてのぅ。」


「うぇ? あー、ゴメンなさい……こうかな?」




 むむむ…と力を体の中心に留めるイメージをする。すると何となくだが周りの空気が澄んだ感じがした。どうやら、私は古龍の気配バリバリ垂れ流しで歩いてたみたいだ。道理で飛竜たちが近づかない筈だ。




「こんな辺境の貧しい村までお越しいただき、感謝いたします。申し遅れました、ワシはリューナの祖母でおばばとでも呼んでくださいまし。話を聞くとリューナを連れてきてくれたと、この御礼は村全部をもってさせて頂きます。」


「いえいえ、そんな……」


「そうだ! じい様はッ!?」




 私が褒められて照れていると叫ぶリューナ。思い出したように祖父のことを聞くと二人とも黙りこくってしまった。その空気に何か察したのかリューナは慌てて奥の部屋に駆け込んだ。リューナが入って数秒後……リューナの泣き叫ぶ声が響き渡ったのだ。


 私はその理由に薄々気づいていた。なんせ、能力(スキル)《気配感知》でこの家に私たち四人以外の反応はなかったから。




「昨日の夜が峠だったようじゃ……今朝方(けさがた)にはもう……」





 リューナの祖父の葬儀は明日の早朝になった。



 その日、私は断れず泊まらせてもらうと村全体を起こして厚く歓迎された。その間、誰一人として悲しい雰囲気を表に出さなかった。


 そして、その間リューナは奥の部屋から出て来る気配はなかった。



 ――――――――――――

 ――――――――――――――――――――――


 次の朝。


 私はベッドから起きるとリューナを探して歩いた。そして、リューナを見つけたの祖父の眠っている部屋だった。

 リューナは祖父の亡骸から離れずそのまま朝を迎えたらしく、傍で寝てしまっていた。



(起こすのは可哀想かな……)



 ギギィ―――




「んぁ……あ、ユキ様。申し訳ございません昨晩は。」




 私が立ち去ろうとした時、床がきしんでしまいリューナが起きてしまった。あぁ〜もう私のバカ!こういう時に限ってドジを踏む。




「私は間違っていました……」


「リューナ……」


「私はじい様を救うため良かれと思って竜ヶ峰に入り木竜の果実を見つけるどころか迷って怪我までして……じい様を看取ることもせずただただ寂しい思いをさせただけだったのですかッ……!!!」




 その言葉に私は昨晩のことを思い出す。お酒の席で周りは酔い潰れた竜人だらけ、もちろん私は飲んでないよ?ピチピチの未成年だから……そこにお酒を持ったおばば様がこぼした言葉を思い出す。




『リューナは母親を早くに無くしてから父親がアレのせいか祖父母のワシらによく懐いてのぉ。じい様も最後に孫の顔が見れなかったのが、なんとも悔いよのぅ――――』




 リューナは決して祖父を見捨てる事はしなかった。しかし、最後に立ち会えなかった事がリューナには最大の過ちとなってしまった。




「私は! 私は……ッ!! じい様をッ―――!!!」




 ギュッと私はリューナの背中を抱きしめる。




「もう良いよ、リューナ。分かった……分かってるよ、じい様も。アナタは最後まで頑張ったんだって、じい様の為に諦めなかったんだって。」


「ゔぅ……ユキ様ぁ!!」




 リューナは私に抱きつき、抑え込んでいたものが外れたかのように我武者羅に泣き続けた。


『木竜の果実』を見つける為に危険な山を登った……それは無謀だったのかもしれない。けれど、この子は決して諦めたんじゃない。最後まで祖父の為に頑張って頑張って頑張った結果がこんな形に結んでしまった。それだけ、それだけが最大の過ちになった。


 だから私は、私だけはこの子の努力を否定はしない。誰がなんと言おうと私は言える「この子は祖父の為に頑張ったんだ、危険な山に入り怪我までして。だから、文句は言わせない」と。




 ――――――――――――――――――――――



「も、申し訳ありませんユキ様!」




 一通り泣いたリューナは我に返り謝罪してきた。いやまぁ、確かに私の服はリューナの鼻水と涙でベトベトだけど。許す、うん許すよ!



 外に出ると広場のような場所で準備は完了していた。





「――――この者に安らかな眠りを………」




 一人の竜人が念仏のようなものを唱え終えた。


 丸太と枝を使った建物を燃やして弔うのがこの村の伝統らしく、その建物にリューナの祖父が入れられた。そして、火をつけるのはその親族。




「リューナ、お前がやりなさい。」


「お父様……」


「リューナ、ちゃんとじい様に別れを言ってやりなさい。」



 父とおばば様に言われ、火のついた松明を手渡されるリューナ。ゆっくりとその場に近づき何か呟いた。ここからじゃ聞こえないけど多分お別れの言葉だろう。すると、松明を置くと建物はすぐさま燃え広がった。


 振り返ったリューナの顔にはまたも涙が流れていたが、先程より良い顔をしていた。




「古龍様に弔って貰えるとはじい様も誉れ高いよのぅ。羨ましい限りじゃ。」




 燃え上がる火を見て私の横にいるおばば様が言う。この村の人達にとって古龍(わたし)の存在はやはり大きいのだろう。みんな距離を空けている感じがする。


 後始末を行っている中、私はこっそりと村を出ていった。









 切り立った峰にある道をリュックサックを背負って歩いていく。なかなか下って来たが雲はまだ下にあり標高が高いことが分かる。

 未だに続く幻想的な光景に私は冒険心を煽られ一歩一歩踏みしてめ歩いていた。




「いや〜冒険してるなー。リューナの村も良い場所だったけどあまり長いするとみんな気疲れしてしちゃう気がするし。何も言わず出て来たけどこれでよかったんだよね。」




 一人で歩きながら言い訳をするように喋るユキ。その時大きな影が通り過ぎたと思うと奇怪な声が響いてきた。




「きょああああッ――――!!!!」




 どこか聞いたことのある声にふと、上空を見上げると一人の竜人が涙目で降ってくるのが見えた。




(え……リューナ?)




 すぐさま私は飛び出し急降下するリューナを受け止めると、リューナは私にしがみつき御礼を言ってきた。




「ユキ様! あ、ありがとうございます!」


「リューナ、なんで上から……」


「お願いします、私もユキ様の旅に同行させてください!!」


「いいよ。」


「え? いいんですかッ!?」


「上から降ってきてまで追いかけてきたのに断れないよ。」


「ありがとうございます!!!」




 お姫様抱っこからリューナを下ろし、ふと思った。なんで上から降ってきたの?と。


 それを聞こうとリューナに振り返ると彼女は村の方向に向かって礼を深々としていた。




 リューナが礼をした空には大きな年老いた竜が飛んでいた。

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