5話 〜鍛え上げられた私〜
それから数ヶ月ぐらいが経った。多分……竜の体って時間感覚がよく分からなくてどのくらい経過したのか分からないんだよね。まぁ、それは置いといて。
「ウッス! 有難う御座いやしたッ、師匠!」
気合いの入った声で白い竜に向かって礼をする美少女(私)は使い古した柔道着に似たものを着ていた。
そう!私は《人化の術》を覚えたのだ!
あの姿のままじゃ色々と不便だしなんてたってよくコケるからね!それに、元々人間だったから覚えるのに時間はあまりかからなかった。
『し、師匠か……うむ、まぁあ あながち間違いではないが何故最後の最後で呼んだのだ?』
「ウッス! なんとなくッス!」
『そ、そうか……』
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『それで我の修行を終えて一通り竜として強くなった訳だが、お主はこれからどうするつもりなのだ?』
「んー、せっかく人型に慣れたしなー。人里に降りてもいいかなぁ〜って思ってる。」
『むぅ。人里か……』
「ん? なにか都合の悪いことでもあった?」
私の言葉に顔を歪ませる師匠に聞く。
『古龍の掟、其の二!』
「はっ! “他種と子を成すことはしない”であります!」
師匠の掛け声に合わせ叩き込まれた掟の内容を私は咄嗟に答えた。その意図に気づき私はハッとした表情を浮かべる。
「人と子を成してはならない……」
『人だけではない、他の種族も同じじゃ。もともと異種族の子が産まれることは無いだろう。しかしだ、世の中には例外というものがある。』
「稀に子どもができちゃうんだ……」
『うむ……そして大抵その者は力が不安定で暴走し周りを巻き込みながらその身が朽ちるまで暴れ続けるのだ。』
「そんな……そんなひど……」
そんな酷いこと。そう言いかけた時 私は口を詰むんだ。ここは異世界、そしてコッチにはコッチの掟がある。それを巻き込まれたとは言え部外者の私が口を出す訳には行かない。コッチに順応しなければならないのだ。
「もしかして、先代の黒龍って………」
『……あぁ、そうだ。』
師匠の顔に影が落ちる。子を成した古龍はその子供に力を吸われ息絶える。古龍とは世界に七体しか存在してはいけないもの。死んでも還元・転生する古龍に子が産まれると古龍の権利は子供の方に移る。つまり、親の古龍は死ぬ。
その時は師匠が無理やり権利を取り戻したが先代の黒龍は死にその子供は行方不明。この事件は古龍たちに薄れかけていた掟の意味を再度認識させた。
『古龍とは特別な存在。くれぐれもそれを努努忘れぬように。』
「オッス! 大丈夫ッス、ジブン恋愛とかよく分からないんで!」
『う、うむそうか。』