2話 〜私と異世界と食料〜
(とりあえず結界は壊したから出よう。お腹空いたし)
結界が本当に消えているか確認する為、さっきまであった場所をおそるおそる通る。
結界は消えたようで普通に通れた。よし、飯〜!
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ねぇ、ここドコ?
いや、最初の所からかなり歩いたんだけど景色は変わらず洞穴が続くだけ。生物には会ってるけど……
それに同じところぐるぐるしてるみたいで疲れたし、てか腹減ったッ!何でもいいから何か食べたいよぅ〜。(泣)
ゴソッ―――
ん?今なにか音がした?まさか、食べ物!?
逃がすかッ!!
能力《気配感知》起動ッ!!
フハハハ、この私がいつも何もしていないと思うなよ?ここまでの道のりで様々(さまざま)な実験を行った結果、また新しい能力を手に入れたのだ!
分かる、私には分かるぞ!貴様の動きがッ!――――って、うぇッ?蛙ッ!!?
いやぁぁぁッ!!キモイキモイキモイッ!
無理ッ!!!!《竜息吹・闇》!
本日何度目かの口から咆哮。カエルは見事に黒ずみになって死んだ。
いやもう本当に嫌ッ!蛙とかブヨブヨ・ヌメヌメしたの本当に無理……さっきから同じようなのしか出てこないしそれが自分とほぼ同じ大きさとか…これ、思ったより異世界ツラい………
あぁもう、こんな所で立ち止まってられない!とりあえず進む!
《竜息吹》は新しくでた能力だ。『黒死咆哮砲』と似たもので固有能力ではなく能力になっている。威力はかなり低いがあのカエル程度なら一発で倒せる。
けど、これ使うと疲れるんだよね。そこまでじゃないけどあと2、3発撃ったら多分動けなくなる。MP?魔力かなんか消費してるのかな。
いやぁぁぁ!《竜息吹》《竜息吹》《竜息吹》!
あれから歩いたものの何も変わらず強いて言うなら今カエルの集団に遭遇して息吹を撃ち尽くしてしまったこと。うん、もう動けない……
ガタッ!
ん?カエルの死体がある後ろの壁から亀裂が……まさか外!?よっしゃあぁああああ!
私は無我夢中で体を動かしその壁に突撃した。するとバコっと音を立てて穴が空いた。外からの光が指し眩しくなる。目が慣れてゆっくりと開けると景色が見えてきた。
うわぁ〜! 絶景!
そこには尖った山々が並びその奥には太陽が半分顔を出していた。現実…地球では見るのも難しいだろう景色は美しいという言葉しか出てこなかった。草木も生えない断崖絶壁にそびえる山、そこから顔を出す太陽、この場所では恐らくほとんどの生物が存在しないだろう。だが、それもまた生きる厳しさを現しそれを眺める太陽という図が出来上がる。私が産まれた洞窟の中とは違い、これもまた神秘的で綺麗だ。
……いや、まって……断崖絶壁?え、なにコレ?降りられないじゃん。草木も生えない?え、なにコレ?ほんと山しかないじゃん…………
詰みじゃん………………
いや、まて認識を改めろ。私はドラゴンだ。今まで私は果物か何かを食べ物として想像していたが、ドラゴンなんだから獲物を狩って食べればいいじゃん。
獲物……
チラッと後ろにある黒ずみになったそれ等を見る。黒ずみとはいえ原形を止めており触るのすらまだ抵抗がある。けど……見渡す限り生物はいない。いや、いまチラッとだけ外で空飛んでる生物がいたけどあれは気にしないでおこう。とすると現状で食べ物はこれしかない。
落ち着け、私。そう生きる為だ…転生してまもなく死ぬなんて嫌だよ?なら食べるしかない。あのカエルを。
う……
うげ……
うえぇぇ〜〜
うん。なんだろ、不味くはなかった。ゼラチンを食べてる感じに近かったかな。食べられなくはない。もしかしてこれ焼いたらもっといける?
…………火、欲しいな。
その後、残りの二匹も目を瞑りながら食べ終える。食べられることが分ったのなら決して残したりはしない。他に食べるものないからね。
ふと、カエルに向かって《鑑定》を使ってみる。
《鑑定結果》・・・種族名 山岳蛙(死体)
山岳に生息する蛙。普段は地面の下や岩の隙間に住んでおり湿気が多いと外に出てくる。ジメジメした所が好き。高いところの石が主食でそれ以外は ほぼ蛙。
『ほぼ蛙』ね。うん、そうだね……蛙だね。
あれからまた歩いて小一時間は経った。すると、段々下へと急斜面になり転がりながら降りるとさっきまでの洞窟より更に湿気が多くなり地面がぬかるんできた。
グチャ
うへぇ……気持ち悪い。これ長靴欲しいぐらいだよ。どこかに靴屋ない?てか、私この世界のお金持ってないや。あれ?それより私竜だから人と会ったら討伐されるしない?
あれ?私これからどうしよ……
「ゲコッ。」
ハッ!《竜息吹》ッ!!
考え込んでいたら蛙がこちらに向かって来るのが目に入り、すぐさま消し飛ばす。この階になってから何かやたらと蛙がコッチに突っ込んでくるんだよね。上の階の蛙の敵討ちかな?そんな訳ないか。
「オッタマ。」
え?なに今の声。
「オッタマ。」
声のする方へ目をやるとそこには不気味なものが佇んでいた。この蛙の子供だろうか……蛞の体に人の脚の様なものが生えておりその脚がムキムキなのだ。しかも聞いたとおり鳴き声が「オッタマ」。これ、生き物?
チラッとそのオタマが私の横のカエルの死体に目をやる。あ、これなんかヤバそう…………
「ジャ……」
え?
「ジャクシイィィッ!!!!!」
うわぁッーー!!なになになになに!オタマが急に怒って追いかけてきた!しかも足速ッ!見た目だけの脚のじゃなかった!キモイキモイキモイ!
喰らえ!《竜息吹》ッ!!
ヒョイ――
避けたッ!!?え、避けた!!?あれ避けるの!?まずい、このままじゃおいつかれる!
「ジャクシイィッ!」
ヘブッ!―――
痛い!あのオタマ、尾ヒレで回し蹴りしてきた!しかも超痛い。かなり吹っ飛ばされた。
うわ、また来た!
「オータマタマタマタマタマタマタマタマ―――ッ!」
ヘブヘブッ!
今度は尾ヒレで往復ビンタ!?痛い痛い痛い!
もう、いい加減にしろやあああ!
《竜息吹》ッ!
「オータマァァ!!」
ボンッ!とオタマが吹き飛ぶ。先程とは違い、怒りがこもっているからか範囲が広くなった。それにゼロ距離から撃ったおかげで命中した。
「オ…タマ……ジャク………シ…………」
カンカンカーンと鳴り響き、オタマが白く燃え尽きた。
いや、実際はそんな鐘鳴ってないし、白くじゃなくて黒くなっている。……けど、強敵だった。《竜息吹》を避けるなんて、それにあの往復ビンタはまるで“時が止まってる”みたいに早かった。
《鑑定結果》・・・種族名 濡玉蛞
山岳蛙の子供。の割に親の山岳蛙より強く凶暴性も高い。親カエルも子を守ろうと凶暴性が増す。ヌタマデュオクシは人のような脚によって水陸両用が可能となり、その脚は最高時速六キロは出るとされている。沼の近くに生息し別名 沼蛞とも言われる。
おい、その名前アウトだろ、完全に関係ないの交じってるよね。これ別名の方が正解だろ。私も少し乗っかったけどさ…これまぐれだよね?地球とは関係ないよね?
てか、カエルがこの階から突進してくるのもコイツらがいるからか……
疲れたぁ〜、いま何時?流石にもう歩けない……
ビチャ……
ん?
「オッタマ。」
………………
「オッタマ。」
………………………………
「ジャクシイィィッ!!!!!」
ぎゃあああああああああッ!!!!!
嘘でしょ!?またぁ!!?何とか逃げなければ、あんなの何回も相手してたら体が持たない!
ハア……ハア……ハア!ま、まずい。行き止まり……
こ、こうなったら覚悟を決めろ私!最悪『黒死咆哮砲』の使用許可を下ろそう。よしっ!
ログ:
振り向く。
目が合う。
あれ?
数える。
1……2……3匹……
増えてない?
オタマ「(ニヤリ)」
ヘブシッ!
ベシッと尾ヒレで叩かれ後ろの壁にめり込む。すると壁は崩壊して一瞬、私の体が無重力を感じる。下を見ると。暗い穴が通じていた……
危なぃぃい!
咄嗟に身体を限界まで広げ穴に落ちないように引っ掛ける。何とか落ちずに済んだ……
ドンッ
え?
「オッタマ。」
抑えていたはずの身体が重力を感じ、穴に吸い込まれていく。落ちていく瞬間に上からオタマがまたニヤリと笑う顔が見えた。
ああああああああああぁぁぁッ!!!!!!!
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《竜息吹・闇》
竜が得意とする息吹の中で闇属性に位置する初級能力。対象に当てると黒く焼け焦げたようになる。