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第8話 悪役令嬢は昔の記憶を思い出す3

 街に行くと、今日の街はいつもより賑わっていた。なんでも祭りがあるそうで、夜には花火が上がるそうだ。私たちは出店に心踊らされた。


「アルフレッド。屋台がいっぱい出てるわよ。何から食べましょうか」


 まだお昼間だが出店は人で賑わっている。屋台の屋根には、色とりどりな文字で売っている商品の名が書かれている。美味しそうな臭いがそこかしこから漂ってきて、私はヨダレが出そうになった。

 祭りの雰囲気ってのはいつ来ても良いものね。私はキラキラと目を輝かせていた。私は前世でもお祭りが大好きで、夏休みは友達と夏祭りにいくつか行っていたものだ。

 彼氏とはですって?愚問ね。彼氏なんていたことないわよーー‼︎

 そりゃ、彼氏と浴衣で夏祭りデートとか、めっちゃ憧れてたわよ‼︎でもいたことないんだから、しょうがないじゃない‼︎


 でも、今は……二人きりじゃないけど、大好きな人と一緒にお祭りに来ている。今は主従関係だけど、いつか恋人としていけたら……。ふふっ、ふふふふふっ。私は顔がにやけて、変な笑い方をしていた。

 私はあるお店の前で立ち止まった。


「おじさん、これ一つください」


「あいよーー」


 私は一口大の焼き菓子が入った袋を購入した。プレーン、チョコ、いちごの三つの味が入っている。


「よし、次はあっちよーー‼︎」


 私は次の屋台を目指した。




「はい、あげるわ」


「あっ、ありがとう」


 私は串焼きのお肉を、シルヴィーに渡した。


「こういうのは……歩きながら……食べるのが……醍醐味よね……もぐもぐ…」


「お嬢様、お行儀が……悪い……ですよ……もぐもぐ」


「そういっているアルフレッドも食べているじゃない」


「やはり、できたてを食べるのが一番ですからね」


「うん、みんなで……こうやって、歩きながら食べると美味しいね」


 私たちは食べ歩きを楽しんだ。

 それから私たちはサーカスを見た。


「ひゃあっ、これは……しゅごいわにぇ」


「お嬢様、食べるか喋るかどちらかにした方がよろしいのでは?」


「だってこれ、美味しいんだもの。あなた達もそう思うでしょ?」


 私は先程購入した焼き菓子の袋を抱えながら、サーカスを見ていた。


「うん、美味しい。このいちごが」


「私はプレーンが好きですね」


「私はチョコよ」


 皆好みがバラバラである。だが、喧嘩しなくてかえって良かったかもしれない。皆フレデリカが持っている袋に手を伸ばし、各々好みの焼き菓子を食べながら鑑賞していた。


 外に出ると、空が少しオレンジ色になっていた。


「お嬢様、そろそろお屋敷に帰りませんと」


「そうね……見つかって出れなくなったら、困るものね」


「……うん」


「シルヴィー、今日は楽しかったかしら?」


「うん、凄く楽しかったよ。こんなに楽しかったのは初めてだよ。……………」


「どうしたの?」


「花火……見てみたかったなと」


「そうね……」


 花火が始まるのは夜。流石にそこまで居たらバレてしまう。


「シルヴィー様、大丈夫ですよ。私に考えがございます」


「「?」」


 私たちは首を傾げた。後で説明しますと言われたので、私たちは屋敷に戻り夕食をいただいた。

 その後、屋敷の者に見つからないよう、アルフレッドについて行った。


「ここは……」


 二階の廊下にある一つの扉。開けると急な階段があった。


「普段使われていない、屋根裏部屋です。さあ、お手を」


 私たちはアルフレッドの手を借りて、屋根裏部屋に入った。

 アルフレッドは明かりを灯し、窓を開ける。そして私たちを手招きした。


 窓を除くと花火が見えた。


「花火……‼︎」


「ええ、ここは街より高台にありますし、二階より上なら木々に邪魔されないと思いまして」


「これが……花火」


 シルヴィーは、嬉しそうに花火を見ている。


「ねえ、アルフレッド。シルヴィー、笑うようになったわね」


「流石お嬢様です」


「貴方もね。ありがとうね、アルフレッド」


「喜んでいただけて何よりです」


 アルフレッドは深々と頭を下げた。


 その夜、私たちは秘密の場所で花火を楽しんだのだった。





 あれから数日が経った。シルヴィーは屋敷に来た頃と比べて、とても元気になった。


 私はアルフレッドの用意した紅茶とお菓子をいただき、休憩していた。

すると暗い顔をしたシルヴィーがやってきた。


「あら、どうしたのシルヴィー。そんな暗い顔をして」


「明日、家に戻ることになった」


「えっ?」


「戻ったらきっと、フレデリカとは会えなくなる」


「そんなに遠いお家なの?」


「うん。ある意味すごく遠い」


「そうなの……」


 シルヴィーは訳ありでうちにきた。色々話せないことも多いのだろう。私はそれ以上深くは聞かなかった。


「でも、必ず君と会えるように頑張るよ。何年かかるか分からないけど」


「そして君が16歳になって成人したら、結婚を申し込んでもいいかな?」


 なんてませたことを。まだ10歳だというのに。なんだか、可愛いわね。


「そうね、貴方がアルフレッドよりステキな殿方になっていたら、受けてあげてもいいわよ」


「それは……大変そうだね。でも頑張るよ」


 こうして私たちは可愛らしい約束をしたのだった。

 ただ、私はどんなにシルヴィーが素敵に成長しても、アルフレッドより好きになる事はなく、私にとってアルフレッドより素敵な人は存在しないのだ。

 そう、これは元気になったシルヴィーを傷つけないように気遣った、遠回しのお断りなのだ。

 しかし、そんな事は相手には伝わらない。

 でも、もし将来私の前に現れても、アルフレッドには遠く及ばないわと言って断れば良いだけなのだと、その時の私は思っていた。


 まさか、シルヴィーの正体がシルヴァント王子殿下だとはその時の私は露ほどにも思っていなかった。フレデリカの人生の中で痛恨のミスである。

 私は後にこの日の私を恨むのであった。

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