第7話 悪役令嬢は昔の記憶を思い出す2
数ヶ月後、私は王都にある別宅に来ていた。お父様も暫く王都で仕事があるらしく、今回は家族で王都に暫く滞在する事になった。勿論、アルフレッドも一緒だ。
「ねえ、アルフレッド」
「ダメです」
「ええ〜、まだ何も言ってないじゃない」
「言わなくても分かります」
アルフレッドとは、大分打ち解けて、ゲームのフレデリカとアルフレッドの関係のようになっていた。
だが、お父様にアルフレッドの過去については聞かないように、厳重に注意されている。本人も語る気配はない。
まあ、出会った時の格好からして色々あったのだろうとは思うが……。
ゲームでも語られていない内容だし気になるが……。聞くのは止めておこう。無理に聞いてやっと築けた関係が崩れるのは、一番避けたいことだ。
私は本人から語られる日を、気長に待つことにした。
「兎に角、本日は外出出来ません。お客様がいらっしゃいますから」
「お客様?」
「ええ、旦那様がもうじき連れていらっしゃる筈ですが……」
すると、馬車が到着する音がした。私たちは玄関に行った。
「お父様、お帰りなさい」
「ああ、ただいま。今日はお客様を連れてきたよ」
「こっ、こんにちは」
お父様の後ろには、おどおどとした男の子がいた。金髪碧眼の美少年だ。凄く愛らしい。
「こんにちは」
「知り合いの人が、暫く他所の国に行くので、息子を暫く預かって欲しいと頼まれてね。仲良くしてやってくれ」
「はい、分かりましたわ。ねえ、お名前は?」
「……」
ん?
美少年は無言のまま俯いている。
「ああ、この子はシルヴィーと言うんだ」
お父様が、美少年の名前を教えてくれた。
「そうですか。よろしくね、シルヴィー」
相変わらず無言だ。お父様に言われたとはいえ、仲良く出来るのかしら?私は先行きが不安になった。
数日経ったが、シルヴィーはあまり心を開いてくれなかった。最低限の会話は成立するようになったが、笑わない。
そんなある日、シルヴィーがなかなか起きてこなかった。
私は心配になり、部屋を覗きに行った。すると、シルヴィーは、ベッドで呻きながら苦しんでいた。
「シルヴィー‼︎」
私はシルヴィーの側に駆け寄った。
「アルフレッド、医者を」
「分かりました」
私は、シルヴィーの手を握った。
「大丈夫よ、シルヴィー。私がついているからね」
「あっ、あっ……うわぁあああーー‼︎いやだいやだーー‼︎」
シルヴィーは暴れている。私はシルヴィーを抱きしめた。
「しっかりなさい、シルヴィー‼︎貴方が見ているのは悪い夢よ。この私がついているんだから、何も心配することなんかないんだから‼︎」
私は大きな声で叫んだ。
すると、シルヴィーは徐々に落ち着いてきた。
「フレ……デリカ」
「そうよ、もう大丈夫よ」
「うっ……うっ……」
シルヴィーは私にしがみついて泣いていた。私はその背中を泣き止むまで撫で続けた。
シルヴィーは落ち着くと、また眠った。手は私の手を握っている。なので私は動けない。まあでも、これでシルヴィーが落ち着いて寝れるのなら、良しとしよう。
後で聞いたのだが、シルヴィーはとある事で精神的にダメージを受け、療養の為に我が家に来たのだという。何があったかは分からないが、少しでも早く元気になってくれると良いんだけど。
「アルフレッド」
「はい、お嬢様」
「ねえ……良いかしら?」
私は上目遣いをし、アルフレッドに訴えた。アルフレッドは、溜息をついて、やれやれといった仕草をした。
「しょうがないですね。明日だけですよ」
「ふふっ、ありがとう」
翌日、私は朝早くシルヴィーを起こしに来た。
「おはよー、シルヴィー‼︎さあ、出かけるわよ‼︎」
「えっ?」
「さあ、早く早く‼︎」
困惑しているシルヴィーを他所に、私はシルヴィーの手を引いて歩き始めた。屋敷の庭の奥まで行くと、私はシルヴィーに服を渡した。
「貴方はこれを着てね」
私はそう言い、服を脱いだ。
「⁈」
「お嬢様……」
シルヴィーは顔を真っ赤にして手で覆い、アルフレッドは呆れている。
「?何……⁈きゃあっ‼︎アッ、アルフレッド‼︎着替えてるから、少しあっち行ってて‼︎」
「いや、シルヴィー様もいらっしゃいますし、お嬢様があちらで着替えた方が良いかと」
シルヴィーは別に子供だし良いやとうっかりしてたわ。アルフレッドは大人とか子供とか関係ないから‼︎
好きな人がいる前で着替えなんて出来ないわよ‼︎
私は茂みに隠れて着替えた。
「この服は……」
「これならバレないから大丈夫よ」
私たち三人は街の人たちが来ているような服に着替えた。
これで、誰も私たちだとは分かるまい。私たちは庭にある柵で一部壊れているところから、外へと抜け出した。
「大成功ーー‼︎お父様達ったら、柵の穴のこと全然気付かないわねー。お陰でこうしてまた抜け出せたけど♪」
「また⁈」
「お嬢様はこちらに到着した翌日に、ここから抜け出して街に遊びに行っているのです」
「だって、屋敷の中にずっといるのはつまんないでしょ。それに街の人たちがどんな暮らしをしているかは、知って損はないわ。だって私たち貴族は、街の人たちが暮らしやすいようにすることも仕事の一つでしょう」
「確かに大切な事かもしれませんが、変装して街に出る子息・令嬢は、お嬢様以外いないかと思います」
「うぅーー」
「でも、私はそんなお嬢様も好きですよ。大丈夫です。私がしっかりお守りしますので」
「頼りにしているわよ」
こうして私はシルヴィーの手を引いて、三人で街に出かけた。