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第31話 従者は過去を振り返る2

「……全然小さな芽じゃないし」


「えっ?」


 ヴァンは頬を少し赤らめながら言った。横には空になった瓶が数本あり、ヴァンの目も心なしかすわっている。


「お前完全にガチで恋してるじゃないか。恋しかけているって言ったけど、完全に落ちてるからなお前」


「そっ、そうですかね?……ってか、貴方だいぶ酔ってますか?目がすわってますよ」


「うるさい‼︎こっちはあの時大変な目にあって荒んでいたというのに、お前は随分と楽しそうにしていたんだなと思ってな」


「まあ、多少は思うことはありましたよ。何故自分がこんな目に遭わなくてはならないのかと。ただ、思っていても自体は変わりませんし、だったら昔のことは忘れて新しくやり直した方が良いかと思っただけです」


「そしたら、使える相手が良い人で恋してハッピーな人生を歩めました……と」


「まあ、そんな感じですかね」


「羨ましいよ、全く。オレにもそんな人がいればな……。少しは違う人生だったかもな」


「これからいくらだって見つけられますよ。リリアナ様とか良いんじゃないですかね?」


「ぶほっ‼︎」


 ヴァンは盛大に酒を吹いた。吹いた酒はアルフレッドにかかり、アルフレッドはしかめた顔をしながらハンカチで拭った。


「全く汚いですね」


「おっ、お前が変なことを言うからだろうが‼︎」


「おや、その態度は満更でもないようですね」


「おっ、お前……‼︎」


「まあ、貴方のことはこのくらいにしておいて、続きを話しますね」


「話切るのかよ。しかも、まだ自分の話すのか……。巻いて話してくれると助かるんだが。なんか長そうだし」


「仕方のない人ですね。では……次はお嬢様と出会って4年後の話をしますか」


「大分飛ぶな⁈その間はないんかい‼︎」


「色々ありますが……貴方には話すべき話はないかと。……シルヴァント王子殿下とお嬢様の幼少期のお話とか聞きたいのですか?」


「えっ、あの二人って昔何かあったの⁈気になるんだけど」


 なんか食い気味に聞かれてしまったので、アルフレッドは仕方なく話すことにした。


「……じゃあ、かいつまんで説明しますと、シルヴァント王子殿下はあの事件の後、身分を偽ってヴァリアーヌ家に滞在していた時期がありまして、その際仲の良い友人になったのですが……その……」


 アルフレッドはなんだか歯切れの悪い物言いだ。


「?何があったんだ?」


「殿下がお嬢様に16歳の誕生日にプロポーズすると宣言なさいまして、お嬢様も快諾……しました」


「あはははははっ‼︎」


 ヴァンは大声で笑い始めた。笑い過ぎてその瞳には涙が溜まっている。


「えっ、じゃあ入学前の婚約って……」


「昔から決まっていたことです」


「お前が入り込む隙間一ミリも無かったんじゃん‼︎あはははははっ‼︎はははっ……‼︎……あー腹痛い」


「笑い過ぎです‼︎」


「ああー、笑った笑った……。んで、お前バレなかったのか?シルヴァント王子殿下に」


「一応魔法で殿下の中にある私の姿をあやふやにしたので、一致はしていないかと。あの頃の殿下は精神的に不安定でしたので、魔法には気づいてないと思いますよ」


「なら良いけどさ。まあ、あれから6年経つもんな。少年が青年になる頃の成長は、少し会わないだけで見違える程変わるものだ。今も似ているなと思われても、絶対に本人だと確信は持てないだろう」


「そう……ですね」


「……?どうした?」


「いえ、では次はお嬢様が14歳の頃のお話をしますね」


「結局まだ続くのかよ⁈」


 こうしてアルフレッドはまた昔話を始めたのだった。


 14歳になったお嬢様は、本当に美しい令嬢へと育っていった。昔から愛らしく素敵な方だったが、本当にお美しくなられた。

 この4年、お嬢様との生活は本当に素晴らしい日々だった。

 私はお嬢様が幸せに過ごせるように、精一杯お仕えしてきた。

 しかし、私にも少し欲が出てきたのだ。


 お嬢様は16歳には殿下の婚約者になる。そうなるとお嬢様と二人で出かけることも減るかもしれない。結婚してしまったらお嬢様は、今までのように外に気軽に出かけられないだろう。


 だから私はお嬢様とデートをしたかった。勿論デートではない。ただ私がデートと思えるプランで二人で出かけてみたかったのだ。


 ある日お嬢様は、女癖の悪くなったイーバン様に喝を入れに行こうとしました。

 そしてイーバン様の後を追い、私たちは街に赴きました。


「お嬢様、ここに行ってみませんか?」


 私はお嬢様に最近オープンしたカフェのチラシを差し出した。折角お嬢様と街に出かけたのだから思う存分デートしたい。


「とっても行きたいけど、まずはイーバンを探さないと」


「そのイーバン様ですが、十中八九女性といます。ですから、女性が喜びそうな場所にいる可能性は高いかと思います」


「成る程……」


「まあ、もしこのお店にいませんでしたら、このパンケーキでも食べながら次にどこに行くか考えましょう」


「それもそうね」


 お嬢様は納得してくれた。良かった。これでお嬢様とデートが出来る。


 私たちは目的のカフェに辿り着いた。お店は大繁盛しており、満員だ。私たちは外で少し待つことになった。

 今日は一段と冷え込んでおり寒かった。お嬢様は両手に息を吹きかけ、手を擦っていた。

 私はお嬢様に手袋を一つ差し出した。


「お嬢様、だから手袋を持つようにとあれほど……」


「だって〜。……あれ?手袋一つ?」


「はい、一つです」


「手は二つあるのよ。もう一つのも貸してよ」


「イヤです」


「まっ‼︎」


 お嬢様は私の反応に目を丸くした。無理もない。私がお嬢様の言うことを拒否するなんてあり得ない。

 私はお嬢様の左手に手袋をはめた。そして、お嬢様の右手を握り、自分のポケットに一緒に入れた。余った右手の手袋は勿論自分の手に。


「これなら二人とも暖かいですよ。如何ですか?」


「そっ、そうね。暖かいわね」


 お嬢様は恥ずかしそうにはにかみ、頬を染めている。

 ああ、可愛らしい。あまりにも可愛らしいので、もっとお嬢様が頬を染める姿や、目を潤ませる姿が見た……っといけませんね、つい。

 別にお嬢様を困らせたいわけではありません。ただ、お嬢様が可愛すぎるのがいけないのです。


「……このサディストめ。やっと本性を現してきたな」


「ちょっと……話の腰を折らないでください」


 ヴァンはやれやれという顔で溜息をついている。


「フレデリカ様から聞くお前は、かなり良い人だよ。お前本当に猫被り過ぎだよ。でも、欲が出て本性が見え隠れしてきたんだな」


「うぐっ……。ちょっとくらい良いじゃないですか。ちゃんとお嬢様が嫌がるようなことはしないように、考えて行動しているのですから」


 アルフレッドは酒を一口飲み、また話し始めた。

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