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第30話 従者は過去を振り返る1

 私の名はアルフレッド。只のアルフレッドです。

 今から6年前、お嬢様の10歳の誕生日からヴァリアーヌ家にて従者として働くことになりました。


 これは、そんな私とお嬢様の物語ーー。



 6年前、私はとある国の王家の継承権争いの渦中にいた。どんな争いだったかは割愛するが、ともかく私はその継承権争いの末、廃太子となった。そして訳あってヴァリアーヌ侯爵に拾われたのだ。


 そしてヴァリアーヌ侯爵本家へと侯爵と共に馬車で向かった。


「聡明な貴方様がこの様な事になるとは……。残念でなりません」


「ヴァリアーヌ侯爵……。いや、私はこれで良かったと思っているよ。弟が王位を継いだ方が皆幸せになれる」


「殿下……」


 侯爵は複雑そうな顔をしていた。しかし、私は悲観などしていなかった。今までの身分を捨てて、一から人生をやり直す。私はとてもワクワクしていた。


「もう殿下では無い。只のアルフレッドだ。……ここより先は貴殿の屋敷の一従者です。何卒、宜しくお願い致します」


「殿下……。いや、アルフレッド」


「はっ」


「これからは我が娘の専属従者として働いてもらう」


「お嬢様……ですか。確か旦那様には二人お嬢様がいらっしゃいましたね」


「ああ。君には長子のフレデリカに付いてもらう。あれは少し気が強くお転婆だが、根は良い子でね。真面目な子なんだ」


 ヴァリアーヌ侯爵は、娘の話になり途端に父親の顔となった。国の重鎮も、娘の前では只の父親の様だ。娘を溺愛しているのが良く分かる。


「我が家には娘しかいない。将来はどちらかが婿を取る事になるのだが、あれは優秀な娘だ。それこそシルヴァント王子殿下の元へ嫁ぐことも十分にあり得る」


「……」


「どの様な未来になろうとも、ヴァリアーヌ家の娘として強く気高く生きていける様に教育してやってほしい」


「……はい。仰せのままに」


 私は旦那様に頭を垂れた。








「お父様っ‼︎」


 侯爵家に着き、旦那様が馬車から降りると、少女は勢いよく旦那様に抱きついた。

 ピンクの髪の長い少女だ。少女は顔を上げキョロキョロしている。一体何を探しているのだろう。


「ただいま。ははっ、フレデリカはお転婆だな。やはり従者を付ける必要がありそうだな。さあ、降りておいで」


 私は旦那様に促されて馬車を降りた。


「彼の名はアルフレッドと言う。とある国で色々あってな。身寄りがないので、私が引き取ることにした。フレデリカも、もう10歳だ。専属の従者を付けようと思う。彼はとても優秀だから、色々勉強になるだろう。仲良くしてやってくれ」


「ありがとうございます、お父様。勿論ですわ。よろしくね、私はフレデリカよ」


 お嬢様はそう言い手を差し出した。私は咄嗟に旦那様の後ろに隠れた。私の姿は服もボロボロで、肌にはいくつか傷がある。全体的に土などで汚れている。とても汚らしい格好だ。太陽の様に眩しく微笑むお嬢様とは天と地の差。この様に汚い者との握手など……。


「?どうしたの?」


「私は、その汚れてますので……」


 私が答えると、お嬢様は納得された様子だった。

 ……なのに、お嬢様は私に抱きついた。


「⁈」


「おっ、お嬢様⁈」


 私も旦那様も驚いてしまった。


「これで私にも、その汚れがついたから一緒よ。ふふっ、こんなのは後で洗えば良いんだから、気にしないの‼︎……さあ、これで私と握手してくれるわよね」


 お嬢様は再び手を差し出した。

 ……なんとお美しい方だ。見た目もさることながら、心も美しい。私は雷に打たれた様な衝撃を覚えた。


 ……そして私の中に淡い小さな恋の芽が芽吹いた。それはあまりにも小さく、吹いたら飛んでいきそうなもの。そして育ててはいけないもの。

 だが、私は自分の意思でその芽を摘まなかった。正確には摘めなかった。


 大事にしたい。これは私にとって初恋だ。私は全てを失った者だ。今の私は一介の従者だ。この恋は叶うはずのない恋。その様な恋は忘れてしまった方が良いと思う人が大概だろう。だが、叶わなくて良い。

 彼女を想い、一人前の淑女に育て上げ、誰かのものになる時は笑顔で見送る。想いがあれば辛くなる事だが、想いがあればこそお嬢様との日々もまた、色鮮やかな日々となる。


 辛い分だけ楽しい日々になる。


 お嬢様の側にいたい。お嬢様の素敵さを皆にも分かってもらいたい。お嬢様を独り占めしたい。


 そんな矛盾を抱えながらの新しい生活は、今までの生活とは180度違い、とても楽しい日々になるだろう。


「よろしくね、アルフレッド」


「はい、お嬢様」


 私はお嬢様の手を取り、握手した。

 そして、新しい生活に心躍らせていたのだった。

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