第3話 悪役令嬢は婚約回避を試みる3
「フレデリカ、好きだ。ずっと前から想っていた。オレと結婚してほしい」
私は先程、そうアルフレッドに言われた。
私、夢でも見ているのかしら?アルフレッドのことが好き過ぎて、プロポーズをされる夢を見ているんだわ。ああ、重症ね。
「ーーと言うような感じで如何でしょうか?やはりプロポーズはシンプルなのが一番かと。イーバン様のプロポーズに合わせて、呼び捨て&オレと言う言葉を使いました。フレデリカ様の所をマーガレット様にすれば大丈夫ですよ」
なんだ。イーバンへの提案か。そうよね、アルフレッドが私にプロポーズする訳がないわよね。
するとアルフレッドは再びフレデリカの前で跪き、深々と頭をたれた。
「お嬢様、申し訳ございません。プロポーズのご提案の再現するをする為とは言え、お嬢様を呼び捨てにするなんて。申し開きのしようもございません」
私は腰を落とし、アルフレッドの頭を撫でた。
「そんなこと言わないで、アルフレッド。確かにビックリしたけど、全然怒ってないわよ。イーバンへの提案ありがとう。今の言葉凄く良いと思うわ。少なくとも私は、凄く嬉しかったわよ」
「お嬢様……」
アルフレッドは私を見て、少し涙を浮かべている。私はにっこりと微笑んだ。
「イーバン、今の私も良いと思うわ。良かったら、マーガレットへのプロポーズの参考にしてね」
「お嬢様、そろそろお時間が」
「あら、ホントね。じゃあ、イーバン。また後でね」
「それではイーバン様、失礼致します」
「あっ、ちょっと……」
イーバンが何か言う前に二人は部屋を後にした。
「……違うって言おうとしたんだけどな」
イーバンは誰もいない部屋でポツリと呟いた。
私は服を着替えた後、アルフレッドに化粧をして髪を結ってもらった。
「どうですか、お嬢様」
「ふふっ、とっても素敵よ」
私はハーフアップしてもらった髪型にとても満足していた。メイクもバッチリだ。
気がつくと日が暮れていた。もうすぐパーティーが始まる。
窓の外を覗くと、馬車が次々と来ている。
今いるこの場所は、ヴァリアーヌ領内の本宅ではなく、王都内にある別宅だ。
この国では16歳が成人の年。16歳の誕生日は特別なのである。侯爵令嬢の誕生日なので有力貴族や諸外国の偉い方もいらっしゃる。その為、王都にて行うこととなった。
しかしここは城ではない。多分今日は殿下がプロポーズをして、後に城にて婚約発表パーティーをすることになるのだろう。
どうやってプロポーズを回避するか。全然思いつかない。主役の私がパーティーをボイコットしたら、大変なことになるし。
私はこの先に起こることを考えると気が重くなった。
「お嬢様、どうされました?」
「あっ、うん。殿下にプロポーズされたらと思うと……気が重くてね」
こんな事、人に言っちゃいけない事なんだろうけど。アルフレッドは軽蔑するかしら。
「お嬢様と殿下は、幼い折にお会いしたきり会っておりません。ほぼ初対面です。そう思うのも無理ありません。ですが、大丈夫ですよ。お嬢様には私がついていますから」
アルフレッドは膝をつき、私の両手を包み込むように手を添えた。
「アルフレッド……」
ああ、このまま駆け落ちしてと言ってしまいたい。叫びたい‼︎
アルフレッドはポケットに入っていた懐中時計を見た。
「ああ、もうお時間ですね。ではお嬢様」
そう言い、アルフレッドは私にキラキラしたとても綺麗な靴を履かせてくれた。
まるで王子様がお姫様に靴を履かせるみたいに。
ああ、アルフレッドが婚約相手ならどんなに良かったか。王子姿のアルフレッド似合うだろうなー。
私はそんな妄想をしながら、パーティー会場へと足を運んだ。
パーティー会場は沢山の人で溢れかえっていた。
「フレデリカ」
「お父様」
私はお父様の方に移動した。そこにはお母様、妹のマーガレット、グランソワ叔父上、従兄弟のイーバンがいた。
「フレデリカ、誕生日おめでとう。これでお前も一人前だ」
「16歳の誕生日おめでとう、フレデリカ。とってもキレイよ」
「お姉様、お誕生日おめでとうございます」
「フレデリカ、おめでとう。いやーあの小さかったフレデリカが、こんなに大きく……。ああ、すまん。歳をとると涙もろくなるな」
「おめでとう、フレデリカ。キレイだよ、本当に」
皆が思い思いに祝いの言葉をくれた。
すると後方が騒がしくなった。後ろを振り向くと、殿下が到着したようだ。
国王様と王妃様は今日は来ない。
殿下さえなんとか丸め込めれば、乗り切れる。
「フレデリカ、久しいな」
「お久しゅうございます、殿下。本日はわざわざお越しくださりありがとうございます」
私はカーテシーで挨拶した。
シルヴァント=エメラルディア。エメラルディア王国の第一王子で、次期国王。
金髪碧眼で、ザ・王子という風貌だ。
アルフレッドが言うには、私たちは幼い頃に会っているらしい。私の記憶にはないのだが。向こうは「久しいな」と言っているので、私のことを覚えているようだ。取り敢えず、話を合わせておこう。
しかし私たちは昔会ったことがあっても、私が覚えていないくらい些細な出来事だったのだろう。それはつまり、殿下は私のことをなんとも思っていない。
これは国として、王家と侯爵家の婚姻が有益であると判断されたから結ばれる婚約。一個人の感情は一切ない。
ここに付け入る隙があるはずだ。
殿下は一個人として、私との婚約をどう思っているのだろうか。王家の人間として仕方がないと思っているに違いない。
恋の大切さを殿下に伝えるべきだ。
そうすれば殿下から国王様に言ってくれるかも。
「殿下、少し向こうでお話ししませんか?」
「あっ、ああ」
皆が騒めく。自ら婚約の話を切り出すのかとか言う声が聞こえてくる。
そんなわけないじゃない。寧ろその逆よ。言われる前に潰すのよ‼︎
私たちはバルコニーに移動した。
「こっ、今夜は月がキレイだな」
殿下は少し頬を赤らめながら言った。まっ、まずい。殿下は婚約の話を言うつもりだ。
「殿下。お話があるのですが、よろしいでしょうか」
「?ああ……」
「その……殿下は結婚と言うものをどう考えてますか?」
「⁈」
「私たち身分のあるものは、自分の意思とは関係なく婚姻を結ばなくてはいけないこともあります。それは分かっているのですが、私は殿下には幸せになっていただきたいのです。好きな人と結ばれて欲しいのです」
そう、この先出会う主人公と‼︎どうせ後で婚約破棄するなら、いっそのことしなければいい‼︎
私は切実に訴えた。自分が殿下と結婚したくないなど失礼な事は言えない。だから好きな人と結婚して欲しいと訴えた。
殿下は主人公を好きになる。主人公が他のルートに行って婚約破棄はしなくても、好意を寄せている描写はあった。だから絶対主人公を好きになる‼︎
これは私の為でもあり、殿下の為でもあるのだ。
殿下を見ると驚いた顔をしている。そりゃそうよね。いきなりこんなこと言われたら、ビックリするわよね。
「私のことをそんなに考えてくれていたなんて……。嬉しいよ」
「はっ、はあ……」
殿下は私の両手を取り、握った。
「私と結婚してほしい」
「はいぃ⁈」
なんでそうなる⁈今私は好きな人と結婚した方が良いよーって言ったのよ‼︎
「私は幼い頃から、君のことを想っていた。だから私は、君と結婚したいとずっと思っていた。君は侯爵令嬢だから、国王も私たちの婚姻には特に反対はしていない。しかし、君の気持ちが心配だったんだ」
えっ⁈殿下って私のこと好きだったの⁈婚約前は好きだったけど、その後嫌いになるとか?んー、今はゲーム開始時点より前の時期だから、よく分かんないんだよね……。
というか、私の気持ちが心配で、なんでプロポーズになるの?
「君に好きな人と幸せになって欲しいと、心配されて嬉しかったよ。そこまで思うほど、私のことを好きでいてくれてたとは」
えぇえええーー‼︎そう捉えるの⁈
「私たちは幼い頃から、両想いだったんだね」
違うから‼︎激しく誤解しているから‼︎
「一緒に幸せになろう」
殿下は私の手を取り、口づけした。
鳥肌がたった。
無理無理無理無理ーー‼︎
私が愛しているのは、アルフレッドだけなのよーー‼︎
私は心の中で叫びながら気を失った。
ああ、私とアルフレッドの恋の道のりは、長く険しそうね。
でも絶対に諦めないんだからーー‼︎
私はそう心に固く誓い、暫し眠りにつくのであった。
*婚約破棄イベントまで後一年と二ヶ月*