第20話 悪役令嬢は学園に入学する1
私は人目も憚らず、頭を抱えて険しい顔をしていた。
「お嬢様?」
「アルフレッド……」
私は我に返り、アルフレッドを見上げた。取り敢えず、落ち着け私。まだそうと決まったわけではない。取り敢えず私はゲーム通りに殿下と主人公をくっつけるが、アルフレッドには愚痴らない。絶対に‼︎
まあ、二人が仲良くなってラッキーって私は思うから、個人的には愚痴る必要性はないのだけれど。
ただ、私が殿下を取られて嫉妬するって演技はしない方が良いのかもしれないわね。
私は頭の中を整理し、深呼吸した。
「お父様、護衛の件は分かりました。お受けいたします」
国王の命なら私如きが断れる筈もない。王家の昔話が聞けて、情報は得られたのでまあ、お受け致しましょう。
「うむ。では、ディードゥル殿これから娘をよろしく頼む」
「はっ、命に代えましても」
「では、私は時間ですので、学園へ向かいます」
私は席を立ちお父様に一礼し部屋を去った。その後を、アルフレッドとディードゥル様が付いてくる。
しかし、ディードゥル様も可哀想に。ナイトを断った相手の護衛をする事になるとは。しかも断れない案件だし。他人事ながら可哀想過ぎる。
私は馬車に揺られながら、目の前にいるディードゥル様になんて声をかけたらいいか考えていた。すると、ディードゥル様の方から話しかけてきた。
「国王の命で私が護衛する事になり、申し訳ござい」
えっ⁈まさかのディードゥル様が謝った。
「顔をお上げください。私は別にイヤとか思っていませんから」
「ですが……」
「先日お断りした時にも言いましたが、私は別にディードゥル様が嫌いでお断りしたわけではないのですよ」
そう、先日私はディードゥル様にある理由でナイトをお断りしたのだ。
***
「私はディードゥル様を尊敬しております。だからこそ、ナイトの申し出には慎重になるのです」
私はあの夜、ナイトの申し出をお断りした。そう、全てはアルフレッドとの恋の為、ゲームにないイレギュラーはこれ以上増やしたくはないのだ。それに私は婚約破棄を目指している。そんな人のナイトなんて可哀想よ。
しかし、ディードゥル様が悲しむ顔は見たくはない。私はある理由でお断りをした。
「私が正式に殿下と結婚するまで、待ってもらえないでしょうか?」
「ご結婚するまで……ですか?」
「はい。今の私はまだ殿下の婚約者。万が一、婚約破棄にでもなれば、私のナイトになっていたら、ディードゥル様の名誉が傷ついてしまいます。ですのできちんと殿下と結婚した後、まだディードゥル様が私のナイトになりたいと思ってくださっていたら、その時はよろしくお願いいたします」
私は深々とお辞儀した。
「お顔をあげてください。、フレデリカ様。私の身まで案じてくださり、貴方は本当にお優しい。そんな心配せずとも大丈夫な気はしますが」
「でも、万が一ということもありますので。私は絶対でなくてはお受けしたくないのです」
私は力一杯力説した。
「……分かりました。ご結婚まで、お待ちしております」
ディードゥル様は、スッキリしたお顔で笑ってくださり、頭を垂れた。
***
「私としてはナイトになりたいと切望したお方の護衛ができて光栄ですが、フレデリカ様の心情的にどうかと思いまして。嫌いでお断りされたわけではないことは、分かっております。しかし、気まづいのではないかと」
「そんなことありませんよ。お気遣いありがとうございます」
ああ、優しい。本当にごめんなさい、ディードゥル様。
話をしていると、学園についた。ディードゥル様の護衛は学園への登下校なので、ここで一旦お別れである。
「では、お帰りの際お迎えにあがります」
「ありがとうございます」
私はディードゥル様に一礼し、アルフレッドを連れて、学園の門をくぐった。
おおっ、懐かしの風景‼︎これよこれ。私がプレイしていたゲームの世界は。
ゲームでメインとなった学園。ここには、ゲームと同じ風景が広がっていた。私は懐かしの景色を堪能しながら、学園内を歩いた。
しかし、途中で足が止まる。
「お嬢様?」
アルフレッドが心配して私に声をかけるが、私は答える余裕がない。嫌な汗をかき。体が震えている。
イレギュラーが発生した。それも見過ごせないほどの大きなものだ。
「なん……で……あの子が……」
私は体を震わせ、上手く言葉が出ない。そんな私をアルフレッドは肩に手を置き、支えている。
なんであの子がここにいるのよ‼︎貴方は5月に入学してくるはずでしょーー‼︎
そう、5月に入学してくるはずの主人公、リリアナ=コーネリウスが学園に現れたのだ。
リリアナがまさかの一ヶ月フライングしての登場。フレデリカは嫌な予感しかしなかったのであった。
*婚約破棄イベントまで、後一年*




