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第19話 悪役令嬢は王家の秘密を知る2

「その前に確認だが、フレデリカ、お前はどこまで知っている?」


「えっと…側室とアーバン王子殿下が療養の為に王家を去り、郊外でひっそりと暮らしていたが、数年後、流行病で二人は病死したっていうのは嘘で、継承権争いで側室が自害したとお父様の日記に……あっ」


 しまった。つい、うっかり。


「フレデリカ……。お前という奴は、好奇心旺盛なのは良いが、していいことと、いけないことがあるぞ」


「はい……すいません」


「はあ……では、長くなるが少し昔話をするか」


 お父様は背もたれに背中を預けて、天井を見上げた。そして、胸ポケットからある一冊の手帳のようなものを出した。

 そして、それを開いて話し始めた。


 エメラルディア国王には二人の妃がいた。

一人は、正妃アマルリア、もう一人は側室カリエリス。


 国王は正妃に子供がなかなか出来なくて、国の重鎮に早く王子を、それが無理なら側室をと強く言われ続けた。

 国王な正妃を愛していた。だから側室を持たなかった。しかし、周りの重圧に押しつぶされそうになった正妃は、待望の子を授かっても、流れてしまった。

 そして段々と心を病んでいった。


 そんな正妃を見兼ねて、重鎮たちが側室にとある一人の女性を城に招いた。

 それがカリエリス。その時国王は35歳、カリエリスは15歳だった。

 カリエリスは、隣国ルビディア王国の王弟の娘。紅の国と呼ばれる国の姫君だったカリエリスは、真紅の瞳に真紅の髪出会った。その人目を引く風貌と、持ち前の美貌が相まって紅の姫君と呼ばれる者だった。沢山の求婚を受け続けていたが、全て断っていた。

 王弟は現在65歳。遅くに生まれた末娘で、溺愛されて育った。そんな彼女が20歳も年上の人の側室候補として城に招かれた。

 彼女は、溺愛されて育ち、欲しいものは全て手に入れてきた。しかし、手に入らないものが一つあった。


 それは、王位。

 国王には何人も王子がいて、王弟である父が王位を継ぐ可能性は限りなく低い。

 そして、父の子供の中でも末っ子で、しかも女の自分に王位が回ってくることはほぼ0だろう。

 ならば、他国に嫁ぎ、自分の子を王にする以外この野心は満たされることはない。その為いくら求婚を受けても、それが叶う相手ではないので全て断っていたのだ。


 そう残念な事に、嫁げそうな年頃の相手達には正妃がいて、王子も生まれていた。既に次期国王は決まっている国ばかりだったのだ。嫁いでも私の子が王位を継げない。


 そんな折、エメラルディア王国の王の側室の話がきた。王には子供はまだおらず、正妃はそのことが原因で心が病んでいた。

 20歳も歳が離れているが、気にしなかった。寧ろ若さを武器に出来るとさえ思った。


 そして、国王とカリエリスは結婚し、カリエリスは側室となった。

 カリエリスはその若さと美貌で国王の心を動かし、数ヶ月後には懐妊した。そして、生まれてきたのは念願の王子であった。

 しかし、生まれてきたのは自分と同じ真紅の瞳の王子だった。この国では翠の瞳の王子が代々王位を受け継いでいる。

 何故自分に似た子が生まれてしまったのか。カリエリスは嘆いた。

 しかし、今は他に子は一人もいない。例外で王位を継ぐ可能性はあった。万が一に備えて、彼女は真紅の瞳の王子を大事に育てた。


 そんなカリエリスは、次こそ翠の瞳の子をと躍起になった。そして半月後懐妊し、生まれた。生まれた子は翠の瞳の王子。念願の王位を継ぐものだ。


 カリエリスは、この瞬間自分の野望がやっと叶うと思った。


 しかし、王子が生まれて後継者問題が解消され、重圧から解き放たれたことから、正妃の具合が良くなった。

 そしてまさかの正妃懐妊。生まれた子供は男の子だった。そして翠の瞳の王子だった。


 こうして王室には三人の王子が誕生したのだ。側室の子と言えど、先に生まれた子供。しかも翠の瞳の王子。

 カリエリスは第二王子を溺愛し、育てた。そして、第一王子は母の愛を受けられず育っていった。



「お父様、王子は三人いたのですか?」


 初耳だ。フレデリカとしての記憶にもゲームの情報にもなかった。


「ああ、王子は三人いた。何故お前が知らないのかは、今から話すことで分かるだろう」


 お父様は話の続きをし始めた。


 第三王子が生まれて数年が経った頃、ある事件が起きた。第二王子が暗殺されたのだ。カリエリスは嘆き悲しんだ。

 犯人は正妃側の人間か、それとも他国の者か。真相は明らかにされなかった。

 そして、国民が第二王子の死に嘆き悲しんでいたある日。王国全てを包む淡い光が放たれた。魔法だ。この日を境に国民は誰も第二王子の事を話さなくなった。つまり部分的に記憶を消す魔法。このような広範囲の魔法は普通はあり得ない。一体誰が。


 ただ、この魔法は第二王子と関わりが深かった者にはあまり効果がなかった。

 多分効果の程度は第二王子と直接関わった時間に比例しているようだ。


 王族と国の重鎮たちは第二王子のことを覚えていた。重鎮たちは、暗殺された事を他国に隠したかった。この現象はとても都合が良かった。こうして第二王子の存在は隠されたのだった。


「……………」


 私は息を飲んだ。そのような広範囲魔法が存在するとは。使い手は相当の魔力の持ち主だ。王宮筆頭魔術師でも扱えるだろうか?

 そして、第二王子の暗殺。犯人は一体……。


 残る王子は、真紅の瞳の第一王子と、正妃の生んだ翠の瞳の第三王子。

 瞳の色と、母親の立場から、王位継承権第一位は、第三王子のものとなった。

 カリエリスは必死に国王の愛を繋ぎとめようとした。また翠の瞳の子が生まれて、自分の子が優秀なら、その子が王位を継げるかもしれない。


 しかし、国王には元々カリエリスに対して愛情はなかった。

 情はあったが、愛してはいない。愛しているのは正妃アマルリアだけ。側室に対しては家族愛しかなかった。

 カリエリスは自分の美貌で国王を虜にしたと思っていたが違ったのだ。

 国王は正妃以外を愛しておらず、後継問題で心が押しつぶされてしまった正妃を助けるために、娶ったに過ぎない。事実、カリエリスに翠の瞳の子が生まれて、後継問題が解消されてからはカリエリスと夜を共に過ごしていない。

 しかし、子供の事は平等に愛していた。だから、第二王子が亡くなった時は悲しみに暮れていた。

 そして第一王子に対してのカリエリスの態度には、不満を持っていた。それが原因で次第に国王はカリエリスに対して冷たい態度を取るようになった。正妃は第一王子にも愛情を捧げ、正妃の元で二人の王子はすくすくと育っていった。

 こうしてカリエリスは王室で孤立していった。


 そして第一王子のアーバン王子殿下が12歳、第三王子のシルヴァント王子殿下が10歳の時に事件は起きた。


 シルヴァント王子殿下毒殺未遂である。その頃、隣国の同盟国であるルビディア王国の王室も継承権問題で問題が起きており、我が国の問題まで露見すると、同盟を組んでいない国が攻め込んでくるかもしれない。そう国の重鎮たちは考えた。


 幸い一命は取り留めたので、箝口令を敷いて実行犯と黒幕の側室を軟禁した。そしてアーバン王子殿下の王位継承権は剥奪された。

 動機は第二王子暗殺の恨みと、王の愛を一身に受ける正妃への恨みだ。


 実際、この事件がきっかけで第二王子の暗殺の件が明るみになった。あの事件の犯人が今頃になって分かったのである。

 犯人は、第三王子付きのメイドだった。シルヴァント王子殿下が毒を盛られた時に、側におり「第二王子事件の恨みか⁈恨むなら私を恨みなさい。私が犯人なのだから」と犯人に言ったのだ。


 やはり正妃側の人間の仕業だったのかと、カリエリスは怒り狂って軟禁部屋で当初暴れていた。

 しかし一頻り暴れると、萎れた花の様に大人しくなった。

 王との間に子はもう望めない。第三王子も一命を取り留め、自身の唯一の子は王位継承権剥奪。この国の未来の王に自分の血を残す事は不可能。カリエリスの野望はここで潰えた。生きる目標を失ったカリエリスは歯に仕込んでいた毒で、自害した。


 一命を取り留めたとはいえ、未来の国王を殺そうとした人の息子であるアーバン王子殿下。これ以上王宮に留まるのは、アーバン王子殿下の為にも良くないと思い、国王は名を変え、一国民としてひっそりと暮らすことを提案した。

 アーバン王子は母親とは違い、正妃やシルヴァント王子殿下と友好的だった。国王もアーバン王子を愛していた。離れるのは辛いが、王宮にいては余計に傷つけてしまうと国王は考えたのだ。アーバン王子も国王の意思を汲み取り、監視付きではあるが、この国で一国民として生活することにしたのだ。


「では、アーバン王子は今はこの国のどこかで?」


「ああ、穏やかに暮らしているよ」


「あの広範囲魔法は?」


「それは未だに分からないのだ。あのような魔法を使える者なら、相当な実力者だと思うのだが」


 お父様は開いていた手帳のようなものを閉じ、しまった。


「お父様、先ほどのものは?」


「あれは側室カリエリス様の日記だ。自害した後、私が保管することになってね。今日はお前に王族の一員になる準備として、騎士が付く事になったからね。お前次第では昔話をしようと思って出してきたのだよ」


 そうだったのか。それで私は見事に情報を引き出せたと。

 でもひとつ気になっていることがあった。


「あの、アーバン王子はどのような方だったのですか?真紅の瞳をしていたとしか分からず。肖像画なども残されていないのですよね?」


「ああ、側室とその息子二人の肖像画は残されていない。アーバン王子は、真紅の瞳に茶色の髪をしており、とても利発な方だったよ。本当に優秀な方で、私はあの当時、瞳の色に拘らず、二人の能力をこれから見定めてどちらを王にするか考えるよう進言したのだがね。当時の私には今ほど発言権は無かったからね。それが通ればあのような惨劇は免れたのではないかと、悔やまれるよ。ああ、だからと言ってシルヴァント王子殿下が王位を継ぐ事に不満はないのだよ。ただ、二人とも優秀だから、色だけで決められるのは本意ではなかっただろうなと」


 アーバン王子はそんなに優秀だったのか。

 ……ん?茶色の髪に、真紅の瞳。それで優秀……。


 ガチャ


 話が終わったので、二人は部屋に戻ってきた。私は、アルフレッドを目で追った。


「お嬢様、どうかなさいましたか?」


「えっ⁈いっ、いや……。なんでもないわ」


 アーバン王子の特徴って、アルフレッドと一緒なんだけど。確かにアルフレッドになら、殿下を主人公に取られた恨み辛みを愚痴れるわね。

 そして、我が家に来た時期的にも……。訳ありでうちに来てるし。そして、監視付きで一国民って、お父様と言う監視の下、我が家で従者。……ヤバイ。筋は通っているわ。


 でもでも、主人公が攫われた時「あのフレデリカという女は〜」って言い方をしてたわ。あんな言い方、アルフレッドはしない‼︎

 ……でも、アルフレッドなら自分がフレデリカの従者とバレて私にまで罪が及ぶのを恐れて、演技したとかもあり得るかも。


 もし……もしも、アルフレッドがアーバン王子の場合、私は婚約破棄を目指す=アルフレッドに犯罪をさせる事になるってこと⁈

 そんなの絶対にイヤーー‼︎好きな人にそんな酷いことさせれないわ‼︎


 私、どうやったらアルフレッドと幸せになれるのよーー‼︎


 既存の婚約破棄ルートを潰されたフレデリカ。アルフレッドとの恋の道のりは、かなり険しそうである。

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