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小話 アルフレッドからのご褒美

パーティー前にアルフレッドが言っていた、ご褒美の話です。

 パーティーを終えた私は、屋敷に戻った。パーティーでの出来事は正直辛かった。

 好きな人に、別に好きな人がいると思われていて、しかも応援されていた。

 これ以上辛い事はない。でも、私には起死回生のチャンスがある。

 そう、婚約破棄だ。ゲームのように殿下に主人公を好きになってもらって、私はその主人公にキツくあたる。現在殿下は私を好いているが、主人公といえば皆に愛されるキャラ。ゲーム補正が加われば、きっと好きになるはず‼︎

 私はそう思い込むことによって、辛うじて希望を持って前向きに生きていた。


 そう言えば、アルフレッドがパーティー頑張ったらご褒美をくれるって言ってたわね。一体何なのかしら。


 私はご褒美に想いを馳せながら眠りについた。


 ***


「……様、お嬢様」


「んっ……」


 あれっ、もう朝?私は誰かに呼ばれた気がして目を開けた。朝日が眩しい。

 私はまだ眠たくて、布団にくるまり目を瞑った。


「お嬢様、もう朝ですよ。いつまで布団にくるまっているんですか」


 えっ?アルフレッド⁈


 私は声の主に気づき飛び起きた。すると目の前に飛び込んできた景色は、上半身が……その、何も着ていない状態でベッドの脇に腰掛けているアルフレッドだった。


 なっ、なっ……なんで⁈


「おはようございます、お嬢様。今日も良い天気ですよ」


 外を眺め笑うアルフレッド。その鍛え抜かれた体は、引き締まっていて美しい。マッチョではなく、細身。でも筋肉は程よくあって、無駄な脂肪はない。

 ゲームでも拝めなかったアルフレッドの姿。まさか、拝める日が来るとは……有難や。


 そんなことを思っているとアルフレッドが近づいてきた。


「どうしたんですか?」


 ベッドが軋み、二人の距離が近く。すると握っていた布団が落ち、私の体が露出する。

 私はひやりと冷たい空気を肌で感じ、違和感を覚えた。そして、顔を下に向けると、衝撃的な事実を知る。


 そう、私は一糸纏わぬ姿でベッドにいたのだ。


「〜〜〜〜〜‼︎」


 私は声にならない声を出し、布団に潜った。何が起きた。なんで私は何も着ていないの?なんでアルフレッドも上半身何も着ていないの?

 布団に潜っていると、ベッドがまた軋んだ。そしてアルフレッドが覆いかぶさるように私の上にいる。アルフレッドは布団を少し剥がし、私の顔を見えるようにした。


 恥ずかしい。恥ずかしくて顔から火が出そう。アルフレッド、お願いだから顔を見ないで。

 私は若干涙目になっていた。


「赤くなって、可愛いですよ」


 アルフレッドは微笑み、私の額に口づけをする。そして、こめかみ、頬、耳とキスの雨を降らしていく。


「フレデリカ……」


 アルフレッドは、熱っぽい声で私の名を耳元で囁く。お嬢様ではなく、フレデリカと。


 これは、この状況は……。昨夜アルフレッドと私は、そーゆーことになったと解釈しても良いのかしら⁈

 と言うか、私とアルフレッドの格好的にそれ以外ないよね‼︎

 全然覚えてないんだけど、私たちついに……ついに……‼︎





 ***



「……様、お嬢様‼︎」


「んっ……」


「いつまで寝ているのですか、いくら昨日疲れたからといって寝すぎですよ‼︎」


 バサッ


 私は布団を思いっきり剥がされた。


「きっ、きゃあぁあああーー‼︎」


 私は大声で叫んだ。待って、今の私は……‼︎


「……って、あれ?」


 私は自分の体を見た。私は一糸纏わぬ姿ではなく、寝間着を着ている。アルフレッドを見ると、ちゃんと燕尾服を着ている。


 もしかして、さっきのは……夢?

 私は一気に体温が上昇するのを感じた。


 はっ、恥ずかしい‼︎昨日アルフレッドがご褒美をあげるって言ったから、こんな夢を見たんだ‼︎ご褒美が何かは分からないけど、こんなこと起こるわけがないのに‼︎


 私は布団のないベッドで丸くなって、心の中で叫んだ。


「アルフレッド……。着替えたら行くから、先に下に降りててちょうだい」


「?畏まりました」


 私は弱々しい声で言った。するとアルフレッドは布団をベッドの端におき「二度寝なさいませぬよう」と言って部屋を後にした。


 私はアルフレッドが部屋から出たのを確認し、ベッドから降りた。

 あんな夢を見てしまうなんて、欲求不満なのかしら。でもよく考えたら前世で16年生きて、そのままの記憶を引き継いで10歳からフレデリカをやっているから、22歳みたいなものよね。

 その年なら、こう言うこと考えるのも普通よね‼︎

 私は自分が恥ずかしい妄想をしてしまったことは仕方がないことだと、必死に肯定しようとした。この年ならしょうがないと。


 下に降りて、食堂の前に行くとアルフレッドが立っていた。


「お待ちしておりました、お嬢様」


 そう言いアルフレッドが扉を開くと、そこには夢のような光景が浮かんでいた。


 ショートケーキ、ガトーショコラ、チーズケーキなど色とりどりのケーキ。プリンやムースなど、ガラスの小さな入れ物に入ったもの。小さくて艶やかなボンボンショコラ。カラフルなマカロン。

 そしてテーブルの中央には、木のようにそびえ立つ……


「クロカンブッシュ……」


「はい、そうです」


 そう、机には溢れんばかりのスイーツが並べられていた。ケーキバイキングだ‼︎


「アルフレッド、これって……」


「はい。お嬢様が以前、テーブル一面スイーツで埋め尽くして色々なものを食べたいと仰っていたので」


「クロカンブッシュも覚えていたんだ」


「はい、去年のクリスマスの時にもみの木がクロカンブッシュだったら良いのにと仰っていましたので」


「嬉しい。ありがとう、アルフレッド」


「喜んでいただけて、光栄です」


 アルフレッドは、私の日常でポロっと言った何気ない願いを叶えてくれた。本当によく私のことを見てくれている。そして、私が喜ぶことをいつもしてくれる。


「いつもありがとうね。貴方に出会えて良かったわ」


「お嬢様にそのように言っていただけて、従者冥利につきます」


「折角のスイーツ、よかったら一緒に食べてくれない?」


「お嬢様と……私がですか?」


「ええ。私が寝坊したからちょうど10時のおやつに良いんじゃない?一緒に食べたいの……ダメ?」


「お嬢様のお望みとあらば。……但し、今日だけですよ」


「ふふっ、ありがとう。じゃあ、紅茶をお願いね」


「畏まりました」


 こうして私は、アルフレッドからのご褒美を堪能したのであった。


「お嬢様、クリームが付いてますよ」


 アルフレッドは私の頬についたクリームを手で拭い、舐めた。指に舌を這わせるその姿は、まるで今朝の夢を彷彿とさせる。色っぽく、エロい。


 私はその指を目で追い、顔が熱くなるのを感じた。


「お嬢様?」


「なっ、何でもないわ」


 フレデリカ=ヴァリアーヌ。体は16歳、心は通算22歳。いつになったらアルフレッドと添い遂げることが出来るのか。

 欲望と現実との戦いは、まだまだ続くのであった。

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