第14話 悪役令嬢は昔の記憶を思い出す9
「魔法部門はレイニーさん、武闘部門はフレゴリューさんが勝ち、若手の活躍が今年は凄かったように思います。さて、お待ちかねの総合部門、スタートです‼︎」
うおぉおおおおおーー‼︎
司会の合図で一気に会場が盛り上がる。声で会場が揺れる程だ。剣も魔法もなんでもありの総合部門。ここで勝てば、有力貴族から雇用のお誘いがあったり、騎士院や魔法院への紹介状が貰えたりする。
それぞれの部門でもお声はかかるが、総合部門のが確率は高い。やはり、実戦により近いからだろうか。
「出場される方ですか?お名前は」
「ウォルレッソ=タドルドです」
私は違う人の名を名乗った。頑張って出せる一番低い声を出した。
「可愛らしい声ですね」
「声変わり前なんです‼︎」
頑張ってもやや無理があったようだ。あまり喋らないでおこう。
「では、こちらへ」
私は控え室で待つことになった。私はフードを深く被り、黒い全身を覆うような外套に身を包んでいる。部屋に入ると、皆がこちらを見た。そりゃあ、そんな怪しい人が来たら見るわよね。
私が何故こんなことをしているかと言うと、先程の悪口を言っていた奴らに一泡吹かせるためである。
私だけでなく、レイニー先輩のことまで酷く言うなんて許せない‼︎
先輩は私なんかより凄い人なんだから‼︎
怒った私はアルフレッドに協力を仰いだ。主人を馬鹿にされてハラワタが煮えくりかえりそうな程怒っていたから、喜んで協力してくれた。
まず、私たちは地方から来た人で、知り合いもいない、応援に来る人もいない、ここで認められて有名になりたい‼︎と言う感じのおのぼりさんを探した。
大会には必ず数人はいる。最低限の荷物と旅の路銀だけ握りしめて、街で成り上がろうと夢見る若者。
やはり女性はいなかったが、背格好が一番近い男の人を攫って暫く眠ってもらった。お詫びとして、その人が普通に働いて手に入らないくらいのお金を添えて。
そして私は上着を脱ぎ、アルフレッドに買ってきてもらった男性用の衣服と顔、体を隠せる外套を着て、その人になりすました。
胸はサラシみたいなので潰してなんとかなったし、これなら接近戦でも大丈夫でしょ。
「ウォルレッソ=タドルドさん、ウルク=フォクターンさんどうぞ」
私は呼ばれたので席を立った。すると、先程悪口を言っていた人の一人が立った。丁度いいわ。けちょんけちょんにしてやる‼︎
私は俄然やる気が出てきた。
その頃、観客席ではーー
「アルフレッド、フレデリカはどうしたんだ?」
ヴァリアーヌ侯爵は辺りを見渡し、アルフレッドに尋ねた。
「お嬢様はまだ気分が優れないようでして、自分の分まで試合を見て、後で話を聞かせて欲しいと仰っていました」
「そうか……まあ、フレデリカも初めてにしては健闘したな」
「そうですわよ、あなた。フレデリカはまだ14歳。しかも女の子です。それで準決勝まで行くなんて凄すぎですわよ」
「お姉様、凄かったわ。私も来年は出れるかしら?」
「お前はまだ難しいかもな。フレデリカはあれで努力家だ。日々鍛錬に励んでいたのだろう」
「はい、お嬢様は日々鍛錬に励んでおられました。強くなる為にとても貪欲に学ばれました」
「アルフレッド、お前の教育の賜物だな」
「恐れ入ります」
アルフレッドは深々と頭を下げた。
「あっ、試合が始まったわ」
「あらあら、フードを被って変わった人ね」
(お嬢様、頑張ってください)
アルフレッドは心の中で、フレデリカを応援した。
「それでは、始め‼︎」
私は戦いの合図と共に剣を抜いて突撃した。ウォルレッソは剣士だったので、今回は剣を装備した。
まあ、剣は元々アルフレッドに習っていたから大丈夫。普段も短剣なら持ち歩いているしね。
なんとも侯爵令嬢らしからぬ発言だ。
私の剣技を受ける為にウルクは剣を構えた。私は上から剣を振り下ろすと見せかけて、剣を左へ動かし下から相手の剣を薙ぎ払うように剣を振り上げた。
剣はウルクの手から離れ、宙を舞う。奴は驚いて硬直している。私は剣を鞘に入れて、足蹴りと鞘に入れた剣で二撃入れる。
相手が後ろに吹っ飛んだところで、魔法を一撃お見舞いした。
「勝者、ウォルレッソ‼︎」
オォオオオーー‼︎
かっ……勝てた……。強かったらどうしようとか少し思ったけど、勝てたわ。これで少しはスッキリしたわ。
フレデリカはそのまま場外へと戻った。だから後ろにいたウルクがどの様な表情をしているか、知る由もなかった。
試合は順当に進んでいった。まさかの途中で優勝候補のレイニー先輩とフレゴリュー先輩があたり、激しい戦いを見せていた。
二人とも激闘の末、レイニー先輩が勝利を収めた。そして準々決勝、レイニー先輩は悪口を言っていた一人と対戦することになった。
試合が始まると二人は剣で戦っていた。しかし、先輩の様子がおかしい。魔法を一切使っておらず、顔色も悪い。先程の試合の疲れもあるだろうが、それにしてもおかしい。
「あいつあんな状態でよく戦えるな」
「ホントだぜ。やっぱあいつ侯爵令嬢と何か取引あったんだな」
あの悪口を言っていたやつらだ。先輩と私のことかしら?あの戦いに特に取引とかズルなんかないのに……。
「そうだな。今から観客席に行ってこの毒針を打ってやるって脅したら、大人しくアンチ魔法喰らってくれたしな」
「そうそう、ついでに毒針もな」
何ですって⁈じゃあ、先輩があんなに辛そうに戦っているのは……私を守ったから……。私はそこにいた二人を問い詰めた。
「今の話はどういう事だ?お前たちはこの戦いに不正をしたということか」
「なっ、何だよお前は。あのレイニーってやつが先に不正をしたんじゃないか。だから、俺たちの魔法と毒を口止料代わりに喰らったんだろ」
「解毒剤を出せ‼︎今すぐにだ‼︎」
私は短剣を抜き、男の喉元に添えた。
「出さなければ、斬る」
「わっ、分かったよ……」
男は両手を上げ降参のポーズをとる。するともう一人の男が、私に解毒剤を手渡した。私が受け取り剣を下ろすと、二人は走って逃げていった。
解毒剤は手に入れたがいつ渡せば……。試合が終わるまで大丈夫だろうか。
私は再び試合を見た。先輩の顔は青白く、汗も異常な程かいている。立っているのがやっとの様だ。
そんな先輩に対して、弱いものをいたぶるかの様に相手は攻撃してくる。そして剣を振り上げた。
あのまま振り下ろされて、まともにくらったら大怪我をしてしまう‼︎
私は走った。何も考えていなかった。体が勝手に動いていた。そして先輩と相手の間に滑り込み、剣で相手の剣を受け止めた。
「うぐっ……」
急に受け止めたので上手く力が入らない。それに相手もここまで勝ち上がっただけあって、強い。剣技なら負けてしまうかもしれない。
「ああっ……」
私は相手の剣を受け止めきれずに吹っ飛んだ。しかし、それを後ろにいた先輩が抱きとめてくれたおかげで、少し後ろに下がる程度に留まった。
そして私の後ろから先輩が手をかざして魔法を撃つ。相手はかなりのダメージを受けた。まだ動ける様だが、起き上がるのに時間がかかりそうだ。今の内に解毒剤を。
「これを飲んでください。解毒剤です。あいつの仲間から出させました」
「う……ん。ありが……とう」
先輩は目を閉じて答えていた。差し伸べる手は震えている。
私は深呼吸し、解毒剤の瓶をあおった。そして、先輩の顔を掴みキスをする。いや、断じてキスではない‼︎口移しで飲ませただけだ。緊急事態なので致し方ないのだ。
観客席からは、アルフレッドの雄叫びが聞こえてくる。そして他の人のヒューヒューって声も聞こえてくる。
先輩はごくんと飲み込んだ。暫く経つと、顔色が良くなり、汗は引いた。良かった、薬が効いたようだ。
先輩は深呼吸をし、目を開けた。
「ありがとう。フレデリカ嬢」
えっ?
私がキョトンとしていると、相手めがけて魔法を打ち込む。その顔は微かに笑っていた。
魔法を喰らった相手は気絶をした。そして、魔法の風圧で私のフードが取れてしまった。
えっ、えぇえええーー‼︎
私は慌てて被ったがもう遅い。観客席からは家族の絶叫が聞こえてくる。会場の至る所から色んな声が聞こえてくる。
あぁあああーーどうしようーー‼︎
私が頭を抱えていると、審判の人が来た。
「えーー。まず、この試合は乱入者により無効とします。そしてウォルレッソ=タドルドさん……いえ、フレデリカ=ヴァリアーヌ様」
「はっ、はい……」
「ウォルレッソ=タドルド名義の試合は、無効と致します。これらの件に関して、当事者には後で詳しく事情を説明してもらいます。よろしいですね」
審判の人は凄く怒っている。
「はい……」
こうして試合は別の人の試合を先行して、私たちは事務局に向かうことになった。