第13話 悪役令嬢は昔の記憶を思い出す8
レイニー=ウェザディルディ。王都の外れにある貧民街で育った人。
生まれつき魔力が高過ぎて、赤ちゃんの時に魔力暴走を起こし、双子の弟に重傷を負わせた。それが原因で両親に貧民街に捨てられる。
拾った人は貧民街で孤児院を運営している人で、魔法に優れた人だった。彼の高過ぎる魔力にすぐ気づき、抑える印を彼の体に刻んだ。
そのお陰で魔力暴走を起こすことなく、彼はすくすくと成長した。ただ、抑えても高い彼の魔力に彼は力を持て余していた。彼は貧民街でその魔力を持って、彼に害をなす人々をねじ伏せてきた。
ある日ウェザディルディ伯爵が、貧民街を訪れた。伯爵家は魔法で財を成した一家で、その功績により伯爵の位を手にした。しかし、当主は子供に恵まれず、魔力の高い子供を養子に迎えたかったのだ。
そして、レイニーに目をつけた。
伯爵は孤児院に資金を手渡した。それがあれば暫くは食べるものに困らないように出来る。そして伯爵は定期的に資金援助をすると約束をした。
こうしてレイニーは、孤児院の皆の為にウェザディルディ伯爵家の養子になったのだ。
彼は、伯爵家に相応しい人間にならなければ援助が打ち切られてしまうと思った。そして、努力をし、礼儀正しく優しいレイニー先輩が形成されたのだった。
孤児院時代の捨てられて捻くれた性格と、伯爵家の養子になった後の優しい性格のギャップがたまらないのよね。騎士団長と並んでゲームの中で二番目に好きなキャラだ。まあ、攻略出来なかった想いから、ディードゥル様のが若干上回るが。
でも、攻略キャラな中では一番好きなキャラだ。
そんな相手と本気の勝負。接近戦でうっかりときめいたら……。本気で愛しているのはアルフレッドだけだけど、やっぱり好きなキャラに折角会えたんだからちょっとときめいちゃうよね。
私は首を横に振り、邪念を振り払った。今は試合に集中せねば。
私はロッドを構えて合図を待った。
「始め‼︎」
私は距離を取りつつ走り始めた。レイニー先輩はかなりの手練れ。立ち止まっての詠唱するのは自殺行為だ。
「僕に対しては、接近戦にしないんだね」
「⁈」
気がつくと、レイニー先輩が目の前にいた。はっ、早い。
そして私の右脇腹めがけて蹴りを入れる。
「うぐっ……」
私は左手で右脇腹を抑えながら、後退した。やはりレイニー先輩は身体能力高いな。孤児院時代に鍛え上げられていたからな。
スチルでも魔法じゃなくて、蹴りとかで何人もボコボコにしてたのあったからな。
「光よ‼︎」
私は目くらましの為に光を放った。その隙に後ろに回って……
「見えてるよ」
私の移動する方向にロッドが飛んでくる。私は直撃して、吹っ飛んだ。
「まあ、他の人よりは楽しめたよ。でも出来れば魔法の撃ち合いとか楽しみたかったな」
レイニー先輩はそういい、私にゼロ距離で魔法を撃ち込んだ。
「あっ……ぐっ……」
そして私は意識を失った。
「……様。お嬢様」
「んっ……」
アルフレッドの声が聞こえるわ。私は、確かレイニー先輩と戦って……。
「あっさり、負けちゃった」
私はそう呟いた。私は目を開き、辺りを見渡した。白い壁に、パーテーションの白いカーテン。私の目の前には、心配そうに見つめるアルフレッドがいた。
この状況から察するに、私は戦いに敗れた後、気を失い医務室に運ばれたのだろう。
私はゆっくりベッドから起き上がった。
「ねえ、あの後大会は?」
「魔法部門はレイニー様の優勝で、幕を閉じました。現在は、武闘部門の真っ最中です。多分そろそろ決勝戦かと」
「そう。なら、観客席に戻りましょう。決勝戦くらいは見たいわ」
「お嬢様、体調の方は……」
「もう大丈夫よ」
私はアルフレッドを連れて、医務室を後にした。
廊下を歩いていると、エントランスで何人かが屯して話していた。
「あの侯爵令嬢、対戦相手を買収でもしたのか?」
「だよな。碌に魔法も使わずに相手を倒して」
「ああ。魔法が下手だから接近戦で、相手に攻撃して倒れてもらうようお願いしたんじゃないか」
これって……私の事を言っているの?あの人たちも魔法部門に出ていた人たちよね。私とは戦ってないけど、私と対戦人と当たって負けた人たち。
自分に勝った相手が、女に負けた。しかも殆ど魔法は使っていない。だから本当は実力がないのではと疑っているのだろう。
すると、アルフレッドがいつもより低い声で話しかけてきた。
「お嬢様、誰にもバレない方法で、あの者たちを闇に葬ってもよろしいでしょうか」
アルフレッドを見ると、物凄い怒気を放っている。主人を侮辱されてめちゃくちゃ怒っている。闇に葬るって……アルフレッドなら、誰にもバレずに成し遂げてしまいそうで怖いわ。私は主人として、アルフレッドを諌めた。
「アルフレッド、そんな事を言ってはダメよ。貴方の気持ちは嬉しいわ。でも、貴方にそんな事をして欲しくない。貴方には日の当たる場所を歩いてほしい。私の隣で微笑んでほしいのよ」
「お嬢様……」
「それに、あのような捨て置いて問題ない者の為にリスクを背負うのは、感心しないわね。万が一があれば、ヴァリアーヌ家の問題になるのよ。そのリスクに見合う内容なのかしら?」
「……‼︎考えが至らず、申し訳ございません、お嬢様。私は今、私怨に囚われていました。ヴァリアーヌ家に仕える従者として失格です。お嬢様は侯爵令嬢として、家のことまで考えているというのに」
「そう、落ち込まないで。貴方の私の為に怒ってくれた気持ちは、純粋に嬉しいのよ」
「お嬢様……」
アルフレッドは少し涙ぐんでいた。アルフレッドって結構涙脆いのよね。
「あのレイニーって奴もだぜ。あいつも殆ど魔法を使わずに戦って。侯爵令嬢を打ち負かしたのはスカッとしたけどさ。まあ、あれば男と女なら体術は男が勝つに決まっているからな」
先ほどの者たちは、今度はレイニー先輩のことを話し始めた。先輩は本当に凄い人なんだから‼︎貴方たちなんか、一瞬でKOよ‼︎
「おい、そろそろ行こうぜ。総合部門の受付に行かないと」
「ああ、そうだな」
あの人たちは、総合部門も出るのか。ふ〜ん……。
「お嬢様?何か企んでいますか?」
「ふふっ、分かる?ねぇ、手伝ってほしいことがあるんだけど」
私はアルフレッドを手招きした。そして背伸びをして耳元で囁く。
「面白いですね、お嬢様。普段なら賛成しかねますが、状況が状況ですし、お嬢様の悪巧みに今回は乗りましょう」
「悪巧みって……。まあ、協力してくれるのなら良いわ。武闘部門の試合が見られないのは残念だけど、仕方がないわ。行くわよ、時間がないわ」
「はい、お嬢様」
私たちは方向転換し、観客席には戻らず、ある場所へと歩いて行った。