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第11話 悪役令嬢は昔の記憶を思い出す6

 私たちは屋敷に運び、客室にフレゴリュー先輩を寝かせた。

 先輩は時折苦しそうな顔をしながら、眠っている。

 ゲームでの先輩は元気だけが取り柄というくらい、元気な先輩だった。こんな風に倒れるなんて、一体何があったのだろう。

 私が心配そうに先輩を見ていると、アルフレッドが私の肩に手を添えた。


「大丈夫ですよ、お医者様は悪いとこはないと仰っていましたし。きっと時期に目を覚ましますよ」


「ありがとう、アルフレッド」


 私たちは先輩が目を覚ますのをじっと待った。


「んっ……ここは……」


「⁈先輩‼︎大丈夫ですか⁈」


「先輩?」


「あっ、いえ……」


 しまった。まだ学園に通う前だ。先輩とは面識もないし、その呼び方は不自然だ。


「ここは……どこなんだろうか?」


「ここは私の家です。街の外れにある丘で倒れてたところに遭遇しまして、家に運びました」


「それは失礼した。迷惑をかけて済まなかった」


 ぐぅううう〜〜〜


 すると先輩のお腹が盛大になった。……まさか、お腹が空きすぎて倒れたとか?……ははっ、まさかね。

 恐る恐る先輩を見ると、恥ずかしそうにお腹を押さえている。


「はははっ、恥ずかしい話、実は今日一日何も食べてなくてね。それであの甘くて美味しそうな匂いのする花に惹かれて、匂いを嗅いでいたんだけど、お腹はもちろん膨れないから遂には倒れちゃってね」


 あんなにじっと見ていたのは花の匂いで空腹を誤魔化していたからなのか。アホ過ぎる。私は溜息をついてアルフレッドの方を見た。


「分かっています、お嬢様。すぐにご用意致します」


 アルフレッドは一礼し、部屋を去った。


「あの……」


 私は先輩に尋ねた。しかし、なんて呼んだらいいか分からず言葉に詰まる。学園にはまだ通っていないから先輩は違うし、名をまだ聞いていないのにフレゴリュー様と言うのも変だし……。

 私が困っていると、先輩は起き上がり、姿勢を正して名乗ってくれた。


「まだ名乗っていなかったな。俺の名は、フレゴリュー=ボルクドゥルゴという」


「私はフレデリカ=ヴァリアーヌと申します」


「あのヴァリアーヌ侯爵家のご令嬢であらせましたか。これはとんだ失礼を」


 先輩は私が侯爵令嬢だと知ると、慌てて謝罪した。先輩は騎士の家系だからね。今は入学前だし、その反応は仕方ないんだけど。


「フレゴリュー様、そんな風に畏まらないでください」


 先輩にそんな風に接されると、変な感じがしますから‼︎


「ですが。それにオレ……いや、私の事を様だなんて」


「ーーでは、お互いに呼び捨てなら如何ですか?貴方に畏まられるのはなんだか気恥ずかしいわ。ついでに敬語も禁止‼︎」


 んー、学園入学前に違う身分の知り合いに会うと、色々面倒ね。先輩にはいつもフランクに話しかけてもらってたから……ってあれ?

 先輩ってフレデリカに対してはどうだったっけ?つい、攻略中の雰囲気を思い出していたけど、そもそも主人公とフレデリカは身分が違うし。

 よく考えたら、フレデリカは先輩と接点が……ない。って事は、先輩は殿下に対してみたいにフレデリカに話しかけていた可能性も、ないわけではないのか。

 どっ、どうしよう。ゲームとそれてしまったかも。


 しかし、後悔してももう遅い。先輩は私の申し出をうんうんと、頷いている。


「よし、分かったよフレデリカ。君はなんて心が広く美しい人なんだ」


 なんだかよく分からないけど、褒められている。そういえば、ゲームの先輩は髪が短かったが、今は襟足が少し長く、一つに縛っている。なんだか新鮮だ。

 あっ、そうだった。食堂に行かなきゃ。私は先程話しかけた本題を思い出した。先輩がお腹を空かせていたので、アルフレッドに食事の用意をお願いしていたのだ。


「フレゴリュー、食堂に行きましょう。お腹が空いたままでは、また倒れてしまうわ。それにもう夕食の時間。私もお腹ぺこぺこなのよ」


「それはありがたい。是非ご相伴に預かりたい」


「楽しみにしてて、うちのシェフの腕は一流よ。それに食後のデザートはいつもアルフレッドが用意してくれるの」


「アルフレッド?」


「ああ、さっきまで一緒にいた私の従者よ。お菓子作りの腕はピカイチなの」


「それは凄い。楽しみだ」


 こうして私たちは食堂に向かった。


「お嬢様、お食事のご用意整っております」


「ありがとう」


 今日はお父様はお仕事で遅く、お母様とマーガレットは劇の観劇に出かけていていない。なので、先輩と二人で食事だ。私たちは席に腰掛けると、玄関を叩く音がした。

 アルフレッドは一礼し、部屋を出る。こんな時間に誰かしら。家族が帰ってくる時間ではないと思うし。

 暫くすると、アルフレッドは一人の男性を連れて部屋へと戻ってきた。


「ボルクドゥルゴ騎士団長‼︎」


「叔父さん‼︎」


 私たちは同時に叫んだ。そう、部屋に現れたのは、フレゴリュー先輩の叔父さんで、エメラルディア王国騎士団のトップに君臨する、ディードゥル=ボルクドゥルゴ騎士団長だ。

 齢30にして、騎士団長にまで上り詰めた、歴代最年少の騎士団長なのだ。


 そして、攻略キャラではないが、めちゃくちゃカッコいい。漆黒の髪と瞳。目は切れ長で、髪は前髪がやや長めの短い髪。大人の色気が漂う素敵な方だ。

 因みにこのゲームの中で二番目に好きなキャラだ。


 好きなキャラ一位と二位が隣に並んでいる。ゲームでは見られなかった光景だ。眩しくて涙が出てきそうだ。

 私は感動して目を輝かせていた。


 するとディードゥル様は私の前まで歩き、跪いた。


「フレデリカ様。此度は我が愚甥を助けていただき感謝致します。此奴は、本日の修行に出向く折、弁当を忘れまして。そのせいでフレデリカ様にご迷惑をお掛け致しました。私の監督不行き届きです。如何様にも御処罰を」


 そういえばあの丘には木々がお生い茂っている場所があったわね。そこで一日中修行に明け暮れ、花の前で倒れたということか。

 人が倒れていたら助けるのは当たり前だし、そんなに謝られてもね。

 私は席を立ち、ディードゥル様の前にしゃがんだ。

 ディードゥル様はビックリして顔を上げた。


「ディードゥル様、そんなに謝らないでください。確かにフレゴリューがお弁当を忘れたのが原因ですが、そういうこともたまにはありますよ。ディードゥル様が責任を感じる必要はこれっぽっちもございません」


 私はディードゥル様ににっこりと微笑んだ。


「そのような優しいお言葉をかけてくださり感謝致します」


 ディードゥル様は再び頭を垂れた。私はディードゥル様に手を差し出した。


「さあ、立ち上がってくださいな。折角のご飯が覚めてしまいますよ」


 ディードゥル様は少し躊躇いがちに私の手を取り、一緒に立ち上がった。

 その時ずっとしゃがんでいた私はバランスを崩してディードゥル様に倒れかかってしまった。


「もっ、申し訳ございません」


「構いませんよ。寧ろフレデリカ様をお守り出来て光栄です。貴方様のような心優しいお方に出会えて、とても嬉しいです」


 私も貴方に出会えて嬉しいです‼︎


 デレデレしてると、なんだか突き刺さるような視線を感じた。恐る恐る見ると、アルフレッドがこちらを見ている。

 なんか冷たい目で見られているような……えっ、私アルフレッドを怒らせるようなことした?

 確かに騎士団長にデレデレな侯爵令嬢って、側から見たらアウトかもだけど。そんなに人にバレるほどディードゥル様にデレデレしてたのかな?


 だって二番目に好きなディードゥル様だよ。攻略出来なかったから、余計に想いが溢れてしまったのよ。でも一番はアルフレッドだから‼︎

 私は心の中でアルフレッドに弁明した。まあ、私の事を主人としてしか見ていないから、しても意味ないんだけどね。


 私たちは各々席に着き、食事を楽しんだ。正確には私とディードゥル様が。フレゴリュー先輩は叔父さんがいる事で、私にはガチガチの敬語で話すし、めちゃくちゃ緊張している。先輩の中でディードゥル様は、どんだけ怖い存在なんだ。

 でも私は先輩が倒れたおかげで、ディードゥル様に出会えた。ありがとう、先輩。

私は心の中で感謝した。


「長居してもお邪魔になりますし、私どもはそろそろ失礼したいと思います」


 二人は食べ終わると、早々に席を立った。元々は先輩の迎え&謝罪で来たんだし、家主が帰ってくるとこに出くわすと厄介だから、帰りたいわよね。


「お気をつけてお帰りください。暫くはヴァリアーヌ領内に滞在するのですか?」


「いえ、明後日には別の領土に行く任務がありますので」


「そう……ですか」


 なんだ、残念。でもディードゥル様は、騎士団長として王都にいる事が多いから、学園に入学したら会える機会もあるわよね。また会えるなら、この別れも辛くわないわ。


 こうして二人は帰って行った。


「騎士団長と間近で会うのは初めてでしたが、なかなかやりますね」


「えっ?しっかりしていて、甥想いで良い人よね」


「……そう、ですね」


 アルフレッドは何を言いたかったのだろうか。


「お嬢様、そろそろお風呂の準備をしますね。明日は朝が早いですから」


「そうだったわね。明日は魔法・武闘大会だったわね」


 魔法・武闘大会。一年に一度ヴァリアーヌ領土で開催している大会。毎年各領土の猛者が集い大いに盛り上がる。

 と言うことは、あの二人も明日の大会に出てからこの地を去ると言うことかしら。

 ふふっ、明日の大会ますます楽しみだわ。


 私は鼻歌を歌いながら、お風呂の支度をするのだった。


 ***


「まさか、腹の空きすぎで倒れるとは情けない」


「もっ、申し訳ございません」


 二人は馬車にて帰路についてる最中だ。辺りはすっかり暗く、外は人がおらず静かだ。すると一台の馬車とすれ違った。多分ヴァリアーヌ家の誰かが帰宅するところだろう。この一本道の先にはヴァリアーヌ家の家々しかない。二人はホッと息をつく。お互いに気づいた二人は同時に顔を上げた。


「フレゴリュー、お前はフレデリカ様のことをどう思っている」


「えっ、いや……その」


「はっきりしない奴だな」


「すっ、すいません」


「私は決めたよ」


「ええっ⁈今まで、決めてこなかったのにですか⁈数々の方にお願いされても断ってきた、あの叔父上が⁈」


「……って言ったらお前どうするんだ?」


「……冗談ですか。脅かさないでくださいよ」


「お前が煮え切らない態度を取るからだ。ったく、グズグズしてるとどうなっても知らないぞ」


「はっ、はい」


「……まあ、私も完全に冗談と言うわけでもないしな」


「えっ、何か今言いましたか?」


「なんでもないよ。さあ、宿舎に戻ったら寝る支度をするぞ。明日は早いからな」


「はっ、はい‼︎」


 静かな夜に馬車の走る音だけが響く。今宵は皆、其々色々な思いを胸に眠るのであった。






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[一言] えっ!めっちゃハーレムきずいとるやん!! ・・・これからどうなるのか・・・。
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