苦い王命と不穏な予兆
季節は冬、3月になった。
夏に宰相が亡くなり、秋にはジョアンナ=メイデンを内務大臣が養子にする……。
そして冬には、『特別監査室の廃止』という王命が下された。
今年の3月をもっての廃止、反対意見はほとんど出ないまま下された王命に少し納得できなかった。
「どうして、特別監査室を………」
「ベスは何故とか何とかそういう事が多いな、少しは考えてみろ。
お前にあだ名付けるなら“なぜなにお嬢ちゃん”だな!」
なにそのアダ名、変なの…………
だけれどもヘンリーの言うことにも一理あると思い、考えてみる。
「アベルが宰相になって、ここが第3勢力になる危険性があるって事かしら?」
ついに三つ巴になるのかと思ったのだがそれは違うようだった。
「エリザベスさん……そうではなくて今までの派閥が分裂してきているのはご存じですよね?中立派も分裂しないとは言い切れない、それにこんな大きな権限を持った所は破壊するのが妥当ですよ」
「そうですよね、オンリバーン侯爵の言うとおりです。例えば国王派の中でも〇〇さんのサロンに参加してるグループとか分かれてますからね。」
ジューンがションちゃんの言うことに納得したように言う。
なるほど、今までは国王派と一括りにされて考えられていたモノが結び付きが弱くなり“国王派のAグループ”とかBグループに却って派閥が複雑化している状況で特別監査室の存在は邪魔だと言うことなのだろう。
「世の中って厳しいのね……」
「上手く行かないのが世の中ですから、そんな甘いものでもありません。」
ションちゃんがあの旧友と話していたときのようなくだけた話し方から元に戻っているのを聞いて私は寂しく思った。
私はトボトボと自室に帰った。
____
エリザベスが出ていった後、
「なんで私が宰相になってしまったんでしょうか、私は宰相の器ではないと思うんですけど……」
アベルは宰相になる前からこんな争いが激化している今の状況に弱音を吐く。
「はぁ?今さら何言ってるんだよ、あんなにノリノリにやっちゃおうぜ、フィバろうぜ!……とか言ってたのは誰だったかなぁ!」
ヘンリーは数ヵ月前のアベルのはっちゃけぶりを思い出しながら、イラつきもって言う。
「調子のってすいません、私です。」
「まあまあ……そんなことよりも派閥問題の方が先でしょう。」
ショーンは皆を宥めながら言って、現状を考える。
これまで、派閥は所属する部署ごとに形成されていた。
だがそれは、いつしか主義主張や部署が同じ者同士が集まるモノへと変わっていった。
そして今回、その派閥をなんとかまとめていた宰相が居なくなり、私的な集まり《サロン》が新たに派閥へと変化していったのだ。
「……この国の人間ってその場の空気で集まるの好きだよな、本当に」
「確かヘンリーは派閥の長になってしまったのでしょう?それはご愁傷さま」
派閥は大きく2つ。
アベルを支持する派閥としない派閥、もっと細かくすれば、支持する派閥が4つ、支持しない派閥が6つ……。
「皆私に期待していないようですしやめる、というわけにはいかないですし………本当に参った。」
「いろいろと問題が山積みで前途多難です」
ショーンは心の中で今は亡き宰相に文句を言った。




