帰還……
宰相の死去、それにより私は予定を切り上げて王都に帰還することとなった。
そして、葬式を終えて………。
「本当にゲームどおり進んで行くんだね………大筋は変わらないのよ、転生者がいることで細かいところは変わっていくのだろうけど。」
「転生者といえば、これを見てください」
私は『羽ばたく彼ら』を取り出してシス王女に見せる。
「『羽ばたく彼ら』著者、中山平次………誰?」
シス王女はこの本の存在をよく知らないみたいだ、結構有名な人だったんだけど……。
「あー!思い出した、なんかおったわそういえば。脚本家もやっててドラマの脚本書いたけど視聴率悪くて打ちきりになった人でしょ!」
「まぁ、そうともいいますか……。それ、初代王から賜ったモノらしいですよ?」
すると、シス王女も私と同じ事を考えたようだった。初代王異世界転移者説、ここに来て出てきた説だ、この『羽ばたく彼ら』がそれを証明する何よりの証拠だろう。
「それについても議論はしたいんだけど、ここにきてシナリオ崩壊するかもしれない事があるんだよね」
《600年8月10日付・レミゼ新聞
王太子殿下、アン・エリザベス王女殿下が避暑旅行に……
__(略)
メイデン子爵邸で火事!
10日未明、メイデン子爵邸で火事が起こった。この火事でメイデン子爵夫妻とマリー=メイデン子爵令嬢が死亡、ワイル=メイデン子爵令息が行方不明である。》
なんということか……ヒロインちゃんの家で火事、ヒロインちゃん以外の家族が死んだ。
「一応言っとくけど、ゲームにはこんなシナリオ無いからね。それに、ヒロインちゃんのお父さんは優しい、非常識な行動を取る人物とも描かれていなかった。」
シス王女が言いたいのは、私達転生者の存在によって本来のシナリオが歪められている、そういうことだ。
「だって、そうでしょう?ヒロインだって今は権力を欲しがってるけど、あのままフェルナンドを攻略しようとしてたらどうなってたか……恐ろしい、彼がマリア=ドレリアンと結ばれなければルイ=L=ドレリアンが生まれない事になるんだから!」
「彼女、本当に__。いやなんでもない。確かにルイの事は考えないといけないんだけど、アベルって本当に悪徳宰相になるの?
全然変わらないからなんか別のゲームと間違ってるんじゃないの?例えばポ〇モンやろうとカセット入れたらどう〇つの森だったなんていうようなおっちょこちょいをやらかしたんじゃ……」
「私はそんなドジなことしないよ!……どう〇つの森さ、あれほっといたらすぐに村が草だらけになるよね。
まあ私の話はこれで以上だよ。私3月には帰るから弟さえ攻略しに来なかったら正直、部外者なんだよね、じゃあ後はそっちでなんとかしてね!」
シス王女はなにもかもを私に丸投げするようだった。………イチヤ王子のルートにも歪みはみられる、姉とイチヤ王子が結ばれるENDは無い。
(本当に最悪……)
不穏な空気、それだけは私にも感じられた。
____
その夜、
「あの男の始末、完了しました。」
黒い装束の男が言う。
「そうか、そうかご苦労様。
全くあの男は馬鹿だ……尻尾丸出しで、もう少しでこちらにも火の粉がかかるところだった。」
「あの子爵を火だるまにすることで自分は助かるなんて恐ろしい方、こんな方が内務大臣だなんて世も末だ。」
男は感情のこもっていない言葉で言う、この男とは長い付き合いだがこのように騒ぎになるような殺しを請け負うのは初めてだった。
「それくらいしないとこの世界じゃ生きていけないんだよ、否定はしていたがどうせあの宰相も目障りな邪魔者を殺したんだろうしな」
「邪魔者?誰ですか、それは」
「ヘンドリック=オンリバーン、かつての宰相候補様だよ。生きていたら彼は本当に恐ろしい存在になってただろうね」
暗殺者の男もその名前に聞き覚えがあった。
ヘンドリック=オンリバーン侯爵、農業などに詳しくいろいろな分野に精通していた。そして『組合』とも繋がっていたという噂もある。
『組合』はレミゼ王国全土に密かに広がっている組織だ、彼らの仕事は主に裏稼業の人間の手伝いをすることだ。人材や仕事を紹介したり標的の情報を提供したり__報酬は高いがそれに見合った情報をくれる。
情報だけじゃない、麻薬や禁書など様々なモノを扱っている。
「何をそんなに怖い顔をしているんだ?
まあ私が手に入れた情報によると、本当は病死じゃなく薬を大量に服用したことによる自殺らしい……。」
どうでもいいような顔をして言う、前バードミル公爵の彼にとっては本当にどうでもいい事なのだ。人はどんなに善き行いをしようがしなかろうが死ねばただの過去の人、それが彼の口癖だ。
「そんな昔の人の事は置いておいてあの子爵、もう少し使えると思ったんだけどな、残念だよ」
「で、生き残った娘はどうしますか?」
今回、殺し損ねた娘。この存在をどうするのかと問う。
「私の養女にしようかと思う、あの娘は有益な情報を持っている……我々の知らない、有益な情報をな。
安心しろ、お前の失態ではない。」
彼はそう言って、男の肩を叩いて彼は部屋を出ていった。




