2日目・やっぱり何かいる?
避暑旅行2日目、この日はオンリバーン侯爵領内をションちゃんと共に見て回る予定だ。
オンリバーン侯爵領内の北部にリザールという町がある、王都ラブルには劣るが交易の盛んな栄えている町だ。
オンリバーン侯爵領に来て驚いたのは、病院、学校、図書館など大抵の建物があるということ。これは驚くべきことだ、このようなことは他の所では無い。
そんなオンリバーン侯爵領の中でも栄えているリザールにとある大劇場があった、私達はそこで行われる演劇を見た。
私達が訪れた時、大劇場の支配人は領主と王女のために見晴らしのいい特等席を用意してくれたのだが………
(ダメだ、この苦行をどうやって耐えればいいの!)
私の隣にお姉様、その隣にションちゃんという席順なのだが………2人は話が合うのか話し込んでいる、私も加わりたいところだがそれは無理だ。
高1までピアノのドレミファソラシドの位置が全く分からなかった私に芸術の話をしろというのは無茶ぶりだ。
本当に私には芸術性は無い、絵を描いてもあの有名なリ〇ックマを書いたのに、『お前のそれはリ〇ックマじゃなくってラリック〇だ』と言われた私にそんな高度な会話を望むことは出来ない。
(私の精神がすり減る……)
ちなみに物語は、ある国の王女が敵国の将軍に恋をするがいろいろあって引き裂かれてしまうという悲恋の話。
(………なんかいろんな意味でやめてほしい。)
3時間ほどの観賞が終わり、私はホッと息をつく。……劇を見ただけなのにこんな疲れるなんて、やっぱり芸術は向いてないのね。
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一方その頃、王宮では………
「陛下、此度の王太子殿下・王女殿下の避暑旅行は一体どういう意図でおこなったのですか?」
現在、王太子は南部のライオンハート侯爵領や複数の貴族の領地を数日かけて、王女2人は北部のオンリバーン侯爵領に3泊4日の旅に出ている。
「ああ、宰相……私はねあの子達の事が心配なんだよ。だからだ、ただそれだけだ。」
王と宰相がとある部屋で話す。
宰相は今回の事を快く思っていない、王太子だけならともかく3番、4番目とはいえ王女を国境に近いオンリバーン侯爵領に行かせるなんて自分が王ならそんなことはしないと顔にありありと出ている。
「王……私は王太子殿下の行き先にも不安を持っています。南部はカオレエア王国との国境があり、昨年や約30年前の様にいつ侵入してくるかも分からない所に殿下を行かせたことは良くは思いません」
「…………なるほどね、確かに宰相の言うことは最もだ。だが、南部の脅威に触れることであの子に良い変化があるのなら安いものだ」
王はハハハと高らかに笑う、それに対して宰相は壁にもたれ掛かって手で顔を覆う。
「王、殿下が王となる頃にはきっとこの国は終わっているでしょう。私の後をあんな若造に継がせるなんて、昔は無かったことだ……。私が思うにアレが宰相になるのは10年早いわ!……………ですが、そんな異常な事が実際に起こっている、ゴホッゴホ」
「宰相、大丈夫か?先ほどから顔色も悪いようにみえる、今日はもう下がってゆっくりと休め。」
宰相はひどく険しい顔をしながら話を続けようとする。
「いいえ、まだ、話は終わっていません!お、王……私の任期が終われば、と、と、特別監査室を廃止してください。今は中立派が職員だから良いものの、次の宰相はアソコから結構な数、大臣を出すつもりだろう……、そうすれば、補充された職員はどちらかに偏って必ずや争いの火種になる!」
「宰相、分かったから!これ以上話すな……もう下がってよい。」
ひゅうひゅうと喉を鳴らして蒼白になった顔に脂汗をびっしりと浮かせている、明らかに苦しそうでその形相は病人以外の何者でもなかった。
「はぁはぁ……よろしくお願いします、私は下がらせてもら____」
バタリと宰相は倒れた、王はすぐに駆け寄って起こそうとするが上手く起き上がることができない。
「王………大丈夫です、私はまだ大丈夫です__ゲホゲホッ」
ゲホ、ゴホと咳をすると共に鉄の味、血の味が口の中に広がり口を押さえていた手と床が紅く染まった。
「宰相、宰相!!逝くな、誰か居らぬか、誰か!」
王に、そんなに騒ぐことはないと言おうとするものの喉や胸が痛くてハッキリと口に出すことができない。こうしているうちに意識がだんだんと遠のいていく。王の問いかけに必死に答えようとするのだがそんな彼を嘲笑うかのようにゆっくりと意識は遠のいて、体から力が抜けていき、だんだんと視覚や聴覚も失われていく。
「ご、ごめんなさい、ヘンドリック__」
これが彼の最後の言葉だった。
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その夜、私はお姉様と肝だめしをしている。
「絶対何かいるって!それが何なのか確かめるわ……」
私は寝ていたかったのだがそういうお姉様に押しきられて、しぶしぶ参加することとなってしまったのだ。
暗い、暗い廊下を燭台を手に持って音をたてないようにソッと忍び足で歩いていく。
「噂によると、最上階のバルコニーとこの2階の208号室の中に特に現れるそうよ……」
お姉様はいつの間にそんな噂を仕入れたのだろうか、きっとすぐに使用人と打ち解けて聞き出したのだろう……コミュニケーション能力の低い私は姉のそういう所を羨ましく思った。
その姉曰く、噂はこのようなものだったらしい。
・誰もいない208号室から先代の姿を見た
・208号室からドアの開く音や物音が聞こえる
・バルコニーにユラユラと人影があった
(本当にすすり泣く声だとか勝手に開くドアだとか、そういうの好きよね……)
とにかく、まずは208号室に向かうことになった。
例の部屋の前に着いた、一見すると普通の部屋にしか見えない。
ギィィ……
部屋の中はずいぶんと掃除されていないらしく入った途端、ホコリが舞う。
「ゴホッゴホッ………何よこの部屋、掃除くらいしなさいよ」
「お姉様、オバケが出る部屋なんて誰が掃除したがるの?」
私の言ったことに姉は、それもそうねと納得したように言って室内を物色し始める。
部屋の中は、簡単なベッドや机……そこに数冊の本、本当に本の好きな家ね……。
燭台を机に置いて、私は目を擦りながら何気なく本のタイトルを見ていたのだが、ある1冊の本のタイトルを見たとき、私は思わず息をのんだ。
(___、一体どうして!どうしてこの本がここに……)
そこにあるはずの無い本だった。ここどころかこの世界に存在しないはずの本、それが何故ここに………。
「エリザベス……何、貴女本ばかり見ているの?」
「なんでもないわ、お姉様。もう何もないみたいだし行きましょう」
姉は埃っぽいところにこれ以上は居たくなかったのだろうか足早に部屋から出ていった。私も姉の後を追い掛けていった。
階段を昇り、4階に向かおうとする。3階、食堂などがあるこの階、とっとと上に行こうとしたのだが……
ガサガサ!
物音がした……。気のせいだということにして昇ろうとしたのだが
ガサガサ!!………コン、カランカラン
気のせいではないようで、先程よりも大きな音がする。
「あっちよ、行ってみましょう………」
そろりそろりと音の方に近づくとダンスホールの方からしていることが分かった。
カーテンの向こうにユラユラと月明かりに照らされている人影が浮かんでいる。
姉と勇気を出して、カーテンをバッとはぐるが………誰もいなかった。
「あの、一体何をしてるのですか?」
男の声が聞こえてきた、おそるおそる振り向くと……
…………………
誰もいなかった……。
「ぎゃあああああああ!」
「え、あの……お姉様、ちょっと私を置いていかないでください!」
私達が寝室に戻ったとき、ホッとしてすぐに寝てしまった……。
結局あの声や人影がなんだったのかは分からなかった。




