夏休みの避暑先は……
夏休み、私は今一体どんな顔をすればよいのだろうか?
何故私がこんなことを思っているのかというと、きっかけは父である国王のこの言葉だった。
『あーエリザベス、お前ってさオンリバーン侯爵と仲良いだろ?それでさ、夏だしお前とアン王女を数日預かって言ったの。そしたら、OK貰えたから。明後日から行ってこい!』
………私は何を返したら良いのか分からなかった。そんな軽いノリで言うことなの?もし仮に私の為にやってくれたのだとしたら逆です、ものすごく気まずい状況です。
いやいや、だって考えてもみて!“婚約者がいながら他に好きな人がいる私”が“大好きな人”と“私の婚約者と浮気してる姉”と一緒に旅行に行く、なにかの罰ゲームとしか考えられないよ。
(そこら辺の三流小説かよ、この展開……)
泣いて喚いてももうダメだ、私は今その2人にサンドされた状態で馬車に乗っている。せめてどっちかの端っことか向かい合って対面みたいなのが良かったわ。
いつもの馬車とは違う、馬も車体も高級なモノを使っている余所行きの馬車に乗りなれない旅が始まった。
「お父様も一体何を考えているのよ!ねえ、エリザベス貴女もそう思うでしょう?」
姉は不満を隠せない様子で貧乏ゆすりをしている。
「ええ、まあ。ですがオンリバーン侯爵領は北にあるので涼しいところと聞いてるから夏に行くには良いんじゃないのかな?」
「慣れ親しんだ王宮を出るのは辛いことよ……」
そんなあからさまに嫌な顔をしなくても、横にそこの領地を治めている人がいるのに……
このように会話の続かない気まずい状況が続いている、まあ静かな内にこれから行くオンリバーン侯爵領の説明くらいはしておこう。
__オンリバーン侯爵領
レミゼ王国の北部・北西部の大部分。建国当初からオンリバーン侯爵家によって治められていてかつては独立国並の広さだった。『レミゼの穀物倉庫』と呼ばれる農業が盛んな領地。
私が知っているのはそれくらいだ。王宮内でオンリバーン侯爵家の情報は随分と隠されていたというかタブー視されていた、おそらくは20年前のヘンドリック=オンリバーン先代侯爵の事があるのだろう。
(しかし、気まずいわね………。しかもションちゃんはお姉様がイチヤ王子と密会してた現場を目撃しちゃってるから余計に気まずい……。)
せめて旅行に行くのがアン王女じゃなくて4番目の姉イザベル王女だったらなぁと心の中でこっそり思うのだが、残念なことに4番目の姉は生まれつき体が弱いので今回の旅行についてこれなかった。
(なんかやだなぁ、このまま3泊4日+帰りの1日どうやってしのいでいけばいいのよ!)
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なんでこんなことに………。
ショーンはこっそりため息をつく。
(騙された……。)
そもそもショーンは王女の避暑旅行にオンリバーン侯爵領を選んだとは聞いていたが、王女が2人いることもおんなじ馬車に乗ることも聞いていなかった。
(サギだ、……エリザベスさんだけだったらなんとか会話を続かせることもできたかもしれないがなぁ。)
考えてもみよう。
ショーンは今年で43歳、その両脇に親子ほど歳の離れた少女2人が座っている。なんともシュールな図だ。
「片道1日なんてなんでそんなに遠い所選んだのよ、お父様も。」
「お姉様、これは避暑旅行ですよ?涼しいところを選んでくださったのよ、それに景色がキレイでとても良いわ」
第3王女アン王女は住み慣れている王宮から出るのが余程嫌なのか先程からグチグチと言っている、それをエリザベスさんはたしなめている。
(普通は逆なのだがなぁ……。姉が妹をたしなめる、じゃなくて妹が姉をたしなめる)
ここ最近、この2人の印象をショーンは改めた。
アン王女は普通に良くも悪くも王女なのかと思っていたのだが、建国式典でのあの密通やまともに接してみて、稀代の悪女とまではいかないが人としてはどうなのかと思った。
エリザベス王女、彼女とは知り合って5年目だ。初めて会ったときと違って彼女は成長した、心優しいが彼女には何か子どもとは思えないモノがある。私はあくまで個人的に彼女の事はとても好ましく思っている、ヘンリーがいたら変に勘繰られるだろうけど恋愛的ではなくあくまで人間的に好意を持っている。
(夜には館に着くか……)
少し遅れている、このペースだと着くのは夜になる。
「もう少しで領内に入ります、夜には着くでしょう」
のどかに広がる田園風景を見ながらショーンは2人に言った。




