男達の密談~in特別監査室・仮眠室~
6月。雨が降り続いているこの頃、王宮内の話題は宰相選挙一色だった。
宰相選挙……5年に1度行われる次の宰相を決めるモノ。
そもそも宰相になれるのは伯爵以上の貴族のみ、その中から立候補した者に成人貴族全員が投票する。そして獲得票が1番高かった候補者が王に推薦されて、王はその人物を指名する(たまに被推薦人以外を指名する例外あり)。
「ヘンリー、何故貴方は立候補しなかったんですか……」
ショーンはヘンリーに向かってそうやって問い詰める。ショーンが思うに1番の適任は彼なのだが、その彼は早々に宰相と共にアベルを推薦して支持している状況だ。
「分かるだろう、このご時世に俺がなるのはダメだろう?」
「20年前の二の舞になると?
ヘンリーの気持ちも分かりますが、アベルは若すぎるのでは。」
「それには俺も賛成だが、他に適任がいない以上仕方がない。」
どうにも要領の得ない返事しかもらえず、思わずため息が出る。
「そんな、あからさまにため息をつくなよ!俺ももっと歳上のヤツを推したかったんだが、良い人材がいなくてな。
特に高位貴族、宰相や大臣になる資格がある伯爵以上が特にな、人材がいないんだよ」
「………思っているよりも、レミゼ王宮の人材不足は深刻なモノなのですね」
ここ最近、いいや恐らくはずっと前からこの問題はゆっくりと忍び寄ってきていたのだろう、それに気が付かなかったのは“宰相が健在だった”という事実だけを見て我々は目を背けてきたのだろう。
「良い人材は早くからポックリ逝っちゃうんだよ、俺みてぇな中途半端な使えない人材しか残らねえ。
……失言だったか、これは。」
「いいえ?そんなことはありませんよ、私だってその使えない人材ですから」
そんなことはない!
彼ほどの人材が今後生まれるのに何十年、何百年かかるのだろうか?彼の父や王弟といい、良き人材は早世する。
20年前の宰相選挙から何かが変わった。ハッキリと何が変わったのか説明するのは難しいが、もしも彼の父が生きていれば現宰相がこんなにも長い間宰相となることはなかった、これは確実なことだ。
「そんなことはない、アベルがいなかったらションちゃんを推すつもりだった。」
「私はいくらなんでもダメでしょう………」
「それよりも、アベルを支持してくれないかな?」
「もちろんしますよ、ヘンリーが選んだ人に投票する気でしたし……」
____
「チクショウ………!アイツら一体何様だ!」
烈火のごとく怒っているのは、ユーロ=バードミル内務大臣兼前バードミル公爵。
彼が何をそんなにも怒っているのかというと……
「アイツら、1000万レミゼも渡したのに“こんなはした金で支持なんて出来ない”………だと、ふざけるな!」
選民意識の強い彼も立候補したのだが、こんな調子で支持者が集まらないという問題を抱えていた。
弟には『いつか焼き肉になっちまえ』なんて言われてる上にこのはした金発言……。
(弟よ、前は焼き鳥だったのに……)
肉と鳥ならまだ生き物っぽい分、焼き鳥の方がマシだと思う。
「おい、兄貴……もうやめたらどうだ?こんなんじゃウチが目をつけられて宰相どころか大臣すらなれなくなるかもしれないんだぞ?」
顔の似ていない、兄に見える弟はノックなしに部屋に入ってきてそんな事をいう。
「それはお前がその歳でまだ民部大臣補佐官だという事を言っているのか?それは私のせいではなくお前が野菜なんかにうつつを抜かすからだ!」
「それは……5割、いいや4割くらいあるとは思いますが残りの6割はあんたのせいだからな!」
「弟よ、兄は8割くらい野菜のせいだと思うんだがな。」
全くこの調子じゃ宰相は無理そうだ、内務大臣……これからなるであろう“なんとか大臣”で満足しておくか………。
「野菜に罪はない、俺の力不足としか言いようがない。
とにかくあんた、宰相どころか大臣なんて向いてないよ。自称神なんだったら教会で宙吊りにされて神になってろ」
「お前は野菜だけじゃなくて言葉遣いも問題だな」
「ほっとけ、今さら直るもんでもないだろう!」
そんな感じで弟は出ていった。
その後ユーロ=バードミルは立候補を取り下げたらしい。
___宰相選挙はアベルが選ばれて幕を閉じた。
アベルは宰相となることが決まった、これが終わりの始まりだったのかもしれない。
全てを狂わせたのはこの出来事だった、それは確かだ。
よくある主人公のような力を持たない私には、何も出来なかった。




