初対面の彼
5月の中旬、特に何も起こらなかったように思うが1つ気になることがある。
今まで、国発行の『中央公報』以外の無許可新聞を認めるという法律(新聞独占禁止法)が出来た。
(あの方が創ったという事はまぁさておき、良き事と思うが……。)
あの方とは、内務大臣で前バードミル公爵のユーロ=バードミルの事だ。
政局を気にし、たとえ重要な議論ですら自分の得にならないと判断すれば議論を止める、そんな彼がこのような法律を提案する……。
ショーンには何かあるとしか思えなかった。
(私は、この法律を容認出来ない……。)
いくらショーンがそう思おうとも出来た法律を無効にする権限は特別監査室には無い、特別監査室はあくまで補佐役なのだ。何故自分が容認出来ないのか、いくつか理由はある。
新聞を書くのは人間だ。人間である以上ある程度の偏りは仕方ないのかもしれないが、極端な過激思想の持ち主を記者にする事の無いようにする事など考えなければならない。
人は刹那的なその時その時のゴシップに関心が高い、地味なこと《政治》よりも派手なこと《スキャンダル》なんて事になることに危機感を覚えなければいけない。
そのように考えながら歩いていると、向こうの方でエリザベス王女と件の内務大臣の姿を発見した
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エリザベスは、イライラしていた。
昨年度からなんだか自分の負担が大きくなったような気がしてならないからだ。
「これはこれは、エリザベス王女」
突然不意に声をかけられた、振り返るとそこにいたのは内務大臣のユーロ=バードミル、得たいのしれない危険な方。
「内務大臣、何かご用ですか?」
「いいえ、王女の方こそ何故このような所に?」
愛想笑いを浮かべる彼はそれほど危険人物とは思えない、本当に彼がそんな冷酷な人物なのかとも思う。
「特に何も理由は無いわ………それよりも、貴方に聞きたいことがあるのだけれども何故“新聞独占禁止法”を創ったの?」
「それは、私たちは『中央公報』以外に民からの主張も取り入れるべきと考えたからです。それに『中央公報』は週刊紙な上に書いているのは各府の官僚達ですから分かりにくい、しかしながら彼らならば日刊紙な上に分かりやすく民達に情報を伝えてくれる。
そのように思ったからです。」
「確かに『中央公報』は分かりにくいと言う所には賛成よ。でも大丈夫かしら、いろいろと。」
「いろいろとは?」
急に彼の声が低くなった、触れられたくないところに触れてしまったのかもしれない。
雰囲気というか彼のまとっているオーラのようなモノが変わった。
「特定の人物に肩入れするのでは、それを危険とおっしゃっているのですよ」
後ろから声がまた聞こえてきた、誰かと思っているとションちゃんだった。
「ああ、オンリバーン侯爵か………。
そんなことしようが奴らの勝手だ、まぁ役に立たないのならさっさと潰してしまえばそれで良いだけの話だ。」
「それは無理と思います。今は彼らの力は弱いがいずれそうではなくなる、もしかすると貴方は自分で自分の首を絞めることになるかもしれません。」
「奴らが私らに何かしてくることなんて無い、所詮は噂に飛びつくような連中だからな……忠告は受け取っておくよ」
その自信は一体どこから出てきたのだろう。
「ああ、それと君も気を付けた方がいいんじゃないかな?君にもスキャンダルになりうることはあるだろうし、例えば君の父君の事とか………」
「…………ッ!」
ションちゃんの顔の色がさあっと変わる。
ヘンドリック=オンリバーン侯爵……20年前に現宰相と宰相位を争った人、そしてその後病死した人。
「農林産業大臣を務め、宰相候補とも言われた君の父上……顔は似てないけど君も似たような注目される立場にいるからね、そのうち陰謀論だのなんだので騒ぐかもね。」
「陰謀だなんて、そんなものはありませんよ……。騒ぎたい人は騒いでいればいい、ですがその事よりも大事な事があることも忘れてはいけない」
「大事な事か、君の大事な事は世間にとって疎ましい以外に何物でもない。
私にとってもね、けど私は他の愚か者と違ってそれの大切さは理解しているつもりだ……では失礼するよ」
そのままスタスタと歩いて行ってしまった。
「…………一体なんだったの?」
「さあ、分かりません……。彼は父の事を持ち出して何をしようとしているのか」
「分からない、分からないわ………」
そうして、ションちゃんと別れようとしたのだが……
内務大臣は何故か戻ってきた。
「あ!そうそう、忘れてたわ。
ねえねえ、オンリバーン侯爵~宰相選挙の件だけどね私を支持してくれないかなぁ……」
なるほど、彼も立候補する気なのか……だけど、ゲーム通りならアベルが宰相となるはずだ。
それにしてもなんかキャラ変わってません?
「いや、私はベアドブーク公爵を支持します。今のところ彼が適任と思います。
彼が立候補しないのであれば、私は彼が支持する人を応援します。申し訳ありませんが、内務大臣の申し出に応える事はできません。」
「そうか、それは残念だな……」
残念、彼は心の中ではそんなこと思っていない。こう言われると分かっていながら言ったのだろう。なんとなくだがそう思った。
だが彼は本当に残念だといった風に目を瞑ってから
「まあ、私を支持してくれる者は他にもいる。じゃあ、今度こそ失礼するよ」
彼は今度こそ行ってしまった。
初めて彼に会って抱いた感想は、本当に彼が権力欲の強い恐ろしい人物とは思えない、漫画で言うところの中ボスレベルの人物くらいとしか思えなかった。




