面倒くさい事
フェルナンド様にどうにかするとは言ったものの、ここで私が彼女と対立するのは本当に正しい道なのだろうか?
もちろん、いつかはそうなってしまうのだろうけれどなるべく衝突することは避けるべきと思ったのだけれど…………。
「マリア、この人達一体何?」
「エリ、あの方と争ってた時点でこうなることは運命だったんじゃない?」
そもそも学園内では何年も前から水面下で国王派と反国王派の反発といった類いのものが蠢いていた。先輩達はそれらが爆発しないようにうまく立ち回っていた。
そこに“ヒロインちゃん”というある意味イレギュラーの存在が現れた。触れれば火傷するヤヌス子爵家と違い、反国王派の御方々は利用価値を見つけたのだろう。おそらくは夏休みになにか動きがあって、新学期以降急速に彼女達は勢力を伸ばした。
遠足でのあの出来事で私が彼女をよく思っていないことは明らかになった、だから私の所に集まれば対抗できるとか考えた国王派の令嬢達は私の所に集まってきた。
「皆さ、もう少し平和に穏便に物事を解決する気はないの!?」
「無いからこうなってるんだよ」
私の嘆きに後ろに控えていたシャルルは投げやりな言い方をする。
彼女達に並ぶ、いいや凌ぐ勢いで急成長した王女派(仮称)を止めることは出来なくなった。
「ねえ、私は一応中立派の所にいるはずだけど?」
「そのはずなんだけど………ごめんなさい!多分それは私のせいかも」
王族や5公爵は名目的には中立派に属している。
だが、人によって考え方はそれぞれある。例えば、5公爵の中でもベアドブーク家は正真正銘の中立派だがローザンヌ家は国王派寄りの立場であるというややこしい内情がある。
「どちらかと言えば私もね国王派の言い分に賛成出来るんだけど、この派閥は最終的に何がしたいの?」
苛ついて私が言った言葉に答えたのは、
「決まってるじゃないか、彼女達の排除だよ」
ジスト=メルサイユ様だった。
「排除?」
シャルルは不思議そうに頭を捻る。
無理もない、彼は派閥とは無縁な人物だから。
「反国王派……というよりはメイデン子爵令嬢の排除と言った方が正しいだろう。
そもそも学園の秩序を破壊しているのは彼女だからね、反国王派はそれを利用しようとしているだけ。
そうして、うまく排除出来たら自分達が学園の権力を握れるわけだからね。」
「メルサイユ様、それは分かっていますわ。ですが国王派は高位貴族達ばかり、わざわざエリの所に集まらなくても良いんじゃ……」
「それは、保険じゃないかな?いざというときの。本当にご愁傷さま。」
ジストはいたずらが見つかった子供のような笑みを浮かべてこちらを見てくる。
ええ!?とばっちりだけは勘弁してくださいよ。
「ふうん、学園そんなことになってるの?」
「それは、王女も大変な立場に……。」
特別監査室でアベルとヘンリーが私を慰めてくれる。
「今日の夜にでも誰かが学園を爆破!なんて事がないかなー」
「そんなことあってもこっちが困るんだけどな。ベスにもションちゃんみたいに逃げる領地が有ったらいいのに」
「ヘンリー、別にションちゃんは逃げている訳ではなく領地経営の為に帰ってるだけですよ。いくら忙しいからってここにいないションちゃんに八つ当たりなんてしないでください!」
貴方はいつもそうなんだからと2人はケンカを始める。
「王女…王女も一緒に絵を描きませんか?心が落ち着きますよ」
私を慰めてくれているのだろうか、ジューンはいつものように温和な笑みを浮かべて筆を差し出す。
「そうね、たまには絵を描くのも良いかも」
考え事をしたいときはなにか1つの事を無心になってやる。そうすると見たくもない現実から逃れられるような気がして、エリザベスはあの感覚が好きだった。
「そういえば、後少しで建国記念式典ですね。イチヤ王子も出席するとか……」
「…………そうだったわね、すっかり忘れていたわ」
イチヤ王子、私の婚約者……私の気持ちに気づいている人。
(そういえば、シス王女が言ってたわ。)
アン王女とイチヤ王子には何かある。
私もそれには同感だ。
イチヤ王子はきっと姉の事を好きなんだ、私は心の中でそう思った。




