男達の会議~in執務室~
エリザベスが王都で“デート”を楽しんだ日の夜、王宮内の執務室に王、宰相、そしてヘンリーの3人がいる。
「ベアドブーク公爵、私の任期も来年度で終わる。今期の任期満了で私は隠居しようと思っているんだ……」
「ええ!?いや、そうだけどよ……。まだまだ頑張ってはくれませんか?」
ヘンリーは純粋に驚いた。
推薦されて国王の指名と信任がなければなれない宰相の任期は5年、そして今の宰相は4期目の4年目であと1年で任期が終了する。
ヘンリーの言葉に対して国王はため息をつきながら言う。
「ヘンリー、無茶言わないでくれ。宰相がいくつだと思ってるんだ?今年で77歳、5期目やるとして任期満了の時83歳……。」
「分かってるよ、わかってる。だけどよ、後任はどうするつもりなんだ?やれそうなヤツいねぇぞ?」
国王の言葉はごもっともであるのだが、宰相が務まりそうな人材は今の王宮内にいないとヘンリーはみている。
「そうでしょうか………ベアドブーク公爵、貴方は適任と私は観ている。どうでしょう、やる気はありますか」
「オレ!?俺が宰相、もしそうなったら他の公爵家や反国王派がうるさそうだ」
ローザンヌ公爵とは馬が合わず、バードミル公爵家に関して言うとお家騒動で忙しく、兄の前公爵だと自称神らしく人の話を聞かないので話が通じず、弟の現公爵は野菜しか見ていないのでどちらが勝っても話が通じない事に変わりはない。
後の2家、マルクーガッキ公爵は病弱でいつ亡くなってもおかしくなく、サマードック公爵は理解はしてくれそうだが信心深いので教会の人間が妙な事を言えば敵にまわりそうだ。
「……確かに、今代は曲者ぞろいだからな。この5公爵の内情につけこんで私の敵対勢力が何をするか分からないからね」
「敵対勢力、反国王派ね。あいつら傀儡政権を創るのは勝手だがそのあとどうする気なんだよ。宰相、やっぱりもう1期続けてくれないか?」
「無理です、困りましたね………ベアドブーク公爵が引き受けてくれないとなると……。他にイイ人は」
3人は悩むことしか出来なかった。
宰相はもう高齢でむしろ今まで務めてきたこと自体この国にとって有り難いものだった。
「宰相、次もさあんたみたいな伯爵、あるいは侯爵レベルの人間にやらした方が均衡が保てる。公爵の俺じゃあダメだ、伯爵・侯爵の人間で考えるべきだ」
ヘンリーは提案をした。
20年前も先代の5公爵のうちの誰かがなる予定だったのだが、反発する勢力があったので伯爵であった現宰相がその任に就いたのだ、今回もきっと平和だの平等などと唱える反国王派が反発すると予想したから提案をしたのだ。
「伯爵か侯爵、いるとしたらライオンハート侯爵かオンリバーン侯爵の2人じゃないかな?」
「そうですのう、その2人がベアドブーク公爵の次に適任と私も観てました」
国王の言葉に宰相も賛同した、ヘンリーもそれに賛成ではあるものの懸念があった。
「確かにその2人しかいねぇだろうな、適任は。けどその2人にしても宰相ほどの手腕はまだまだあるとはいえない。」
「ふむ?それはどういう意味でしょうか、ベアドブーク公爵……」
宰相は髭をさわりながらヘンリーに聞く。
「アベルに関して言えば、能力はあるんだけど宰相となると軟弱外交・あっち見てこっち見て内政に転じそうだ。後、まだ若いよ。
ションちゃんはね、正直アベルよりもね才能はあるんだよ。けどね、宰相ができるほど図太くも重圧に強くもないんだよね。ちょっと繊細すぎる、宰相もそうだけど官僚は図太さが無いと出来ない。その図太さで言えばアベルの方がある。」
「ずいぶんバッサリと言うね、ヘンリーは。2人が若いとなると中継ぎが必要なわけだけどそれが務まりそうな人がいないから2人のどっちかを選ばなければいけないということか……。困った」
そう、2人はまだ40代前半という宰相には若い年齢だったのだ。だが、2人の中継ぎになれそうな人物は存在しなく2人のどちらかを選ぶ必要がある状況だった。
「アベルでいいんじゃねえか?図太いヤツの方が適任だし下がしっかりと支えればなんとかなる。それならアベルがいい。」
ヘンリーの言葉に王と宰相はうなずいた。
「それにしても、オンリバーン侯爵が繊細ですか……ヘンドリックの事がなにか彼に影響を与えているのでしょうかねえ」
宰相はポツリと呟く。
ヘンドリック、確か先代オンリバーン侯爵の名前だとヘンリーは記憶していた。
「ヘンドリックというと先代のオンリバーン侯爵だよな?確か病死だったとか……。」
「ええ、そうです。彼が死んでもう19年ですか……。早いものですね、ですがベアドブーク公爵、彼は本当に病死だったのか私は今でも考えるときがあるんですよ」
「宰相、それは__」
国王の言葉を遮って宰相は話を続ける、周りに人がいたら不敬だと騒がれそうな行為だが王は彼の行為をとがめなかったのでヘンリーは黙って彼の話を聞き続けた。
「だってそうじゃありませんか、私に言わせてみれば彼ほど宰相にぴったりな男はいなかった。彼は自殺だったのでは無いかというあの噂が正しいのだとしたら……だとしたら彼を殺したのは私なのではないか、そうも思える。」
シンとした部屋に宰相の懺悔の言葉だけが反響する。
確か20年前の宰相に候補者推薦されたのは現宰相と先代オンリバーン侯爵、そしてヘンリーの父などの5公爵だった。5公爵は早々に候補から脱落して後の2人の一騎打ちであったが王が指名したのは今の宰相だった。
「その後、領地に引きこもっているうちに死んだんだよな」
王都から離れた所での死亡はいろいろな根拠の無い噂を呼んだ。宰相になれなかったことを悲観しての自殺、病死、暗殺……腹上死なんて言う輩もいた。
「オティアス様といい賢明な人はどうして早くに亡くなるのでしょう………。」
………オティアス、かつていた王弟の名だった。病弱であった彼は今思えば先見の明があったようにヘンリーは思う。
“知的財産権は保護すべき、彼らを卑しい商人と馬鹿にするだけでなく彼らの事業を国が保護すべきだ”と彼は訴えていた、知的財産権という概念自体無いので彼が言っていることをヘンリーは理解できたわけではないが
(商人を馬鹿にしたから技術者が国外に流出したからな)
そのお陰でこの国も沈んできている。それは隠しようもない事実なのだから。
「宰相、もうこの話は終わりにしましょう。」
「そうだな、俺はあんたの次に誰がなろうともソイツに仕えるだけだ。」
……宰相もずっと“自殺”を信じて後悔してきたのかもしれないし彼はもう宰相位にいるのは限界なのだろう。
特別監査室という補佐機関設立の時からヘンリーにはそう思えた。
「宰相、たとえ彼が自殺だったところで悔やんでももう遅い。彼を倒して宰相になったあんたがやるべきは任期満了までしっかりと務めあげること事だろう!」
「そうですね、この老いぼれに出来ることをするのみ……ではもう帰って寝ることとします。」
宰相がいなくなった部屋に2人が残った。
「ヘンリー、本当はオンリバーン侯爵になってほしいんじゃないのか?」
「そんなことはねえよ。宰相閣下がいなくなった後の事を考えねえと……。俺も帰るよ」
王は心配そうに後ろを向いたまま帰っていたヘンリーを見た。




