王都ラブルへお忍び☆
そもそもレミゼ王国は大陸の東の端に位置している、そのレミゼ王国のほぼ中心部に王都ラブルは存在している。
そこは古くから商業が盛んな歴史と伝統の残る都で周りは高い塀で囲まれている。
「シャルル、王都って賑やかなのね。」
「まあね、このままじゃ人混みに飲まれちゃう。そこの端の方で休もう」
私が“王女エリザベス”だと気付いている人は誰もいない、ここにいるのは“名もない町娘”だ。
「さあさあ、今日のお題は『あの某有名商家の奥方が下男と不義密通』知りたい者は400レミゼで買っとくれ!」
大きな男の声が聞こえてきた、遠くにいるので何を言っているのかはっきりとは聞こえない。
彼は、姿は違うもののまるで時代劇でよく見る瓦版売りのようであった。
私は何を言っているのか、内容が知りたくなりその男の所へ近づいたのだが
「シャルル、あれは一体何?あれ!?……シャルルどこへ行ったの……」
一緒にいたはずのシャルルがいつのまにやらいなくなっている……。
「シャルル、シャルル!一体どこに」
どうしよう、私が勝手に行動してしまったからだ……
私は人混みをかき分けながらシャルルを探すが見つからない。
(本当にどうしましょう……)
私は泣きそうになりながら人の少ないところで待機してシャルルを待つことにした、ただそこが治安の良くない裏通りの方だとは気づいていなかった。
私がむやみに動き回ってもかえって悪効果だと思ったからそこにいただけだ。
そうしてしばらくシャルルを待っていると
「よう、お嬢ちゃん……おじちゃん達についてきてくれないかなぁ」
(なんなの、この人達……)
いかにもゴロツキと言った身なりのよくない風貌の男達……
漫画やアニメだと助けてくれるヒーローがいるが今の私にはそんな存在はどこにも居やしなかった。
「黙ってないでなんとか言ったらどうだ?」
ゴロツキAが私に向かって言ってくるのだが、私はこの状況で声を出せるほど気が強いわけではなかった。
「私は、わたし……」
「おい泣きやがったぞ、このガキ……とっとと拐ってしまおうぜ。あの方は白くて美しい娘を欲しがってるらしいからな」
拐う……この方々は人身売買組織でしたか。
それにしても“あの方”とは誰のことなのだろうか、ずいぶんと趣味の悪い方なのだなと私は思った。
男がわたしの方へと手を伸ばしてきて、私は最悪の事態を覚悟した。
恐い、体がすくんでしまう。誰か、誰でもいいから助けて!と心の中で何度も叫んでしまっていた。
そうしたら、本当に助けてくれた!私が恋い焦がれている“彼”が……。
「この国で、人身売買は禁止ですよ……。」
「ショ、ションちゃん……」
私に触れようとしていたゴロツキBの手首をションちゃんがつかんでいた。
「なんだ、てめえ!俺らの邪魔をすんじゃねえ」
ゴロツキBは手首をつかんだションちゃんの手を、乱暴に振り払い、今度はションちゃんの胸ぐらをつかんだ。
「生憎ですが__」
___それは出来ないんです。
そう言ったあと、目にも止まらぬ早さでゴロツキBのみぞおちを思いっきりパンチして動けなくなったところで背後に回り込み、私を庇った。
「ちくしょう!ふん、俺が本気出したらこんなもんじゃねぇからな!」
ゴロツキAはBの仇と言わんばかりに短剣を取り出してションちゃんの方へと向ける。
「……僕はそうやって弱いものいじめをする方々が、力さえあれば何でもやっていいと勘違いしている人が大嫌いなんですよね」
ションちゃんの冷たい、氷のように冷ややかな瞳にゴロツキAはヒッと声をあげた。
私はションちゃんの口調がいつもの“私”ではなく“僕”になっている事に気づいた、かなり怒っているのかもしれない。
「こんちくしょう……」
ゴロツキAは飛びかかっていったが、ションちゃんは軽々とかわしてゴロツキAはズザザと地面へとダイブしていった。
ゴロツキAは鼻血を出しながら、
「覚えてろ!」
と漫画の1話冒頭で主役にやられる雑魚キャラのようなセリフを吐いてBとともに逃げていった。
ゴロツキ達がいなくなってからションちゃんは不審な目を私に向けて言う。
「それにしても、エリザベスさん………貴女は一体こんなところで何をしてるのですか?」
「まあいろいろよ!」
私ははぐれて迷子とも言えずにごまかした、そんな私を少しあきれたようにションちゃんは見ていた。
(……そんな目で見なくてもいいじゃない)
ションちゃんは私の視線を無視して
「なんとなく何があったのかは読めました、近くに喫茶店があるのでそこで休みましょう」
そう言って通りの方へとツカツカ歩いていった




