イチヤ王子、倒れる
これはどうしたものか、私はどのような反応をすればよいのか………。
6月、私の婚約者のイチヤ王子が数日間滞在のために来ている。挨拶を済ませ、少し会話をした後私は少し、ほんの数分ほど席を外した。
私が再び戻ってくると、イチヤ王子は姉のアン王女と親しげに話していた。
私は庭の植え込みの中へ隠れて悪いと思いながらも2人の方をのぞき見た所、
「エリザベス王女は野に咲くスミレのような可愛らしい人だと思いますよ。貴女は……百合のように美しい方です」
「まあ……うれしいことを」
姉は頬を赤くしてうつむいていた。
雰囲気だけみると2人はまるで前世から想いあっていた恋人のようにも見えた。
私は頃合いを見ていかにも今戻ってきたように装って席の方へと行った。
姉は私に気づくとイチヤ王子に礼をしてその場から離れていった。
「君、さっきの見ていたね」
「ええ。百合は美しいですが毒が有ると聞いたことがあります、イチヤ王子はそれも知った上であのような事を?」
「まあ僕のような者に貴女のような美しい方はもったいない、みたいな意味も含んでるし君が思っているような事も含んでるよ」
本当に想いあっているように見えたのだからイチヤ王子の演技力は高いものだと私は感心した。
「それで君は何を悩んでいるんだ?僕は君を__ッ!」
「イチヤ王子……どうなさったのですか?」
「この国、前よりも淀んでるね………。国も人も」
「何か感じたのですか?」
「ああ、嫌なモノをね。この国はもう何十年と持たないのかもって思えるくらい変な歪んだオーラを感じる」
イチヤ王子は苦しそうだった、汗がダラダラと吹き出してきていて顔も真っ青だ。
絞り出すように彼は
「君はきっと大丈夫、君はきっと結ばれる。」
「イチヤ王子………?それは、私はそんなつもりは」
「だけどそれは君次第だ__」
そう言って気絶してしまった。
医者は慣れない気候の変化で倒れたのだと言うがきっとこの国の良くないオーラが彼の負荷となったのではないかと私は思う。
そして、彼は私に言った言葉の事を覚えていなかった。だから彼が何を感じてあのような事を言ったのかは分からなかった。
(良くない瘴気に触れてアベルも変わってしまう?)
オーラがどのような物なのかは私には分からないが、イチヤ王子はそれを拒絶したけどアベルはこの先それを受け入れたのではないかそう考えることも私には出来た。
夜になり、私は月に向かって祈った。
「どうかこの国を、皆を、ションちゃんを守ってください…」
私はイチヤ王子と結婚することは避けられない事と思っている。彼はションちゃんをナクガアに連れていけば良いと言ったがそれを果たして出来るだろうか、国を愛する彼が私に付いてきてくれる……夢でもいいからあってほしいことだと思っているけれど現実でそんなこと起こらない。
だからせめて結婚するまでは彼と笑いあっていたい、そういう想いも込めて私は月に祈った。
翌朝、この日はシトシトと雨が降っている。私はてるてる坊主を作って雨が止むようにとそれを窓の側にぶら下げようと思ったのだが高くて私には少し届かない。
「あら?」
窓の外にイチヤ王子の姿を見たような気がして、もう1度そちらの方を見たのだがイチヤ王子の姿はなかった。
(確かに見たような気がしたんだけど……)
そういえば、イチヤ王子が歩いていた方向にはアン王女の__
そこまで考えて私は考えることをやめた。




