騒がしい人々
謎は1つ増えてしまったが私達は部屋で話すこととした。
「シス王女、ヒロインちゃんがフェルナンド様を攻略することはやはり良くないのですか?」
「当たり前でしょ、ゲームの中ならともかくここはゲームじゃなくて現実よ。未来を変えることで無関係な人の未来にまで影響が出るかも知れないんだから……」
シス王女が言いたいのはヒロインちゃんがこのままだとこちらにも影響があるという事だろうか
「そういえばいつまでレミゼに?」
「任期は2年、まぁ来年度で帰ることになるわ。それまではよろしく!」
「2年ですか、意外と短いんですね」
「そんな顔しないの!……だいたいウチが王女を大使にするなんて割と破格の扱いだよ。友好国ならともかくレミゼとはそんなに仲良くなかったじゃん、それに本当は任期1年の予定だったのを伸ばしてもらったんだから」
確かにそうだと思った、側室との間に生まれたとはいえ王女だ。その王女を友好国でもない国の大使に任命するなんて破格の扱いだと私も思った。
「それよりもゲームの事よ、今の所アベル=ライオンハートは至って普通の貴族って感じね。悪徳宰相感は無いわね」
「その事ですが、名宰相が死にアベルが悪徳宰相になるんですよね?……今の宰相が何らかの形で死亡するって事ですよね?」
「そうなるわね。その宰相自体は病死だったと思うわ」
病死、今の宰相はもう70を超えているからおかしいことではないと思う。
「取り敢えず、彼女をフェルナンドから引き離す必要があるんだけど何故か敵認定されてるんでしょ?これは、どうしたものか……」
「今はメイデン子爵家が潰れることに期待するしか無いのかなぁ?けど何か具体的な対策を取りたいんだけど良い考えはある?」
「………なにかしら行動するのはどう?」
何かフェルナンド様の噂でも流して様子を見るかと言うことに落ち着き、シス王女と頷き合っていると
「エリザベス王女!助けてください……」
いきなりバァンと扉が開く音がしてフェルナンド様と(何故か)ションちゃんが私の部屋に入ってきた。
部屋にいきなりノックもなしに入ってくるのは失礼ですよ?
「フェルナンド様にションちゃん、どうしたの!?」
私はどうせヒロインちゃん絡みの何かだろうと思ったのだが一応聞いておくことにした。
「えっと、茶会に参加していたら同じく参加していたメイデン子爵令嬢に急に追いかけられて……特別監査室に逃げ込んだけどしつこく追いかけられて」
「私は何故か巻き込まれたんですよ……。」
ゼエゼエと息を切らせて2人とも疲れた様子である。
「そこのクローゼットに隠れててください、私が様子を見て来ますので」
「ハイハイ、2人とも狭いだろうけど隠れてて」
シス王女が疲れきってる2人をクローゼットに押し込んでいた
キィと扉を開けて、扉の前に控えているシャルルに何か異常は無いかと聞く。
「何か異常は無い?」
「いいえ?怪しい人はいませんけど」
シャルルは不思議な顔をして見張りに付いていた。
「フェルナンド様!!!」
ヒロインの甲高いキンキン声が廊下に響く。
「貴方はメイデン子爵令嬢?どうなさったの…」
「あんたに用は無いのよ!フェルナンド様はどこよ」
「さあ……フェルナンド様ならお茶会へ参加されているのでは?」
とぼけても無駄よ、そう言ってヒロインちゃんは私とシャルルを押し退けて扉を開く。
私も慌ててそれを追いかけて部屋に入る。
部屋の奥の方には薄いカーテンで遮られている空間がある、椅子に腰かけた影がユラユラと思い浮かんでいる。
「フェルナンド様!」
ヒロインはバッとカーテンを払い、カーテンがフワリと揺れて向こう側にいた人物の顔が露になった。
「あんたは………!」
「エリザベス王女、一体この方は誰?なんて無礼な方なの……仮にもナクガア王国王女である私の前でこのような振る舞いを」
そう、シス王女だ。
シス王女は不機嫌に汚ならしいものでも視るような目で彼女を見ている。だがもちろん演技だろう、心の中は怒りや軽蔑などといった感情ではなく呆れや憐れみの方が強いだろう事がうかがえた。
「こちらはジョアンナ=メイデン子爵令嬢です。メイデン子爵令嬢、こちらはナクガア王国の王女であり駐レミゼ大使でもあるのシス=ナクガア王女です」
「はあ?フェルナンド様は…」
そう言ってまた何かしようとしたが、部屋の空気で自分が不味いことをしたということのみを理解したヒロインちゃんはぶつくさ言いながら部屋を出ていった。
「噂以上だね~!」
「ええ、そうですね」
ヒロインちゃんが出ていった後私達2人はこう言う事しか出来なかった。
「狭かったね、本当にごめんなさい」
私はそんなに綺麗とはいえないクローゼットを開けて、2人に大丈夫だと言おうとしたが
「彼女、どうしてフェルナンド君を?」
「心当たりが分かったら苦労しませんよ!」
ケンカしていた、よくもまあこんな狭いところでケンカ出来るものだと私は思った。
そして少しして、ヒロインちゃんが居ないことを確認して2人は出ていった。
「ねえ弟はさ、あの人に負けたのよね……弟の方が私は勝ってると思うけどなぁ」
シス王女もそう言いながら部屋から出ていった。
確かにイチヤ王子は美しい方ではあるけれどションちゃんには敵わない、そう思った。




