謎は増える
私は10歳になった、遂に私の年齢も2桁となった。ヘンリーは何が聞きたかったのかそれは結局分からずじまいだ。
私の周りでは特に変わったこともなく緩やかに時間だけが1秒、また1秒と過ぎていく……それは遅いように見えて案外速い。
「私は結局どうしたいんだろう………」
考えてみる。
後7年で私は結婚する。前にイチヤ王子は彼をナクガア王国に連れていけばいいと言ったがそれは無理な事だろう、この国を誰よりも愛する彼が付いてきてくれるとは私には思えないのだ。
(イチヤ王子に甘えるのはよくないよね………)
いくらお互いに愛がない結婚だとしても後ろめたさが私の中にあった。
そして問題はこの事だけではない、あの乙女ゲームの事だ。
(アベルが悪徳宰相………それにフェルナンド様の事もあるし、)
今のところそのような兆候はない。
ゲームの強制力でそうなるのかシス王女の言うように嵌められて汚名を着せられたのかはまだ分からない。そして、ルイが生まれなくなる事は一体どのような影響をもたらすのかもまだ何も分からない。
「_ザベス、エリザベス!聞いているか?」
意識が現実に戻った、そういえば今は国王と謁見している最中であった。
「は、はい……聞いていますわ、お父様。」
それならばよいと言い、王は話を続ける。
「……実はな、今年でナクガア王国の大使が交代になるんだ。それでお前には大使を案内してほしいんだ」
大使を私が?誰か知っている人かと考えていると、
「久しぶり元気だった?駐レミゼ大使のシス=ナクガアでーす!」
シス王女だった。
謁見の間から出て私は一体どういうことなのかと聞いた。
「う~ん、レミゼがどうかは知らないけどナクガアは女が仕事に就くのにそんなに抵抗は無いんだよね。で、私は外交官になったわけ!」
「はあ、そうでしたか……あ、そういえばヒロインちゃんはあれから問題ばっかり起こしてますよ」
「来る途中一瞬だけど見たよ。普通にしてればいいのになにあの娼婦みたいな格好、ちょっと見ていて痛いよ」
シス王女の言葉には遠慮がない、バッサリと言った。
「まぁ、案内もいいんだけど紹介してよ!あんたの想い人を」
“想い人”と言うシス王女の言葉がぐさりと私の心をえぐった、やっぱり私は……
「……ですから、ただの友人ですわ」
私はそっぽ向いてシス王女を特別監査室の方へと案内した。
「相変わらず忙しそうね、ここは」
「まぁ、人手不足ですから……」
私は数言アベル達と言葉を交わした後、奥の部屋のドアをノックする。
どうぞと言うションちゃんの声が部屋から聞こえてきた。
「……えっと、そちらの方は?」
「ションちゃん、ナクガア王国のシス=ナクガア駐レミゼ大使様よ」
私はシス王女を紹介する。
「ナクガア王族で、外交官……。やはりナクガア王国は女性の社会進出が進んでいるのですねえ」
「私は広告塔みたいなもの、平民はまだまだ進んでいないわ。それに大使って言ったって名誉職よ、権力はほとんど無いわ」
「それでも我が国では一部の職以外、女性が就くことに抵抗がありますから……」
シス王女とションちゃんは話し込んでいる。
そのまま私は話に入り込めないまま2人は話を終えてしまった。
「う~ん、なんで“アレ”に惚れたの?あんたも物好きね。いや、イイ人なのはよくわかったけど……私はあの人よりもベアドブーク公爵の方がいいかも………」
シス王女は何故か納得のいかないような顔で言う
「ヘンリー?確かに良い男だけど……」
但し黙っていればという枕詞がつく、シス王女はあの独特な色気が分からない人間だったか……
「ああ!もうこの話は終わりにしよう、ゲームの事でもまた話そう」
「何処かでその事を話しましょう。」
私がシス王女を部屋の方へ案内しようとサクサクと歩いていると、
「あら?これはアジサイ………?」
シス王女は目を見開いて花を見ている。
今まで王宮に10年も居たのに私は気がつかなかった、確かにこれはアジサイ_アジサイにそっくりな花だった。
「ここの王宮ってなんか変ね、ナクガアは前世にはなかった花しか無いのに……ここはアジサイが咲いてる」
「確かにそうだわ、でもどうして?」
どうやらまた謎は1つ増えてしまったようだ。




