男達の苛立ち~in特別監査室~
エリザベスと別れたあとヘンリーは特別監査室の方へ大股で歩く。ヘンリーがこういう歩き方をするときはだいたい何か苛立っているときである。
(結局聞けなかったな………。あの小僧本当に空気が読めないヤツだ!)
頭のなかでぶつくさと文句を言っているとあっという間に特別監査室へ着いてしまった。
「ベアドブーク公爵、ガブリエール伯爵がひどいです!私の絵を………」
建物に入った途端ジューンはヘンリーのもとにかけよりすがり付いてきた。
「うるせぇ、絵とかどうでもいいだろ!……ったくよ、それでガブリエール伯爵も何をそんなに苛立ってるんだ!」
「ベアドブーク公爵、私も少し気が立ってしまったと反省しています……。ですが私達に正直遊んでいる余裕も無いでしょう」
(確かにウチは人手不足だしな………)
発足時、20名ほどいた室員は今では10名ほどにまで減ってしまった。ヘンリーとしてはその辞めてしまった者達の事を忍耐力の無い愚か者だと思っているのだが、今ギリギリの状況である。
ヘンリーは目を細めてガブリエール伯爵の言うことに頷き、
「まあな、これじゃ文句の1つも言いたくなるわ」
と息をハッとはいた。
「ヘンリー、ガブリエール伯爵が苛立っているのは教育府の事じゃないかな?」
「教育府?なんだ、教育大臣がまたなんかやったのか?」
アベルがそう言うのだがヘンリーには分からなかった、教育府で何か問題が起きたと言う事を聞いたことはないからどうせ教育大臣のローザンヌ公爵が何かごねたのか位に思っていた。
「あの“無能な方のレミゼの膿”の娘がやらかしたんですよ……………」
ガブリエール伯爵は普段では考えられないほど感情を露にして、可哀想な位にやつれていた。
ちなみに“無能な方のレミゼの膿”とはメイデン子爵家の事だ。
「メイデン子爵家が?何やったんだ、ろくなことじゃなさそうだけど一応聞いておく」
「勝手に制服を改造したあげくその改造代を教育府に請求したんですよ……」
はあ!?自分で勝手に改造しといてなんで宮廷に金払わせようとしてるんだよ、代替わりして堕ちたもんだなとヘンリーは悲しく思った。
そのヘンリーの顔を見てショーンは付け足して言った。
「ヘンリー、教育府は今その金を誰が代わりに払うかで揉めてるんですよ。メイデン子爵家はお金がない状態で支払い能力無いみたいなので」
「ションちゃん、それわざわざ教育府で議論する必要性あるのか?あいつらが金貸しに借りれば良いだけじゃねぇか」
「そうなんですが、教育大臣がヘタレ過ぎて」
ガブリエール伯爵はもう感情を隠すということも忘れて言う。
「ガブリエール伯爵、私も行きますから教育大臣にもう1度助言しましょう」
そう言ってアベルはガブリエール伯爵と出ていった。
部屋は一気に静かに、そして寒くなった。
ジューンとパレスくんはさっきから部屋の隅でザメザメと泣いている。カール=ペンヨーク伯爵はまたいつもの事かと帰る支度をし帰っていった。
「お前らもとっとと帰れ!家で気持ちを落ち着かせろ、その方がさっぱりしていい」
「ベアドブーク公爵、なんか私達を追い出そうとしてませんか?」
「そうですよぉ、なんかひどいです……」
ジューンとパレスくんは口を尖らせて不満そうに言うがヘンリーは気にせず2人を外へ追い出した。
部屋にはヘンリーとションちゃんの2人きり、ヘンリーは2人で話したいことがあった。
「……なんですか、ヘンリー?私の顔に何か付いてますか?」
「いやぁ、そうじゃねぇんだけど」
ションちゃんは変わった、ヘンリーは最近そう思う。丸くなったと言えばよいのかは分からないが顔も前に比べれば優しい感じに変わったように思う。
「一体なんなんですか?そんなに見つめないでくださいよ……」
「悪い悪い、なぁベスの事どう思う?」
ヘンリーはついに言いたかった質問を切り出した
「エリザベスさんですか?別に、年の離れた友人としか思ってませんよ。……何故貴方はそうやって変に勘ぐるんですか」
「そうなのか?俺は別に……やっぱり勘違いか」
「ヘンリー、まさか私の事をロリコンだと思ってたんですか?そうだとしたら流石に私も怒りますよ!」
「そんなこと思ってねえし、だいたい恋愛に年の差なんて関係ないね!って俺は思ってるよ」
じゃあ、ベスの片想いか俺の疑いすぎなだけかとヘンリーは心の中でツマラナイなと思った。
怒って出ていくションちゃんをヘンリーは必死で追いかけていった。




