特別監査室はホテルでは無いのですが……
始業式から数日、やはりマリアには何か悩みがあるようだった。特にここ最近は元気もなく食事も喉を通らないようだ……。
(大丈夫かしら……)
このままではマリアが倒れてしまう、そう思うくらい見ていて痛々しいものだった。
けれどもここでマリアに何があったのか聞くのはよくないだろう、聞いたら自分の状態が表情などに出ていることに気づいて余計に表に感情を出さなくなるだろう。
(ローザンヌ公爵の所に行くべきね……)
こういうのは家族から何が有ったのかを聞く必要がある、だがローザンヌ家には数度しか行ったことがなく急に行きたいと行っても怪しまれるだろうと考えた結果私は宮廷内のローザンヌ公爵に聞くことにした。
「エリ?どうしたの、そんな真剣な顔して…」
「いやそんな真剣な顔してたかな」
放課後、心配そうなマリアの問いを誤魔化し私はローザンヌ公爵の元に急ぐことにした。
「ローザンヌ公爵ってどこにいるんだろう……教育大臣だから教育府の方かしら?」
今、ローザンヌ公爵は教育大臣である。
教育府は学園などの学校施設や孤児院の統轄をしている所である、そこのトップが教育大臣だ。
「いないなぁ……」
訪ねてみたがいないと言われた。
「エリザベス王女、俺疲れたしもう帰ろう……」
「シャルル、じゃあ特別監査室に寄ってから帰りましょう…あそこは意外に情報の宝庫でもあるから何かつかめるかも」
「王女って本当に特別監査室の皆と仲良いですよね」
陽気に言うシャルルはそういう事に鈍感なようだ、私の想いに気づいてはいないようだった。ただ、特別監査室の面々と仲が良い位にしか思っていないみたいだった。
そして特別監査室では、アベルは室長らしくキビキビと動き普段軽口を叩いているヘンリーも真剣に仕事に取り組んでいた。ジューンやパレスくんもいつもよりしっかりとして見えた、真面目なカール様やションちゃんは本当にいつも通りにアベルに意見を出しているようだった。
「室長、教育大臣だけ回答が返ってきていませんね……」
「なるべく早くしてほしいんですけど……」
何か困ったことでも起きているのだろうか、アベルの顔が“フェルナンド様の不登校事件”の時と同じくらい暗いものになっている。
「アベル、ローザンヌ公爵ならさっき訪ねたけどいなかったわよ?」
「エリザベス王女、それ本当ですか?」
「そんなしょうもない嘘ついてどうするのよ」
アベルや特別監査室の空気は心なしかピリピリしているように感じて少しゾクリとした。
「おいおい、何なんだよ!こっちだっていっつも暇って訳じゃないんだよ……早く回答が貰いたいんだけどよぉ」
「ヘンリー、落ち着いてください……。」
爆発寸前のヘンリーをションちゃんが必死に引き留める。
「あの………ここに泊めてくれませんか?」
入り口の方から声が聞こえてきた、声の主はローザンヌ公爵だった。
「「ふざけんなぁ!!!!その前にこっちが出した案への回答が答えてからにしろ!」」
アベルとヘンリーの怒りは爆発したようだった……特にアベルはローザンヌ公爵に掴みかかっている、相当不満が溜まっていたのだろうか。
「ひいぃ、分かりました!回答しますからここに泊めてくれませんか……家に帰れないんです。」
そう答えるローザンヌ公爵は実年齢より10歳くらい老けてみえた。
「ねえねえ、ションちゃん……確かローザンヌ公爵ってションちゃんと歳近いよね?あんなに老けてたっけ」
「苦労してるんですよ、彼も」
ションちゃんはカール様とチェスをしながらそう言った。
「まあ、室長やベアドブーク公爵の怒りはごもっともです。それとここは泊まり宿ではないんですがねぇ」
駒を動かしながらカール様は言う。
(確かに、ここはホテルでは無いんですが……)
それにしても彼は家に帰れなくするくらいの何をやらかしたんだろう?
「つ、つ、妻に浮気を疑われてて帰れないんです……だから泊めてください!」
(浮気ですか………)
私はローザンヌ公爵から目をそらし窓の方を見た。




